Mixed Realityから始まる産業革命

作業効率が劇的に改善!塗料の膜厚検査におけるMicrosoft HoloLens の適用効果とは

塗膜の厚さをミクロン単位で管理し外観の美しさと耐久性を保証

“愛車”という言葉があるように、車は所有することに喜びをもたらす。その喜びにつながる重要な要素として、優れた走行性能とともに外観の美しさは重要なポイントとなる。その美しさを支えているのが塗装工程だ。車への塗装は、防錆などを行う下地、発色に関わる中塗り、色や光沢、耐久性をもたらす上塗りといった複数の層で構成される。車に塗料を塗る膜の厚さは100ミクロン(0.1ミリ)程、わずか数ミクロンでも厚さが変わると、色の鮮やかさや防錆などの効果に大きな影響を及ぼす。
お客様の笑顔のため、外観の美しさにもこだわるトヨタにおいて、ミクロン単位の膜の厚さを管理し、塗装の品質を保証する役割を担っているのが「塗料膜厚検査」とう行程だ。チューニングした塗装設備でロボットが塗装した試作車のボディに対し、塗装にムラがないかなど検査を実施。その結果を塗装設備のチューニングに反映し、求めている品質を実現するまで改善と検査を繰り返すのだ。品質保証のため、この検査は量産開始後も定期的に行われる。

複雑な局面で構成される車両のボディを覆う塗装。その品質管理に欠かせないのが「塗料膜厚検査」だ。

トヨタにおいて、従来行われてきた塗料膜厚検査の方法はとてもアナログ的だった。まず型紙を使って車のボディの形状を手作りする。洋裁の型紙と考え方は同じで、マネキンの代わりとなる車のボディに型紙をぴったりかぶせていく。型紙には図面に基づき穴開けパンチを使って測定点となる500カ所程の穴が開けられており、穴に沿って計測器で塗料の膜厚を計測していく。従来の塗料膜厚検査では、1~2日を要する型紙作りの手間暇はもとより、洋裁よりもずっと大きなサイズの3次元形状の型紙を手作りするため、図面上の測定点と型紙による測定点との位置に誤差が生じるリスクがあった。これらの課題を解決するべく着目したのが、複合現実を実現する Microsoft HoloLens の活用だった。

従前の塗料膜厚検査では、車両形状に合わせた型紙を手作りし、測定を行っていた(写真左)。専用の計測器で測定点の膜厚を1つ1つチェックしていく(写真右)。

ケーブルレスで現物を見ながら作業できる Microsoft HoloLens は現場に最適

現場作業で利用する観点から VR( Virtual Reality、仮想現実 )ツールと Microsoft HoloLens の決定的な違いは2つある。まずケーブルの有無だ。ケーブルが付いていては現場で作業する際に邪魔になる。ケーブルレスの Microsoft HoloLens ならどこにでも持っていける上、エンジニアが自由に動くことができるため作業性が非常に高い。また VR は視界を完全にふさいでしまうが、MR は現実世界に3次元データを重ねるため、肉眼で現物を見ながら作業できる。さらに足元や周囲の確認も行えることから安全性の確保も可能だ。「これなら現場で使える」――、Microsoft HoloLens を実際に装着してみたエンジニアの評価は非常に高かった。

Microsoft HoloLens は単体で独立したコンピュータとして動く。そのため工場のどんな場所にでも持っていくことができる。

Microsoft HoloLens を使って、塗装した試作車のボティにホログラムで測定点を投射し膜厚を測定する試みは、現場が型紙に代わる手法を探していたことと、現実空間と仮想空間が融合する MR の効果が得やすいことがポイントとなり実証実験の対象となった。2018年3月から準備を開始し、同年6月から評価を実施。すでに生産しているモデルを使って、3次元データを現物に投射したときに正確性が損なわれていないか、車の周囲を動きまわったときも測定点がそのままの位置にとどまっているかなど、現場で利用することを想定し様々な検証を行った。

作業現場で Microsoft HoloLens を装着するトヨタ自動車 エンジニアリング情報管理部の平川岳志氏。
Microsoft HoloLens を通して見ると、車両ボディに塗膜の測定点が赤いドットでプロットされている。
視界に表示された測定点を計測器で順番にチェックしていく。型紙が不要になり作業は非常にスマートだ。

型紙作りが不要になり「2人で1日」かかった測定作業を「1人で4時間」に短縮

一連の検証で、塗料膜厚検査における Microsoft HoloLens 活用の多大なメリットが、効率と品質の両面から見えてきた。効率面では、まず1~2日を要していた型紙の作成が不要となる。また、検査エリアまで車両を移動したり、ボディに型紙をかぶせたりなど段取りが多く、2人1組で1日かかっていた塗料膜厚検査を、1人で4時間に短縮できるなど、作業の効率化とリードタイムの短縮が図れる。品質面では、車両設計で用いた3次元 CAD データを現物のボディに投射するため、データと現物の測定点との間に誤差が生じるリスクを回避できる。
また型紙は塵や埃が付着している可能性があるため塗装現場には持ち込めなかったが、非接触で検査が行える Microsoft HoloLensなら塗装現場での利用も可能だ。
更にグローバルで生産工場を展開する中で、作業を標準化する上でも Microsoft HoloLens の活用は有効だ。海外の工場に対し、日本の技術者が型紙作りを指導しているが、正しく運用されているかを定期的にチェックする必要がある。Microsoft HoloLens の活用により、必要な時に必要な測定用データを使って、国内外のどの工場でも高い精度の塗料膜厚検査を実施することが可能になる。

“現場にデジタルを持ち込める”デバイスとしての可能性に大きな期待

Microsoft HoloLens は現場の可能性を大きく広げる。例えば、Microsoft HoloLens の MR ビジネスアプリケーション「 Dynamics 365 Remote Assist 」を利用することで、離れた場所にいる設計者や技術者との間で視界を共有しアドバイスを受けることも可能だ。さまざまなデータを呼び出して見られることから、図面確認のために事務所に戻るといったムダな工数の削減もできる。
更に Microsoft HoloLens と測定器、周辺システムをデータで連携し、その場で測定結果の判定を表示、その結果に基づき新たな条件をフィードバックしてチューニングを行うといったサイクルを実現することで、生産性は飛躍的に向上する。
今後、塗料膜厚検査と同じように、現物に3次元データを投射し検査や作業を行う用途への横展開も検討中だ。工場内の生産活動を事前にコンピュータ上で試行・評価するバーチャルファクトリーを推進し、生産プロセス改革を実現する上で、計画精度の向上によるリードタイムの短縮と、「ムダ・ムラ・ムリ」のさらなる改善に向け、“現場にデジタルを持ち込める”デバイスとして Microsoft HoloLens への期待が高まっている。

検査工程の効率化、検査品質の向上、さらにグローバルレベルでの作業の標準化に Microsoft HoloLens 活用が期待されている。

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