不動産所有の「会社」ごと売買 税負担も軽減

後継者難という譲渡企業側の理由は共通だが、不動産の売却を目的とする例もある。不動産M&Aと呼ばれる形態で、不動産を不動産として売却するのではなく、それを保有する会社ごと譲渡するという形態だ。

不動産賃貸会社F社は従業員2人で売上高5000万円。社長は65歳を機に会社を畳んで、海外に移住することを望んでいたことから、保有する収益不動産の処分を検討していた。

収益不動産を新たに購入しようと考えていたのは、同じく不動産賃貸会社のV社である。従業員は5人で売上高は5億円。収益不動産10棟を所有していたが、社長が40歳と比較的若いこともあって、購入意欲は旺盛だった。

互いの利害は一致するものの、問題が一つあった。「不動産の売却や購入にかかるコストです。対象不動産は含み益が2億円あり、不動産として売買するとその譲渡益に多額の税が課されます」と、篠田氏は解説する。

そこで名南M&A側で提案したのが、不動産として売買するのではなく、その不動産を所有する会社ごと売買するという手法だ。売買の対象が株式なら、F社に課される税は税率がより低い株式譲渡益課税で済む。またV社にとっても、不動産取得税など購入時に課される税の負担を免れることができる。

「不動産M&Aの提案は双方にとって願ってもないスキームで、話はとんとん拍子に進みました。F社社長は株式譲渡の対価を得る一方、収益不動産と法人格をともに整理できました。V社は子会社としたF社を通じ、新しい収益不動産を確保できたわけです」(篠田氏)

後継者難の中小企業には、事業承継に向けて国もかねて支援策を講じてきた。中小企業が廃業に至ってしまうと、事業を営んでいた地域での雇用が失われると同時に、経済力も損なわれてしまう。産業政策の立場から、事業承継を支援し、それを食い止める狙いだ。

図3/国は株式対価M&Aの円滑化を進める

さらに、ベンチャー企業の将来成長を後押ししようと、今国会では株式対価M&Aの円滑化が図られる見通しだ(図3)。譲受企業側はM&Aに用いる対価として自社株を利用しやすくなる一方、譲渡企業側は株式の譲渡益課税に繰り延べ措置が認められるためM&Aに応じやすくなるという。

国を挙げてM&Aを後押ししていく中、後継者難で譲り渡したい、事業拡大に向けて譲り受けたいというニーズに支えられ、M&Aマーケットは今後とも活況を見せそうだ。

とりわけ盛んになると目されるのは、自動車業界。背景には、電気自動車(EV)化の波がある。

「エンジン回りの部品を製造している会社にとっては、将来が不安です。そこで、EV化を見すえて自動車以外の領域に次の柱を打ち立てようと、事業領域の異なる会社を譲り受けようという動きがみられます。自動車業界の構造は一変するのではないでしょうか」

篠田氏は今後の業界動向に熱い眼差しを向ける。

CASE STUDY
名南M&Aの仲介実績から厳しい経営環境の下、M&Aで企業が抱える課題の解決を図る

事例1と事例2はともに、譲渡企業の後継者難がM&Aの交渉を始めたきっかけにある。廃業ともなれば、少ないながらも従業員を路頭に迷わせることにもなりかねない。それを避けようと、経営者がM&Aに望みを託した。

譲受企業側の経営環境も決して安泰ではない。建設機械部品加工のB社も建設業のD社も、収益を左右する公共工事が減ってきたことから、打開策を探っていた。B社は経営状況に余裕のあるうちに異業種に進出し相乗効果を上げようと、D社は隣接市町村で建設工事の指名競争入札に参加できる指名業者の立場を得ようと、M&Aを活用した。

譲渡企業側の事情は後継者難に限らない。例えば事例3は、金型製作を請け負うE社が顧客ニーズの多様化を背景に製造機能を持つ必要性を感じたことから、M&Aに至った。同社は自動車1次パーツメーカーと取引し、創業間もない企業でありながら急成長を遂げていた。ただ、製造機能を持つほどの投資余力はなかった。

一方、金型・鋳物・成型製作を請け負うF社は、自動車部品の中で主に試作品の製作を手掛けてきた。ただ、製造機能は持つものの、孫請けやひ孫請けに甘んじていた。利幅の薄い商売から脱しようと、自動車1次パーツメーカーとの直接取引を願っていた。もともと取引関係にあった両社は、E社社長がF社社長に資本提携を持ち掛け、M&Aに向けた交渉を進めてきた。成約に至ったことで、E社はF社の設備を利用できるようになり、F社はE社の販路を利用できるようになった。

このほか、事例4ではシェア拡大などを目的にM&Aが成立している。M&Aはこのように、企業が抱えるさまざまな経営課題の解決を図る、一つの有力な手段として活用されている。

表2/名南M&Aが仲介業務を手掛けたM&&Aの事例
東急リバブルVIEW
東急リバブル FOR BUSINESS
東急リバブル 執行役員 ソリューション事業本部 事業戦略統括部長 東 和輝

東急リバブルは、M&A専門会社と提携して、事業承継を含むM&Aの仲介業務を展開している。

M&Aを支援する業務には、大きく2つのタイプがある(図参照)。中立的な立場から買い手と売り手とのマッチングを中心とする仲介業務と、買い手か売り手かのいずれか一方と契約して助言を行うフィナンシャル・アドバイス(FA)業務だ。東急リバブルは、主に「事業承継」による企業買収や「不動産M&A」の仲介業務を行っている。

東急リバブルが手掛ける仲介業務の大きな特長は、不動産評価に豊富な実績を持つ強みを生かして、企業価値の算定で「不動産の資産評価を的確に反映する」点だ。

M&Aや事業承継においては、買収対象となる企業の価値を正しく算定することが重要になる。企業価値の算定にはいくつかの方法があるが、特に中小企業のM&A・事業承継では、企業の「純資産」に、将来にわたって生み出す利益「営業権(のれん代)」を合算する手法が一般的だ。その際、「純資産」の算定で、所有する不動産を正しく評価できていないことが多い。不動産の価格を本来よりも低く見積もるなど価値を適正に反映していないケースや、事業再生に絡む案件などで再生のスピードを優先するあまりに不動産価値をほとんど評価しない事例もあるようだ。

M&Aにおける仲介業務のポジションとプレーヤー

不動産を所有する企業の場合、その価値を正しく評価することで企業価値を高めることができる。実際に、第三者への事業承継を検討している企業のM&A案件で、東急リバブルが不動産の資産評価を担当したことによって、当初想定していたものに比べて企業価値が大きく高まったケースもある。M&Aを通じて企業の経営戦略を実現するうえで、的確な不動産評価の重要性が高まっていると言える。

東急リバブル FOR BUSINESS

お問い合わせ先 | 東急リバブル株式会社 ソリューション事業本部