スペシャルレポート Vol.5

高齢化で企業・現役世代が直面する限界

医療経済の視点から探る
増大必至の"高齢者医療負担"への処方箋

国民皆保険制度を維持するには
患者一人ひとりの"医療リテラシーの向上"が不可欠

 仮に、こうした疾病の違いにより自己負担率を変えるといった施策をとるには、国民一人ひとりが医療・健康情報を収集・理解し、効果的に利用する個人的能力(医療リテラシー)を高めることも重要だ。

 そのために有効なのが、健康保険組合(健保組合)などの保険者が行う特定健康診査(特定健診)・特定保健指導だ。これは、40歳から74歳までの全ての被保険者、被扶養者に対して行われるもので、特定健診によりメタボリックシンドロームやその予備群の人を抽出し、特定保健指導を行うことで生活習慣病のリスクを低減しようというものだ。

 実際の実施率はまだ低い(表1)。しかし、厚生労働省の「特定健診・保健指導の医療費適正化効果等の検証のためのワーキンググループ」による中間とりまとめでは、特定保健指導により、積極的に支援された人の2〜4割が改善した(図2)。健保組合などの保険者が積極的に保健指導を行うことで「生活習慣病は自分で"防ぐ"、"治す"」といった意識付けがなされ、被保険者は受療行動に関するアドバイスも受けられる。保険者のこうした取り組みが、被保険者の医療リテラシーを高める一助となる。

後期高齢者医療制度では、保険者の特定健診・特定保健指導の実施率の多寡により、その保険者が支払う後期高齢者支援金を加算あるいは減算するシステムをとっている。西村氏は、「加算、減算の率は決して大きくはないが、保険者の"やる気"を引き出すには、ある程度の効果が期待できる」と一定の評価をする。

今後は高齢者も応分の負担が必要に
まずは窓口での一部負担率を現役世代と同程度に

 では、もう一方の医療保険財政の面では、どのような視点が必要だろうか——。急激な高齢化に伴い、医療費は増大の一途をたどり、医療費に占める高齢者医療費の割合は全体の3分の1を超えている。その一方で、高齢者の医療費の一部負担率は1割と、現役世代の3割を大きく下回る。

 「20年前までは高齢者の医療費の負担が少ないのは当たり前という風潮があったが、現在はそれも変わってきた。今後は高齢者にも、ある程度の負担をしてもらうことが必要になるだろう。さらに、増大する医療費をまかなうためには、消費税を財源とした更なる公費の投入も回避できない」と西村氏。

 島崎氏も、「医療費の財源は、"社会保険料"、"公費"、"患者の自己負担"の3つしかない。社会保険方式をとる以上、今後とも社会保険料を中心とすべきだが、高齢化の進展や低所得者の増加を踏まえると公費の拡充も必要だ。また、世代間の負担の公平を図るには、現役世代に比べて低くなっている現在の高齢者の一部負担率は、現役世代と同程度になるよう見直すべきだ」と話す。

 また西村氏は、「世代間の公平性を保つには、年金の所得控除額の見直しも必要だろう」との見解を示す。

医療保険制度の根本的な見直しも必要

 現在の医療保険制度では、現役世代と高齢者世代、また健保組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)などの被用者保険と地域保険である国民健康保険(国保)の間での公平性が課題となっている。

 現行の医療保険制度は、64歳までが被用者保険と国保の2本立てとなっており、65歳以上の全ての人はそこから離れて高齢者保険になる"独立方式"をとっている。しかし、それにより、医療費が最も大きくかかるところを、健康づくりの担い手にもなり得る被用者保険から切り離すことになり、健保組合などの保険者は自らの保険者機能によるコントロールのきかないところで、増え続ける高齢者医療費を負担しなければならなくなる。

 一方、以前より出てきている制度設計案が、全ての医療保険制度を分けずに一つにするという"一元化方式"だ。このほか、独立方式のように年齢による区分けを付けず、被用者保険では退職者も含めて被用者保険で支え、国保は国保OBも含めて国保の現役世代が支えるという"突き抜け方式"の考え方もあった。

 西村氏は、「昔は企業は永続するものとの考えがあったが、今は違う。次々と出てくる新興企業では退職者などの高齢者がおらず、突き抜け方式は結果として世代間の不平等が問題になる。そのため、理論的には"所得・年齢構造調整方式"が望ましいと考えている。これは、加入している医療保険にかかわらず、所得構成・年齢構成で調整して保険料を定めるというもの。ただしその場合、高齢者の負担が相対的に軽くなる可能性があるので、消費税を投入してカバーすることも必要だ」と話す。これは、大きな意味では一元化方式と同じだといえる。

 一方、島崎氏は「日本の被用者保険は"カイシャ"、地域保険(国保)は"ムラ"という強固な共同体を基盤として生成したものであり、保険集団の設定と社会の実態が適合していた。だが、今日では産業構造や人口構造の変容によって、被用者保険と地域保険(国保)の境界が曖昧になっている。被用者保険と地域保険(国保)を統合する"一元化論"が主張される背景だ。しかし、被用者と自営業者等では、稼得形態が異なるだけでなく所得の捕捉率が違う。さらに被用者保険の加入者は国民全体の約6割を占めており、被用者保険の存在意義は決して薄れたわけではない。従って、一元化は適当ではなく、2本立ての体系を維持した上で、被用者の適用範囲の拡大などを進めるべきだ。また、保険者間の財政力格差の調整は、公費のほか"年齢リスク構造調整方式" によって是正するよりない」(図3)と説明する。

いずれの方式をとるにせよ、長期的な視点に立ち、公平性に配慮した制度設計が望まれる。西村氏は、「これからの高齢化を考えれば、公費、保険者、自己負担のいずれかのみに大きく負担を強いることはできない。"三方一両損"を是認した上で、適正な高齢者医療制度をつくり上げるしかないだろう」と語っている。

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