スペシャルレポート Vol.6

病気は「治す」から「防ぐ」時代

健診・人間ドックを上手に活かす

 「面倒だ」「時間がない」と敬遠する人も少なくない定期健康診断(健診)や人間ドック。しかし、健康を維持するには、定期的に自分の体の状態をチェックすることが大切だ。定期健診や人間ドックでは、がんや生活習慣病などの病気を早期に発見できるだけでなく、病気になる手前の段階で生活習慣に対するアドバイスを受けることで健康に対する意識を高め、病気を未然に防ぐ効果があると考えられる。長期的に見れば、日本の医療費の削減にもつながる可能性がある。

 健康のためにも、医療費削減のためにも是非とも受けたい健診だが、実際には定期健診と人間ドックの違いが分からないという人も多いのではないか。今回のレポートでは、定期健診と人間ドックの内容と意義を解説するとともに、上手な受け方を紹介する。

 あなたは毎年きちんと定期健康診断(健診)や人間ドックを受けているだろうか。日本人間ドック学会の調査によると、ここ数年間の人間ドックの受診者は横ばい状態が続いている。忙しさから定期的に健診を受けない人もいるようだが、健診はただ受けるだけでなく、毎年継続して受けることにも大きな意味がある。「人それぞれ健康なときの状態は違うもの。定期的に健診を受ければ、以前の状態との比較で変化が見極めやすく、疾病の早期発見につながりやすい」と日本人間ドック学会副理事長でグランドタワーメディカルコート ライフケアクリニック所長の伊藤千賀子氏は定期的な健診の意義を強調する。

多彩な検査オプションがある人間ドックは
目的に合わせて任意で検査項目が選べる

 実は企業には労働安全衛生法で年に1回以上の定期健診が義務付けられており、会社員であれば、毎年定期健診を受ける機会はあるはずだ。一方、法律的な義務のない健診が人間ドックである。両者のもう一つの違いは検査項目だ。定期健診では、胸部X線や血圧、肝機能など11の検査項目が定められているが(表1)、人間ドックはそれ以外の多くの血液検査や超音波検査、内視鏡検査、がん検索など、多彩な検査オプションがあり、任意で検査項目を選べるのが特徴。それにより、がんや生活習慣病の早期発見、予防を図れる。

 人間ドックの特徴を考慮し、企業健診でも、労働安全衛生法で定められた定期健診だけでなく、人間ドックの検査項目を付加して健診を行ったり、人間ドックの費用補助を行ったりするところも少なくない。これは福利厚生の充実という側面もあるが、発症すれば業務にも大きな影響を及ぼすがんや生活習慣病の早期発見と予防を目的とした人間ドックを行うことで、労働生産性の維持や医療費の削減を図りたいという考えが企業に広まってきたことも背景にある。

グランドタワーメディカルコート ライフケアクリニック
所長の伊藤千賀子氏

 実際、定期健診だけでは生活習慣病を見逃されていたケースもあるという。「定期健診の項目にも血糖検査が入っているが、40歳未満の人の場合、医師が必要でないと認めればこの項目の検査を省略できる。ある30歳代の人は、毎年定期健診を受けていたが、血糖検査が省略されていたために異常を指摘されることがなかった。しかし、勤める企業が若年者にも必ず血糖検査を行う方針にした結果、その人は血糖値が正常値の3倍を超える重度の糖尿病であることが分かった。定期健診の項目が省略されていなかったり、人間ドックを受けていれば、こうしたことは避けられたはずだ」と、伊藤氏は指摘する。

人間ドックには医療費削減効果も期待できる

 人間ドックは定期健診に比べて医療費削減効果があるという報告もある。NTT西日本高松診療所予防医療センタ所長の福井敏樹氏らは、人間ドックと定期健診の受診者を対象に健診後にかかった医療費を追跡調査して比較した結果、人間ドック受診者で医療費削減効果が示されたという。

NTT西日本高松診療所予防医療センタ
所長の福井敏樹氏

 福井氏らの研究では、四国エリアの40歳代と50歳代のNTTグループ社員を対象に、2003〜2005年まで3年間連続で定期健診を受けた人(定期健診群:40歳代332人、50歳代843人)と、同じく3年連続で人間ドックを受けた人(人間ドック群:40歳代308人、50歳代1492人)を抽出。その後にかかった年間医療費を2006〜2010年までの5年間追跡した。「NTT社員は定期健診を受けるか人間ドックを受けるかを自分の希望で選択できる仕組みになっており、いずれかの健診の受診率は毎年ほぼ100%となっている」と福井氏。

 追跡調査の結果、1人当たりの受診後5年間の累積医療費は、40歳代男性の場合、定期健診群は62万9000円であるのに対し、人間ドック群では48万6000円で、14万3000円の医療費削減効果が認められている。さらに、50歳代男性では、定期健診群の累積医療費が116万円、人間ドック群が83万円であり、その差は33万円へと拡大していた(図1)

「人間ドックと定期健診の費用の差を考慮しても、人間ドックの継続が医療費削減につながることが示されたといえる。一方、50歳代男性の年間医療費について、年間医療費が300万円以上の人を除外して解析すると、定期健診群(69万円)と人間ドック群(68万5000円)でほとんど差はなかった。一般に医療費を引き上げるのは、入院や手術の費用だ。人間ドックでは、早期がんを発見することができる。早期であれば大掛かりな手術なしに治療が可能となるケースも多いため、人間ドックが医療費削減に貢献するものと考えられる。また、自ら選択して毎年人間ドックを受け続ける人たちは、既に健康に対する意識レベルが高い人たちであるとも考えられ、いかに自分の健康管理に対する意識を上げることができるかも医療費削減のポイントになると考えられる」と福井氏は分析する。

 ただし、女性の場合は男性のような効果は認められず、50歳代女性の累積医療費は、定期健診群で69万円、人間ドック群は65万円であり、その差は4万円と小さかった。また、40歳代女性の累積医療費については、人間ドック群の方が6万9000円高かった。「女性は男性に比べ、40歳から60歳では高額医療費を要する疾病の発症の確率が低いのが原因かもしれない」と福井氏は話す。

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