Mixed Realityから始まる産業革命

JR東日本が Microsoft HoloLens で保全業務のプロセス改革に挑む!

経営ビジョンの柱に「究極の安全」を掲げるJR東日本グループ。車両・設備の適切な維持管理といったハード対策と、実践的な教育・訓練の拡充というソフト対策の両面から、デジタルによる保守業務のプロセス改革に取り組んでいる。その一環として彼らが Microsoft HoloLens に着目したのは何故か? 一刻を争う故障対応において、従来、指令所から現場に対し音声で支援を行っていたが、音声だけでは報告や指示が正しく伝わりにくい。そこに Microsoft HoloLens がブレークスルーをもたらすという。さらに、作業の正確性の向上だけではなく、教育効果や技術継承への期待も大きい。Microsoft HoloLens による遠隔支援と保守訓練は実証実験を経て、現場での試行フェーズに進み始めている。

Microsoft HoloLens は現場業務との親和性が非常に高い

― JR東日本グループの経営ビジョン推進において、Microsoft HoloLens に着目した理由は何でしょうか?
東日本旅客鉄道株式会社
技術イノベーション推進本部
システムマネジメント部門
輸送・設備システムグループ 課長
三澤 秀樹 氏
三澤:私達JR東日本グループは1987年の発足から30年間、鉄道を起点としたサービスを提供することで「鉄道の再生・復権」に取り組んできました。そしてこれからの10年間はヒトを起点に「安全」「生活」「社員・家族の幸福」にフォーカスし、都市と地方、そして世界を舞台に、信頼と豊かさという価値を創造していきます。
グループ経営ビジョンである「変革2027」が目指すのは、「鉄道」起点から「ヒト」起点への転換です。そしてこの大きな転換にあっても変わらないのが「究極の安全」の追求です。「変革2027」では、安全を経営のトッププライオリティに位置づけています。
「究極の安全」に向けた取り組みでは、設備・車両の適切な維持管理や更新・強化といったハード対策と、実践的な安全教育・訓練の拡充などのソフト対策の両面が必要です。Microsoft HoloLens のデモを体験した時、この両面の安全対策を実施する上で有効なツールになると直感しました。現場作業で利用する場合、VR は視界をふさいでしまうため、保守対象の機器を見ることができません。Microsoft HoloLens は現実の機器に様々な情報を付加して表示できるため、現場で両手を使って、表示された情報を確認しながら作業が行えます。適用シーンとしてまず思い浮かんだのが鉄道信号設備の保守業務です。さまざまな装置と配線とが複雑に構成された鉄道信号設備は、仮想と現物をつなぐ Microsoft HoloLens による現場改革の象徴になりえると考えました。

離れた指令所にいるベテラン社員の知見を現場の迅速・正確な作業に活かす

― 鉄道信号設備の保守において、従来はどのような課題があったのでしょうか?
東日本旅客鉄道株式会社
鉄道事業本部
電気ネットワーク部
信号管理グループ 課長
松田 力 氏
松田:JR東日本エリア内には踏切、信号機や電気転てつ機、自動列車停止装置など様々な信号設備が広範囲に広がっています。それらを約70のエリアに分け、保守の拠点となるメンテナンスセンターを設置してそれぞれの担当エリアの保守を行っています。設備の故障時には、設計図や仕様書、検査データが配備されている指令所から、経験に富んだベテラン社員が主として音声で現場に対しさまざまな復旧指示を出していました。しかし音声では、現場への具体的な指示や、現場から指令所への報告が正しく伝わりにくかったり、説明にも時間がかかるといった課題がありました。故障対応の場合一刻を争うため、現場と指令所の間のコミュニケーションの質とスピードの向上が重要なテーマだったのです。
様々な装置で埋め尽くされた信号機器室。こうした設備が列車の安全運行を支えている。
― Microsoft HoloLens による遠隔支援について、具体的な取り組み内容をお聞かせください。
松田:当社の訓練設備に Microsoft HoloLens を装着した作業員を配置、会議室を指令所とみなして、離れた指令所からベテラン社員が PC 画面で現場社員と視界を共有し指示を出しました。利用しているのは MR ビジネスアプリケーションの「 Dynamics 365 Remote Assist 」です。現場で故障が起きたと想定し、指令所から「この配線とこの配線の間の電圧を測定してほしい」などビデオ通話をしながら画面にマーカーで印をつけたり、図面を呼び出して指示を出します。作業員は視界に表示されたマーカーや図面を参照しながら作業を行い、その様子を指令所にいるベテラン社員もリアルタイムで確認します。
これまでもスマートフォンやタブレットで撮影した現場の動画や画像を、指令所で確認することは行っていましたが、撮影した箇所が指示と違っていたり、もっとアップで見たいといったケースもあります。Microsoft HoloLens の場合、作業員とリアルタイムに視界が共有できること、さらに言葉だけでなく視覚的に指示が行えることが大きなメリットです。指令所という離れた場所にいながら、図面や検査データを共有しながら、ベテラン社員の知見や豊富なノウハウを現場で活かすことができる。現場の保守作業の正確性や迅速性の向上はもとより、教育効果への期待も大きなものがあります。
現場に到着した作業者は MR ビジネスアプリケーションの「 Dynamics 365 Remote Assist 」を使って指令所を呼び出す。
指令所のベテラン社員が現場作業者の視界を共有しながらマーカーで点検箇所を指示。必要な図面をデジタルデータで呼び出すこともできる。
現場の担当者は指令所からの指示を仰ぎながら、両手を使って確実な保守作業が行える。

