スペシャルレポート Vol.2

悲鳴を上げる現役世代:後編

健保組合の解散は「国庫負担増」と
「医療費の削減・適正化手段の喪失」に直結

医療費の適正化やモラルハザードの防止など
健保組合のメリットは大きい

 三菱電機健保組合の事例で見てきたように、健保組合はさまざまな工夫を凝らし、多岐にわたる保健事業により、医療費の削減に寄与してきた。特定健診(いわゆるメタボ健診)一つとってみても、健保組合の実施率の高さは目を見張る。厚生労働省の統計によれば、2011年の特定健診の健保組合の実施率は69.2%で、共済組合(72.4%)とともに、国民健康保険(国保)(32.7%)や全国健康保険協会(協会けんぽ)(36.9%)の約2倍の実施率になっている。

関西大学名誉教授の一圓光彌氏

 健保組合のメリットはこればかりでない。医療保険制度に詳しい関西大学名誉教授の一圓光彌氏は、「健康保険の大きな利点は、給付費の増加が組合員の保険料に影響するため、モラルハザードを防ぎやすいことだ」と話す。さらに、企業への帰属意識から「保険料を払っているから、使えるだけの医療費を使わなければ損」といった考えを持つ人が少なくなるという。

 また、「運営を企業が行うことで、"企業努力"として効率的な運営を考えることができるのも大きい。自治的な保険者であるからこそ、無駄を省くとともに、独自の保健事業による医療費の削減や適正化を図ることもできる。安全配慮のため被用者本人と企業が一丸となって健康維持や病気・事故の予防に努める効果がある。健保組合の活動が円満な労使関係を築く一助となり、労働生産性の向上が図れることもメリットといえるだろう」と一圓氏は説明する。

 実際、こうした健保組合のメリットは医療費の適正化にもつながっている。「1人当たりの医療費を保険者ごとに計算したところ、健保組合を1とすると、2010年には協会けんぽが1.06、国保が1.24だった。時代とともに高齢者の医療費の割合が高まり、医療費の適正化が重要な課題となるが、健保組合はどの年代でも医療費の適正化の成果が大きい。健保組合が多くの予算を保健事業に割いて疾病予防に努めてきたことが大きく寄与している」と一圓氏(表)

保険者の"企業努力"が報われる
リスク構造調整型の医療保険制度を

 では、現行の医療保険は、こうした健保組合の利点を生かせるものになっているのだろうか。

 歴史を遡って制度の特徴を見ると、1983年に発足した老人保健制度では、それまで国庫から出ていた国保や各被用者保険の制度間の財政調整を被用者保険の保険料でまかなうことになり、健保組合はこの財政調整のために多額の拠出金を支払って、皆保険制度を支えてきた。「老人保健制度における高齢者医療費の拠出では、各保険者は、実際に加入する高齢者の割合を問わずに、全体平均と同じ割合の高齢者が加入しているとみなして算定された拠出金を支出する仕組みだった。高齢者の加入割合が全体平均よりも低い被用者保険の拠出金の規模は大きくなるが、保険者が行う保健事業などで老人医療費の適正化を図ることができれば、その成果が老人医療費の拠出金の引き下げに反映されるため、各保険者の"企業努力"が生かされる仕組みでもあった」と一圓氏は一定の評価をする。

 しかし、1990年代に入ると少子高齢化が進み、被用者保険が国庫を支えるというモデルは崩れていった。「このモデルの維持は、被用者数や賃金の増大で健保組合を大きくし続け、他の保険者を支えることが必須条件だったからだ。しかし、このモデルが崩壊した現在でも国からは健保組合による下支えへの要求は続いている」(一圓氏)。

 さらに、2008年に施行された後期高齢者医療制度では、75歳以上の高齢者の医療保険を独立させた。そのため、健保組合などの保険者は後期高齢者の医療に対して直接適正化を図るすべはない。「最大の問題点は、医療費が最も大きいところを、健康づくりの担い手と切り離してしまったところだ。それでは、健保組合ばかりでなく、保健事業などに力を入れている市町村(国保の保険者)も、やる気をそがれ、被保険者のモラルハザードの問題も浮上する」と一圓氏は指摘する。

 一圓氏は、過重な負担を負った健保組合の行く末を憂慮する。2008年に高齢者医療費の負担増に耐えかね、西濃運輸健保組合が解散した。これによりに西濃運輸の被保険者は協会けんぽに移ることになったが、そのことで新たに協会けんぽに支払われることになった国庫負担は年間約16億円と推計されている。「このように、健保組合や共済組合に支援金や納付金を負担させて国庫負担を抑えるやり方は、健保組合の解散を招くことにもつながり、ひいては国庫負担増として跳ね返る。しかも、それは、医療の適正化を進めるための要ともなる健康増進や予防事業などを行う経営主体を失うことにもなる」と一圓氏。

 では、社会資源としての健保組合のメリットを生かすためには、どのような制度が考えられるのだろうか。一圓氏は、「保険者の経営努力が自らの保険料負担の軽減に結び付く形がいい。それにはリスク構造調整の考え方が必要だ」という。リスク構造調整とは、標準的な所得に応じた保険料を全ての被保険者から徴収し、その財源で年齢構成などの医療費リスクに応じて各保険者に医療給付費を支払うものだ。この制度の場合、医療費がその予算を超えた場合にはその被保険者が保険料を追加して支払い、逆に医療費が少なくて済めば保険料率を下げてその成果を被保険者に還元することができる。

 「自分たちの努力が保険料率につながる仕組みをつくることが、皆保険制度を維持するための鍵となる」と一圓氏は話す。

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