Mixed Realityから始まる産業革命

現場で考え、気づきを得る強力なツールに!Microsoft HoloLens というトヨタの選択

「より良いものを、より早く、より安く」を実現するために、現状に満足することなく日々のカイゼンを積み重ねていく――。現地現物を重視したものづくりにこだわるトヨタ自動車が、現場で働く人の支援を目的に、MR( Mixed Reality、複合現実 )を実現する Microsoft HoloLens の業務適用に取り組んでいる。そのプロジェクトリーダーである、トヨタ自動車株式会社 エンジニアリング情報管理部 情報管理企画室 主幹 栢野浩一氏は、Microsoft HoloLens を初めて体験したときの衝撃について「本当に凄かった」と驚きを隠さない。「20年間、3次元データをものづくりに活かすデジタルエンジニアリングに取り組む中で、思い描いてきた夢をついに実現できる」と意気込む。Microsoft HoloLens ×カイゼンがものづくりの現場をどう変えていくのか? その真相に迫る。

20年間やりたかったことが Microsoft HoloLens で実現できる

― 現場を重視するトヨタ自動車のものづくりの観点から、現実世界に仮想世界を融合させる MR( Mixed Reality、複合現実 )を実現する Microsoft HoloLens をどう評価されますか?
栢野:2016年末、最初に Microsoft HoloLens を装着し MR を体験したときの衝撃は今でもよく覚えています。20年以上、3次元データをものづくりに活かすデジタルエンジニアリングに取り組む中で思い描いてきた夢を実現できると感じたからです。
トヨタでは高品質で魅力ある車をタイムリーにお客様にお届けするべく、1996年頃からデジタルエンジニアリングに取り組んでいます。当初の主な使い方は、車両のデジタルモックアップ(原寸模型)を作って大きなスクリーンに映し出し、量産試作等の段階で発覚していた様々な課題を、それ以前の開発初期段階で見つけ出すことでした。現在、3次元データの活用範囲は企画、デザイン、設計、評価から生産技術・工場、品質管理、販売、修理まで多岐にわたっています。コスト削減だけでなく、3次元データを上手く活用し、ものづくりのために、もっと考える力や時間を創出しようというのが狙いです。
トヨタはものづくりが大好きな人たちが集まっており、現場をとても重視します。この20年間、コンピュータ上で行ってきた検証や評価を、実空間で実際の車両と3次元データを照らし合わせながら行うことで、現場で働く人をもっとサポートできないだろうかという思いを強く抱き続けてきました。トヨタウェイのキーワードの1つに「現地現物」があります。机上だけで考えたり判断したりするのではなく、実際に現場に足を運び、現場の事実に基づいて考える。問題解決の答えは現場にあるという「現地現物」に、Microsoft HoloLens による複合現実をプラスしたとき、新たな気づきが生まれてくる。そう直感しました。
― Microsoft HoloLens のどのような点が衝撃的だったのでしょう?
栢野:これまで3次元データの活用はコンピュータの世界の話でした。VR( Virtual Reality )も仮想空間での擬似体験です。ところが MR はコンピュータの世界を飛び出し、実空間での体験を実現します。実在する風景に仮想データを重ねて表示する AR( Augmented Reality )もタブレットを使って評価しましたが、MR とは没入感が全く違います。現実と仮想が融合した世界に自分が入り込み、自由に動くことができる。この感覚はこれまでにないものです。まさに Mixed Reality、複合現実ですね。ものづくりでは、「もの」で評価・確認を行います。そのとき、現実の情報にコンピュータの情報を加味して表現できるのが Microsoft HoloLens の大きなメリットです。トヨタ生産方式でよく使う「視る」は、ただ見るのではなく、目的意識を持って確認し検討することです。Microsoft HoloLensは「視る」をコンピュータの情報によって拡張します。例えば、クルマの最終形状ができあがっていない段階でも、工場の生産設備に車の3次元データを置いて作業性はどうか等を評価することができます。
私も Microsoft HoloLens を使って車体の実物大3次元データを実空間に浮かべ、様々な角度から検討してみました。周囲を歩き回っても問題なくそこに留まっている。頭を車体の中に入れてみると断面や構造も検討できる。また実際の車に3次元データを重ねるとレントゲンのように透けて見える。Microsoft HoloLens は「現地現物において新たな気づきを得るための強力な道具となり得る!」と実感しました。エンジニアが Microsoft HoloLens を装着し現場で働くシーンが日常になる日もそう遠くないと思います。