現物がなくてもさまざまな設備の保守訓練が自主的に行える

― 緊急時の対応以外にも Microsoft HoloLens の活用が期待されている分野はありますか?
松田:列車の運行を支える設備の保守訓練は日々のトレーニングが大切となることから、Microsoft HoloLens でそれらの設備をホログラムで表示し、いつでもどこでも訓練ができる環境を整備する、といった活用が考えられます。
例えばモーターの力を使ってレールを動かす電気転てつ機は、モーターや歯車などの機械部品で構成されており、この部品が動いて、次にこの部品が動くといった複雑な構造となっており、ミリ単位の調整技術が必要とされます。電気転てつ機は約400キログラムの重量があり、訓練設備として設置されている場所も限られているため、メンテナンスセンターでは訓練することができません。訓練用の設備を用いた定期訓練も実施していますが、訓練施設への移動に時間がかかることに加え、一度に訓練できる人数も限られています。また電気転てつ機の故障は列車の安定的な運行に直結するため訓練を繰り返し行い、習熟度を高めていくことに加え、様々な状況への対応力の強化も重要なポイントとなります。
電気転てつ機の保守手順のトレーニング風景。グループ単位で現物を見ながら行われる。
内部は複雑な配線やギヤで構成されており、保守には作業マニュアルが欠かせない。
― Microsoft HoloLens によって、どのようにトレーニング品質の強化が図れるのでしょう?
松田:電気転てつ機には15項目の保守点検手順があります。現在、Microsoft HoloLens を使って手順を学ぶアプリを開発しています。電気転てつ機のホログラムを作成し、「ここを回す」、「次にここを調整する」など、手順に基づいて3次元アニメーションを動かしていきます。Microsoft HoloLens さえあれば、各メンテナンスセンターで社員の空き時間でいつでも訓練することが可能です。PC の画面ではなく、実際の空間に投影したホログラムは、現物に近い感覚で作業手順の理解をサポートします。訓練頻度を高め、さらに実機を使った訓練と組み合わせることで習熟のスピードアップが期待できます。また電気転てつ機以外にも、事務所に持ち込めない装置をホログラム化することで、これまでできなかった保守訓練の機会を大幅に増やすことができるでしょう。
トレーニングを開始するには、Microsoft HoloLens を使って訓練アプリケーションを呼び出す。
「検査開始」をクリックすると、3次元アニメーションで手順が再生される。
電気転てつ機の内部構造も再現。周囲を歩き回ったり、のぞき込んだりして様々な角度から手順を学べる。
従来紙で持ち込んでいた操作マニュアルも視界にデジタルデータで表示できる。訓練だけでなく、実際の保守作業でも役立つ機能だ。
Microsoft HoloLens なら、同じトレーニングプログラムを複数人で同時に体験することも可能だ。

デジタルを現場へ!紙の図面や音声に頼っていた保守業務を変革

― Microsoft HoloLens を活用した取り組みは、どの段階まで進んでいますか?
松田:「 Dynamics 365 Remote Assist 」による遠隔支援は、実際に現場で試行して社員から意見を聞きたいと思っています。改善点や更なる活用アイデアを募集し、より良いものにして最終的には現場への本格展開を視野に入れています。開発中の電気転てつ機の保守訓練アプリは、2018年度中に15項目の手順すべての作り込みを完了する予定です。完成したものを現場の社員に実際に使ってもらって意見を吸い上げ、訓練効果のより高いツールに仕上げていきます。
― Mixed Reality は、保守業務のプロセス改革にどのようなインパクトをもたらすのでしょうか?
三澤:これまで紙の図面や音声、画像に頼っていた保守業務を大きく変革する可能性を秘めています。また信号設備だけでなく、他部門への展開も検討中です。社員の世代交代が進んでいった時、技術継承の課題も、Microsoft HoloLens が解決してくれるのではないかと期待しています。遠隔支援の様子をデータとして記録し、ベテランのノウハウを目に見えるかたちで蓄積していくことにより、必然的に技術継承につながっていくでしょう。
最新技術への取り組みはスピード感が大切です。私達は Microsoft HoloLens のデモを体験し、「まずやってみよう」というところからスタートしました。日本マイクロソフトからも様々なアイデアの提供や、ホログラムの開発メーカーの紹介などきめ細かいサポートがあり、スピード感を持って進めることができました。今後は私達1社だけではなく、社会インフラ分野のさまざまな企業とコラボレーションしながら、一緒により良いものをつくり、安全に向けた取り組みに貢献していければと考えています。

Microsoft HoloLens についての詳細・ご購入はこちら