スペシャルレポート Vol.3

医療費削減につながる適正受診

「かかりつけ医」「総合診療医」で
はしご受診・頻回受診を防ぐ

 医療機関を受診し、その診断や治療に納得がいかなければ、別の医療機関に変えて受診し、さらにまた別の医療機関へ……。そうした「はしご受診」をしてしまう人は少なくない。

 しかし、この行為は患者にとっても、社会的にもさまざまな問題がある。度重なる検査や投薬などで体に負担がかかったり、はしご受診をしている間に病気が悪化してしまう可能性もある。社会的な側面で見れば、検査や投薬などが重複することで“医療費のムダづかい”にもつながる。

 こうしたことを防ぎ、いつでも安心して医療を受けるためには、幅広く総合的に体を診て、必要ならば適切な専門医を紹介する「かかりつけ医」を持つことが重要だ。最近では、患者の体の状態だけでなく、生活も含めた全体を継続して診る「総合診療医」が注目を集めている。地域での医療の“質”を担保するため、近い将来「総合診療専門医」が制度化される動きもある。

 今回のレポートでは、「はしご受診」が抱える問題点を紹介するとともに、かかりつけ医、総合診療医を持つことの意味を紹介する。

国立国際医療研究センター国府台病院・院長の上村直実氏

 国立国際医療研究センター国府台病院・院長の上村直実氏は、ある小腸がんの患者についてこう振り返る。「手足の動脈が閉塞する難病で、ある病院の神経内科で治療を受けていた患者さんが、患者さんの判断で合併していた狭心症については別の病院の循環器内科で治療を受け、さらに消化器の症状があったために国府台病院を受診した。検査すると小腸がんであることが分かったが、よくよく話を聞くと、以前から血便があったという。患者さんが循環器内科で血便について相談した際には、痔だろうといわれていた。もしこの患者さんに、体全体を広く診て体調の変化を把握してくれる“かかりつけ医”がいれば、もっと早期にがんを発見できたかもしれない」。

 疾病ごとに専門の医師(医療機関)にかかる人は多いが、このケースのように、思わぬ落とし穴に落ちることもある。

ムダなはしご受診はわが身を危険にさらし
他人の命を危険な状態に追い込むことにも

 「はしご受診には、2つのタイプがある」と話すのは多摩ファミリークリニック院長の大橋博樹氏だ。一つは、自分の抱える一つの不調(病気)に対し、納得のいく診断をしてもらえるまで、次から次へと複数の医療機関を受診していくタイプ。もう一つが、冒頭のケースのように、自分の持っている複数の病気を、個人の判断でそれぞれ異なる専門の医師に診てもらうタイプだ(表1)

 「一番の問題は、いずれのはしご受診の場合も、多くの医師が関わるため、誰がその患者さんの体全体の健康に対する責任を持つかが明確でないところだ」と大橋氏は指摘する。

多摩ファミリークリニック院長の大橋博樹氏

 例えば、一つの不調の診断、治療のために複数の医療機関を渡り歩く人の場合、次のようなことが考えられる。「胸が痛い」という症状があるとすると、患者はまず心臓の病気だろうと考え、循環器科を受診する。循環器専門の医師は心臓病であるかどうかを調べ、心臓病なら治療するが、それ以外の場合には、「心臓病ではありません」という答えが返るだけで、患者が納得できる答えは得られない。そのため、次に肺が悪いと考え呼吸器科に行ったとしても、心臓のときと同じくそこでは肺に関わることしか診てくれない。そこでも答えが得られないと、さらに消化器内科へ、といった形ではしご受診することになる。はしごをする中で、たまたま病気が特定されることもあるが、そうした専門の医師は専門領域以外の病気は診ないため、他の病気の疑いがあれば、また適切な医療機関を見つける旅に出ることになる。もちろん、その間どこを受診するかも患者自身による“素人の判断”に基づくため、間違った選択をするリスクも大きい。

 はしご受診の問題点はほかにもある。患者自身の体に関することでいえば、医療機関を渡り歩くために時間がかかり、病状が悪化する可能性がある。また、万が一救急搬送された場合、搬送された病院が過去に受診した医療機関に問い合わせをしても断片的な情報しか得られず、その後の診療がやりにくくなる。さらに、複数の医療機関で検査などが重複して行われる可能性もある。

 一方、社会的な問題としては、まずムダな医療費がかかることが挙げられる。また、はしご受診する人の多くは大病院志向でもあるため、限りある医療資源の効率的な活用を阻む原因にもなる(表2)

 「はしご受診する人の多くは、信頼できる医師に適切な医療をしてもらいたいと考えている。そのため、医療設備が整い、多くの医師がいる大病院がよいと思ってしまう。しかしそれらの人の中で、本当に専門医の治療を受ける必要がある人はほんの一握り。そのために大病院を受診する必要のない人で外来はあふれ、専門医が忙殺され、本来救えるはずの人を救えなくなることにもつながる」と大橋氏は話す。

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