スペシャルレポート Vol.7

経営を圧迫する保険料率の値上げ

企業における医療コストの急激な上昇が
生産活動を蝕む要因に

医療保険制度改革が議論されている厚生労働省社会保障審議会医療保険部会

 現在、厚生労働省社会保障審議会医療保険部会で医療保険制度改革が議論されている。論点の一つが、高齢者医療への新たな負担方法だ。企業の従業員が加入する健康保険組合(健保組合)や公務員が加入する共済組合などに一層の負担を求める案が厚労省から示されている。

 高齢者医療負担に伴う保険料率の値上げは、現役世代一人ひとりの負担が増すだけでなく、その半分を支払う企業にとっても大きなコスト増大につながる。この"見えない人件費"といえる医療コストは、日増しに企業経営の圧迫要因となっており、今後もさらに脅威となることが予想されている。

 今回のレポートでは、社会保障審議会医療保険部会での医療保険制度をめぐる動きや、企業における医療コストの上昇が生産活動に与える影響について探った。

 2014年10月6日、医療保険制度改革に向けて議論が続いている厚生労働省社会保障審議会医療保険部会(部会長:学習院大学経済学部教授の遠藤久夫氏)では、論点の一つとなっている高齢者医療への負担の仕組みについて、厚労省から新たな案が提示された。その案は、現役世代の加入者が多い健保組合などに、更なる負担を求めるものだった。

健保組合などに更なる負担を求める
社会保障審議会での厚労省案

 この日まで議論されてきたのは、後期高齢者(75歳以上)に対する現役世代の支援金の新たな負担方法と、それによって浮いた公費の使い道だった。後期高齢者の医療給付費は高齢者の保険料(約1割)、現役世代の保険料による支援金(約4割)、公費(約5割)で支える仕組みとなっている。このうち支援金については、健保組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)などの各被用者保険の加入者数(0〜74歳)で頭割りする加入者割で3分の2を、加入者の平均所得に応じて分担する総報酬割で3分の1を負担する方法が採用されている。これは、被用者保険間で財政力にバラツキがあるための措置だ。これを全て総報酬割にする案を厚労省は提示しており、この案自体には負担増が見込まれる健保組合も反対の態度はとっていない。ただし、全面総報酬割導入によって協会けんぽの負担が減り、現在、協会けんぽに投入されている公費(国庫負担)を、市町村が運営する国民健康保険(国保)の赤字部分に充当しようとする厚労省案に対しては、健康保険組合連合会(健保連)、協会けんぽ、日本経済団体連合会(経団連)、日本商工会議所、日本労働組合総連合会の被用者保険関係5団体が「国の財政責任を被用者保険に転嫁するものであり、断固反対である」との要望書を厚生労働大臣に提出していた。

 10月6日の医療保険部会で新たに示された厚労省案は、「前期高齢者(65〜74歳)が負担する後期高齢者支援金部分」については、全面総報酬割ではなく、総報酬割をベースに前期高齢者の加入率による調整を行うというものだ(図1)。前期高齢者を多く抱える保険者の負担を調整する狙いがあるが、この案では報酬が高く前期高齢者加入率が低い健保組合や公務員が加入する共済組合の負担がさらに増えることになる。厚労省の試算によると、前期高齢者が負担する後期高齢者支援金部分を含めて全て総報酬割とした場合、協会けんぽは2100億円の負担減、健保組合は1300億円の負担増、共済組合は800億円の負担増(表1の案①)。一方、前期高齢者が負担する後期高齢者支援金部分に前期高齢者の加入率を加味した場合、協会けんぽは2400億円の負担減、健保組合はさらに200億円増えて1500億円の負担増、共済組合も200億円増えて1000億円の負担増となる(表1の案②)。協会けんぽに投入される公費2400億円が丸々不要となる計算だ。

これに対し、被用者保険関係団体から、「全面総報酬割導入で削減される公費の使い道もセットで議論する必要がある。今でさえ高齢者に対する拠出金負担で被用者保険は財政的に苦しい状態になっており、制度そのものを見直すべきだ」「全面総報酬割導入で削減される公費の使い道については、被用者保険の負担軽減に用いられることが筋である」などの意見が出された。

社会保障負担増は"見えない人件費"として、
企業の競争力に影響を及ぼしている

 また、「前期高齢者医療にも制度的に公費を投入し、納付金の負担を軽減する方向で考えてほしい」との要望もあった。2015年度から団塊の世代が全て前期高齢者になり、被用者保険が負っている納付金が急激に増加していくことが想定されるからだ。健保連が発表した2014年度の予算早期集計結果によると、健保組合の保険料収入に対する高齢者医療負担の割合は45.4%に達し、被保険者1人当たり額は46万6616円(前年度比1万773円、2.36%の増加)で、2007年度に比べて8万3004円も増えている。このように、少子高齢化の影響は現役世代一人ひとりの負担の増大をもたらすが、問題はそれだけにとどまらない。厚生年金や健康保険などの社会保険料は、企業と従業員が折半して支払うことになっているため、企業の負担も増大し、経営圧迫の要因の一つとして捉えられようになった。

大和総研コンサルティング・ソリューション第一部
副部長の佐井吾光氏

みずほ総合研究所調査本部政策調査部
上席主任研究員の堀江奈保子氏

 「企業が支払った社会保険料は経理上、法定福利費として計上する。この法定福利費は広い意味での人件費であり、社会保障負担増は"見えない人件費(コスト)"として、企業の競争力に少なからぬ影響を及ぼしている」と、大和総研コンサルティング・ソリューション第一部副部長の佐井吾光氏は指摘する。

 みずほ総合研究所調査本部政策調査部上席主任研究員の堀江奈保子氏も「協会けんぽの保険料率が10%なので、今後健保組合の保険料率がそれを超えるなら、健保組合が上乗せする付加給付のメリットを相殺することになる。全面総報酬割が導入されれば、これまで以上に負担が大きくなり、経営者としても健保組合の解散などを考える可能性が出てくる」との見方を示す。

 また、パートなどの短時間労働者は、現行では週30時間以上の勤務が被用者保険の適用要件となっているが、週20時間以上、賃金が月額8.8万円(年収106万円)以上、勤務期間が1年以上見込まれることなどを要件として適用拡大される方針が決定しており、2016年10月から施行予定だ。規模501人以上の企業は強制適用対象となる。堀江氏は「短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大は、小売業、サービス業などで負担増となる可能性があり、特にパート率が50%を超える企業は影響が大きいだろう。今後、働き方の見直しが迫られることになる」と話す。

  • 01
  • 01
  • 01
  • 01