スペシャルレポート Vol.7

経営を圧迫する保険料率の値上げ

企業における医療コストの急激な上昇が
生産活動を蝕む要因に

企業や健保組合の努力が及ばないところで
高齢者医療負担が増え続けている

龍角散社長の藤井隆太氏

 こうした現状を企業の経営者はどのように見ているのだろうか。製薬メーカーである龍角散社長の藤井隆太氏は「高齢者医療に対する拠出金は企業や従業員の努力の及ばないところで、負担がどんどん増えている。現役世代や企業が高齢者医療を支える必要はあるが、厳しい経済状況下で経営を余儀なくされている企業にとって、無条件で負担が増大するのは問題がある」と話す。同社が加入している東京薬業健康保険組合は、医薬品・化学薬品・医療器具機械などの製造・卸販売・小売の事業所で働く人達を対象とした総合健康保険組合で、2014年9月現在、事業所数は1526、被保険者数は約23万人(特例退職被保険者を含む)。「東京薬業健保組合の被保険者は若い人たちが多いため、保険料の伸びはある程度抑えられているが、同じ薬業健保組合でも地域によって保険料率の格差が見られ、財政的に苦しいところもある。実際、"うちの健保組合が財政的に危なくなっている。どうしたらいいだろうか"と相談を受けたこともある」と藤井氏。

 また、日本商工会議所社会保障専門委員会の委員であり、厚労省の医療保険部会委員でもある立場から、藤井氏は「財政的に苦しくても必死になって保健事業に取り組んでいる健保組合がたくさんあり、そうした一つひとつの努力の積み重ねが医療費全体の削減に寄与している。従って、財政的に苦しければ健保組合を解散して協会けんぽに入ればいいという単純な話ではなく、保険者の努力にきちんと報いる仕組みにならないと、制度が続いていかないと思う」と強調する。しかし、現状は健保組合の保険者機能が削がれつつある、と藤井氏は続ける。「経費削減のため、保養所やトレーニングジムを閉鎖したり、人間ドックの補助を打ち切ったり、健康啓発のための冊子作成を止める健保組合が目立つようになった。医療費削減の観点からも、企業が進める健康経営の観点からも、よくない状況だ」

"健康経営"と"高齢者医療負担"に対する意識が
企業経営にとってさらに重みを増す

 高齢者医療負担に喘ぐ現役世代と企業——。藤井氏は「構造的な問題に何も手を入れずに、保険者間で負担を調整しても問題の解決にならない。現役世代の負担が限界に達していることを鑑みれば、高齢者医療制度そのもののあり方を抜本的に見直すとともに、例えば高所得の高齢者にも応能の負担をしてもらわなければ、国民皆保険を維持していくのはますます困難になるだろう」とした上で、こうした状況に陥った遠因に、日本人の健康保険制度に対する意識の低さがあると指摘する。「国民皆保険制度があるのが当たり前と思っていて、医療費削減のための努力が不足している。それは、必要以上に医師に薬の処方を要求したり、救急車をタクシー代わりに使うことなどに表れており、医療費のムダにつながっている。セルフメディケーションをベースにし、必要なときに医師の判断を仰ぐのが基本的なあり方だと思う。こうした考え方に立つと、経営者としては少子高齢化の時代に即した健康保険制度の仕組みを求めると同時に、企業は健康経営を推進し、健保組合には保健事業の強化を図ってもらうことが、国民皆保険制度の維持のために必要だ」と話す。

 大和総研の佐井氏も「企業にできるのは、できるだけ社員の健康度を上げること」という。同社では大和総研モデルとして"健康経営度チェックリスト"を作成。2014年6月から7月にかけて東証1部・2部上場企業2353社にアンケート調査を行った(回収率約11%)。その結果、全体の68.5%の企業が社員の健康増進のための組織を設置し、94.8%の企業が社員の健康状況を把握していたが、医療費の傾向分析を行い、課題が明確になっている企業は15.9%にとどまっていた(図2)
※大和総研ホームページ:http://www.dir.co.jp/release/2014/20140925_008971.html

「企業の健康経営に対する意識の高まりが見られた一方、まだ施策が不十分な企業も多い。生活習慣病や重篤な病気になる予備軍を見極め、早めに対処する必要がある」と佐井氏。同調査レポートでは、健康増進に対する意識の高さは役職・年齢・部署によってバラツキが大きい傾向が見られ、改善の余地があることが分かった。経営トップと従業員がともに、健康経営と高齢者医療負担という"見えない人件費"に対する意識を一層高めていかなければいけない時代が、眼前に迫っている。

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