スペシャルレポート Vol.5

高齢化で企業・現役世代が直面する限界

医療経済の視点から探る
増大必至の"高齢者医療負担"への処方箋

 少子高齢化が進む中、日本の医療制度も転換期を迎えている。増え続ける医療費の適正化を図るためには、効率的な医療サービスの提供が不可欠だ。同時に、増大する高齢者医療費を誰がどのように負担するかも大きな課題だ。

 今回のレポートでは、国民皆保険制度を堅持するに当たって乗り越えるべきハードルとその解決策について、医療経済の視点からまとめた。

 国立社会保障・人口問題研究所のデータによれば、日本の総人口は減少し続けており、2060年には8674万人になると推計されている。これは、2010年からの50年間で、人口の約3分の1が減ってしまうことを意味している。問題は人口の減少ばかりではない。減少した後の年齢構成が大きく変化する。総人口に占める生産年齢人口(15〜64歳)の割合は、2010年の約64%から2060年は約51%に落ち込むことが予想される一方、65歳以上の人口は2010年の約23%から2060年には約40%へと大きく増加することが見込まれている(図1)

このように超少子高齢化で若年労働力が急速に減少する中、大きな課題となってくるのが医療費の負担だ。

高齢化で増大する医療費に対応するには
医療サービスの提供方法と、費用の負担方法がカギになる

 日頃その恩恵に預かっていると、ありがたみを認識しづらいが、日本の国民皆保険制度は、誰でも、いつでも、どこでも医療が受けられるという、世界でも類を見ないものだ。今後もこの国民皆保険制度を維持するためには、超少子高齢化により増大する医療費に対応した医療サービスの適切な提供方法と、その費用の負担方法に対する工夫がカギとなる。

 年金制度は、現役世代が支払った保険料がその時々の高齢者の年金給付としてストレートに充てられており、"所得の移転"だけで成立している。一方、医療サービスの提供は、診断・検査・投薬など、費用が変動する要素で構成されており、しかも受診する人数・年齢などによって費用の総額(総医療費)が変わってくる。医療費が増えれば、保険料も上昇し、その負担は現役世代にも重くのしかかる。つまり疾病を抱えることが多い高齢者が増加し、一方で保険料を支払う生産年齢人口が減少すれば、医療保険制度の根幹が揺らぐことになる。

 政策研究大学院大学教授の島崎謙治氏は、「高齢化の加速や医療技術の進歩により医療費は増加する一方、経済の潜在成長率は低く保険財政の制約は強まる。このため、"費用に見合った価値"の向上、つまり医療の効率化が一層求められる」と指摘する。

適正な自己負担増・自己負担率の設定も今後更なる議論に

 では、医療サービスの提供方法をどう変えればいいだろうか。日本の医療制度の最大の特徴は、いつでも、何度でも希望する医療機関を受診できる「フリーアクセス」だ。これは、私たちにとって、大きな安心となっている。しかし一方で、さまざまな弊害をもたらしていることも否めない。例えば、その一つが、医師の診断や治療に納得がいかず医療機関を転々と渡り歩く「はしご受診」だ。同じ疾病で複数の医療機関を受診することは、大きな医療費のムダとなる。

医療経済研究機構所長の西村周三氏

 医療経済研究機構所長の西村周三氏は、「近年、ICT(情報通信技術)の進展により、患者一人ひとりのレセプト(診療報酬明細書)のデータを分析することで、その人がどのような受療行動をとっているのかが分かるようになった。今後はこうしたデータを使い、同じ疾病で複数の医療機関を受診する場合、個人の支払う負担を増やすといった形で回数制限をかけるなどの対応も必要になるかもしれない」と話す。

 また、患者の「大病院志向」への歯止めも重要だ。大学病院などの医療機関は、専門性の高い医療を提供するために高度な設備や手厚い人員配置をしている。しかし、こうした大病院の外来に人が溢れると、大病院は本来の先進的な医療サービスを提供すべき患者たちへの医療に集中できなくなる。その適正化を図るために現在、大病院における初診時の「選定療養費」が設定されている。これは、紹介状を持たずにベッド数が200床以上の病院にかかった場合、初診料と再診料を病院が任意の額を加算できる仕組みである。厚生労働省は今後、この初診料、再診料を全額自己負担とする方向で検討中だ。

 「今後は、ある程度のフリーアクセスを堅持しつつ、かかりつけ医から専門医への紹介という効率的な患者の受療行動を誘導するやり方が望ましいだろう」と西村氏。

 さらに西村氏は、「疾病の違いにより自己負担率を変えるといった工夫も考えられる。例えば、2型糖尿病などの生活習慣病は、一人ひとりが努力して生活習慣に留意することで、発症や重症化をある程度抑えることができる。こうしたことを考慮すると、疾病を3〜4タイプに分け、それぞれのタイプによって医療費の自己負担率を変えるという方法もあるのでないか。ただし、遺伝的な要因についての配慮を忘れるべきではない」と説く。

  • 01
  • 01
  • 01
  • 01