スペシャルレポート Vol.3

医療費削減につながる適正受診

「かかりつけ医」「総合診療医」で
はしご受診・頻回受診を防ぐ

信頼できるかかりつけ医がいれば
はしご受診の必要なし

筑波大学医学医療系地域医療教育学教授の前野哲博氏

 こうしたはしご受診が起こる原因を筑波大学医学医療系地域医療教育学教授の前野哲博氏は次のように語る。「患者が欲しいのは“安心”だ。しかし、安心して受診できるところがどこか分からず、納得できる答えが得られるまで医療機関を探してしまう。患者は安心を買うために医療機関を渡り歩く一方、日本の医療制度では、医療機関の選択は患者に委ねられ、さらにどこに何度受診しても、同じ保険料の自己負担で治療を受けることができる。こうしたこともはしご受診を助長する要因となっている。現在、200床以上の病院については、初診時に紹介状がない場合には選定療養費として別途料金がかかることがあるが、それにより受診のハードルを上げると、患者は不安との板挟みになる」。

 こうした数々の課題の解決策となるのが、総合的な診療能力を有するかかりつけ医だ。かかりつけ医とは、日常的な診療から健康管理まで、トータルに提供できる医師のこと。

 「かかりつけ医を持っていれば、はしご受診をしなくても、適切な医療を受けることができる。また万一、他の医療機関を受診したいと思った場合でも、症状などから一番可能性の高い診療科に紹介するなど、かかりつけ医が“船頭”となって、その道筋を教えてくれる。経済面でもメリットがあり、初診時の選定療養費が不要になるほか、数多くの医療機関を渡り歩かなくてよい分、医療費の節約にもなる」と大橋氏は説明する。

患者本人に加え家族全員の健康を把握する
かかりつけ医が求められる

 今後、超高齢社会を迎える日本では、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的に、住み慣れた地域で自分らしい人生を続けることができるようにと、厚生労働省が地域の包括的な支援・サービス体制(地域包括ケア)の構築を推進している。その中においても、日常の医療の担い手として活躍が期待されているのがかかりつけ医だ。

 「かかりつけ医は、その地域で患者さん本人ばかりでなく、家族全員の健康に関わる。家族の病歴や健康状態を把握しているので、万が一の場合にも素早く対応できる。今後の日本の医療の屋台骨を支える役割を果たすといっていい。諸外国では、地域医療の9割はかかりつけ医(プライマリケア医、家庭医)で対応できることが示されている」と大橋氏。

 しかし、現状ではかかりつけ医の中でも資質にばらつきがあることは否めない。それは、総合的な診療ができるかかりつけ医を目指して卒後臨床研修でも総合診療や地域医療などを学び、幅広い知識を身につけた医師もいれば、もともとは消化器や循環器などを専門としていた医師が開業し、専門領域以外の知識や経験が少ない場合もあるからだ。

 こうした現状の中、日本の専門医制度の中で、「総合診療専門医」を制度化し、一定の総合診療の能力を持った医師についてはそれを標榜できるようにする動きが進んでいる。

 前野氏は、「総合診療医に必要な能力は、バランスよく、大きな穴がないこと。例えば、健診で初めて血糖値が高いと指摘された患者さんに適切な診断、初期評価、生活習慣指導ができる。うつ病を診断し、適切な患者指導と専門医への紹介ができる。転んで足をひねった患者に適切に対応できる。発熱と下痢で受診した子どもの初期治療ができる。介護保険の主治医意見書を書ける──などが必要な能力として挙げられる。他の専門医の場合、このうち一つだけは簡単にできるかもしれないが、全てを満遍なく行うのは難しい。総合診療医はまさに“総合力”が求められる」と語る。 

6つのポイントでかかりつけ医を見極める

 総合診療専門医が制度化されれば、地域医療の底上げにもつながる。適切な医療を受けるためにも、医療費の増大を食い止めるためにも、今後は体全体を診てもらえる“なじみのお医者さん”をつくりたい。とはいえ、「信頼できるかかりつけ医を見つけられない」という人もいるだろう。そこで、実力のあるかかりつけ医の見極め方を大橋氏と前野氏に聞いた。見極めのポイントは6つ。

 1つ目は患者の訴えを十分に聞いてくれること。訴えを熱心に聞くのは、患者のいろいろな情報を集め、対処したいという思いの現れだ。ただし、診察時間は長ければいいというものではなく、短時間でも訴えのポイントをしっかりと聞き取ってくれることが肝心。専門外の相談にも親身に対応してくれる医師がいい。

 2つ目が、患者からの質問に素早くきちんと答えてくれること。根拠なく「まあ大丈夫」といわず、納得できるように論理的に説明してくれる医師がいい。

 3つ目は、重篤な疾病が隠れている場合のチェックポイントを教えてくれること。例えば腰痛の患者の場合、「発熱、痛くて眠れない、体重が減少した」ということがあれば、単なる腰痛ではなく化膿性椎間板炎や悪性腫瘍の疑いがある。「こうした症状が出たら、受診してください」といえるのは、その医師が多種多様な病気を疑い、その鑑別ができているということでもある。

 4つ目は、その医師が全ての年齢の患者に対応していること。1人の健康を支えるには、その背景を見ることも重要になる。家族全員が受診していれば、家庭の背景から病気の本質が見えてくることもある。「例えば、子どもの喘息の原因が母親の喫煙で、母親の喫煙の原因は嫁姑間のトラブルや夫との関係による神経症にあるといったことがよくある。そうなると、子どもの喘息を治すには、その上流にさかのぼって介入する必要が出てくる」(大橋氏)。

 5つ目は、予防的な指導も積極的に行ってくれること。

 6つ目は、第一印象で好感が持てること。笑い話のようだが、医師の資質の有無とは別に、患者と医師の相性も治療を行う上では重要なファクターなのだ。気持ちよく診療してもらうには、気が合いそうかどうかも見極めよう(表3)

 余談だが、しっかり診察してもらうには、患者も言葉で感謝の意を伝えることも大切だ。「医師は患者さんからの信頼を食べて生きている。信頼されているという実感があれば、モチベーションも上がる」(前野氏)。

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