Microsoft HoloLens は現場の課題を解決する優れた道具

― 今後のものづくりにどう役立てていきますか? Microsoft HoloLens を活用した実証事例をお聞かせください。
栢野:Microsoft HoloLens は現場の人たちが困っていることを解決する非常に優れた道具です。公表できてわかりやすい事例の1つに「塗料の膜厚検査での活用」があります。完成車に綺麗に塗装するために、試作車で塗装のチューニングを行っています。従来、ムラなく均一の膜厚がとれているかどうかをチェックする場合、クルマの曲面に合わせた型紙をつくって、一定間隔で穴を開け、そこに測定器をあてて測定し、そのデータに基づいて塗装設備を調整していきます。トヨタは車のバリエーションも多く、型紙をつくるのに非常に多くの手間と時間が必要です。そこで Microsoft HoloLens を使って、試作車に直接測定点を重ねて表示し、その点に測定器をあてて測ることにより劇的な作業の効率化と時間短縮を実現できました。
Microsoft HoloLens を用いた塗料の膜厚検査の様子。左上のモニターには作業者の視界にプロットされた赤い測定点が見えている。詳細は次項で紹介。

もう一つ、Microsoft HoloLens を使った「試作工場の設備移設での活用」は、現実空間に3次元データを加えることで「視る」を支援する事例です。実際に設備を移設する前に、実空間に実物大の3次元データによるモデルを配置し、照明や柱にぶつからないか、作業はしやすいか、安全性は確保できるか等、事前に確認することができます。柱の位置はデータ化が難しかったり、建物は現場調整が入るため設計図面通りでない場合もあったり、実空間のデータは不明確な要素を含んでいます。精緻なデータを取得するには時間とコストがかかりますが、Microsoft HoloLens ならデータをとらなくても気軽に設備設置に関して様々な角度から検討することができる。実空間において自分で動きながら、自分の目で確認できる点が魅力です。Microsoft HoloLens のビジネスアプリケーションである「 Microsoft Dynamics 365 Layout 」を利用することで、MR による事前検証を容易に行えます。問題を事前につかむことで、実際の移設作業を効率的に行えるようになります。

クラウンやレクサスが生産されているトヨタ自動車元町工場。こうした工場の生産ラインの設備検討にも Microsoft HoloLens は役立つという。

Microsoft HoloLensは現場で体験すると、その凄さがピンとくる

― Microsoft HoloLens でこれから実証していきたいその他の活用シーンはありますか?
栢野:視線の共有とコラボレーションには大きなポテンシャルを感じています。現場で作業している人が何を見ているのかがわかれば、その人が必要としているアドバイスもより的確に行えます。例えば、Microsoft HoloLens を使って作業しているとき、わからないことがあった場合に MR ビジネスアプリケーションの「 Microsoft Dynamics 365 Remote Assist 」を利用することで、遠隔地にいるエキスパートとの間でハンズフリーのビデオ通話を行い、作業者が見ている情報を共有しコミュニケーションをとりながら必要なサポートを受けられます。Microsoft HoloLens があれば、3次元データが作業を支援し、さらに人のヘルプも受けられる。新人もベテランの指示により正確かつスムーズに作業が行えるとともに、スキル向上にもつながることから、「ものづくりは人づくり」の面でも有効です。また企画、設計、レイアウト、修理等、様々なシーンにおいて、遠隔地にいる関係者が同じ視点の情報をもとに意識を共有した対話ができるという Microsoft HoloLens のコラボレーション機能がもたらすメリットは計り知れません。
さらに Microsoft HoloLens を使って行った作業をデータ化できる点も重要です。蓄積したデータを AI で分析し、そこで得た気づきを作業者にフィードバックして、カイゼンに役立てていくといったサイクルを実現できればと考えています。
― 今後の展開と、Microsoft HoloLens 導入を検討している企業へのアドバイスがあればお願いします。
栢野:この1年で利用シーンは急速に拡大しました。「 Microsoft HoloLens をこう使いたい」という声が現場から次々とあがってきています。ご紹介した実証事例も現場発信の課題解決事例です。3次元データと Microsoft HoloLens を使っての「働き方改革」を推進する取り組みが現場起点で動き始めています。
Microsoft HoloLens は装着してみれば、その凄さがわかります。まずは現場で体験してみてください。現場の人は MR を知らなくても、自分たちの課題はよくわかっています。問題意識を持った視点で Microsoft HoloLens を使うことで、「こんな困り事が解決できるのではないか?」と話がはずむと思います。当社の場合もそうでした。
3次元データがコンピュータから飛び出して、現実空間と融合し働く人を助けてくれる。単に効率だけでなく、働く人の知恵を活かしさらにカイゼンを進めていく。トヨタ生産方式の考え方にも非常にマッチしています。20年間やりたかったことが実現できる驚きは“確かな手ごたえ”に変わってきました。Microsoft HoloLens を使って現場で働く人を支援し、トヨタのものづくりの変わらぬ思いである「お客様の笑顔のために、もっと良いクルマづくり」に貢献していきたいと思います。
自動車製造業における Microsoft HoloLens の可能性を存分に語ってくれた栢野氏。

作業効率が劇的に改善!塗料の膜厚検査における
Microsoft HoloLens の適用効果とは→

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