Mixed Realityから始まる産業革命

変わり続ける“工場という生き物”で設備の安全な搬出入を行う複合現実ソリューションを

世界に誇るコンパクトカーの生産拠点となるべく、トヨタグループの3社(関東自動車工業、セントラル自動車、トヨタ自動車東北)が統合して2012年に誕生したトヨタ自動車東日本。同社では、2020年までに予定している静岡県裾野市の東富士工場の閉鎖を控え、工場の大型設備の安全かつ効率的な搬出入方法を検討してきた。巨大な設備をいかに安全かつスムーズに刷新できるか? その一環として実施された Microsoft HoloLensを用いた搬出入シミュレーションの実証実験を中心に、トヨタ自動車東日本 ボデー設計部 設計統括室の稲垣清氏に、複合現実が製造業の工場設備管理にもたらすインパクトを訊いた。

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老朽化した大型設備を工場の現場からいかに安全に搬出するか

― 今回、Microsoft HoloLens の活用を検討されたきっかけを教えてください。
工場という“変化し続ける現場”の維持管理の難しさを語る稲垣氏。
稲垣:以前から VR( Virtual Reality、仮想現実 )のツールは利用していましたが、初めて Microsoft HoloLens による MR( Mixed Reality、複合現実 )を体験した時には“凄いものが出てきた”と驚愕しました。外部の環境を見渡しながらヘッドマウントディスプレイに映ったデータを確認して作業ができる。このメリットを現場で活用できないかと考えた時に思い浮かんだのが、老朽化してきたレーザー加工機の移設です。板金から大小様々な自動車部品を製造するレーザー加工機は横幅12m、奥行き9m、高さ3mもあり、スムーズな動線を確保しながら、建屋や他の設備を傷つけずに搬出することが課題となっていました。トヨタ自動車の栢野様から Microsoft HoloLens 活用事例の紹介もあり、私どもでもぜひ取り組んでみたいと考えました。

従来は、会議室で工場レイアウトの 2D データと、搬出入する設備の 3D データを組み合わせて検討していましたが、実際の現場では、さまざまな設備がレイアウト図面通りには配置されていないという問題がありました。建設から数十年以上も経っている工場では、後から追加された設備や機械等も多く、当時の図面と実際の場との間に大きなギャップが生まれてしまうのです。3D スキャナーを使えば実際の工場空間をデータ化して取り込むこともできますが、スキャンの手間と時間だけでなく、スキャンしたデータの整合性を取るのに大きな工数と時間がかかります。
Microsoft HoloLens の MR ビジネスアプリケーションである「 Dynamics 365 Layout 」なら、設備の 3D モデルさえ用意すれば、すぐに現場で検証が行えます。現実の工場の中に 3D データ化したレーザー加工機を仮想的に配置し、動かしたり向きを変えたりすることで、搬出の動線や安全性を検証できると考えました。

レーザー加工機は横幅12m、奥行き9m、高さ3mという巨大なものだ。搬出入は3つのブロックに分割して行われる。

Microsoft HoloLens のアプリで搬出入経路や既存設備との干渉を確認

― 「 Dynamics 365 Layout 」を活用したレーザー加工機搬出の実証実験の手ごたえは。
稲垣:実証実験では、レーザー加工機の 3D データをインポートした Microsoft HoloLens を装着して、工場内を歩き回りながら検証を行いました。「この動線ではフォークリフトの経路とぶつかるので作業時間の調整が必要」「図面と照らし合わせると天井付近のダクトの位置が違う」「蛍光灯との距離が40cmしかないので搬出時は事前に外しておくべき」等、平面の図面だけでは見えない部分や、人や物が動き続ける工場の現場だからこそ分かる気づきがあったことは大きな収穫でした。
工場の現場で、MR ビジネスアプリケーション「 Dynamics 365 Layout 」を起動。レーザー加工機の 3D モデルを呼び出す。
3D モデルを指先のジェスチャーでつまんで移動し、実際の工場の中に配置。
実物大のスケールにすれば、既存設備との干渉やフォークリフト動線との干渉なども直感的に把握できる。
― VR と MR では、どのような点が現場作業において決定的に異なりますか?
稲垣:没入型の VR ツールの場合、大型設備やフォークリフトが動く工場の現場では危険なため使用が難しいでしょう。実際の使用感としましても、Microsoft HoloLens に比べると VR ツールは酔いやすいですし、ヘッドマウントディスプレイにケーブルが付いていると移動範囲が限られてしまう点も問題になります。Microsoft HoloLens の場合は刻一刻と変わる機械や人の動き、動作音などを五感で感じながら、自由かつ安全に動き回って作業ができる点が優れています。工場で働く社員からも、やはり VR より MR の方が圧倒的に評価は高い。搬出入だけでなく、より作業のしやすい設備の再配置検討や、フォークリフトが通りやすいレイアウトの検討などにも活用していけると考えています。
Microsoft HoloLens はケーブルレスで使用でき、工場内を自由かつ安全に動き回りながら検証が行える。
― 離れた場所にいる担当者と会話ができることも、工場設備管理に役立つでしょうか?
稲垣:MR ビジネスアプリケーションの「 Dynamics 365 Remote Assist 」を利用することで、同様のレーザー加工機の搬出経験がある工場の担当者とテレビ会議で情報共有しながら、アドバイスをもらえるという点も有用性が高いと思います。経験者でなければ分からない視点や注意点もいただけますので。また、事前シミュレーションを Microsoft HoloLens を付けた作業者の視点で録画できる点も便利だと感じました。搬出を行う企業の担当者に録画データを共有することで、現場に行った人しか分からないリアルな状況を共有できるため、スピーディーな搬出計画の作成につながっていくでしょう。
搬出入のシミュレーションの様子を、離れた場所にいる別の担当者とリアルタイムに共有できる。

国内外の拠点とのリアルタイムコミュニケーションで生産性が激変

― 大型設備の搬出入以外にも Microsoft HoloLens を活用していきたいシーンはありますか?
稲垣:2011年の東日本大震災を背景に、東北の復興を支援する意義も込めてトヨタグループの3社が合併して誕生した当社は本社が宮城(宮城県黒川郡大衡村)にあり、岩手工場(岩手県金ヶ崎町)、東富士工場(静岡県裾野市)をはじめ各地に拠点を持つことが特徴です。そのため、本社から開発を担当する東富士工場まで出張する場合は片道6時間程度かかるため、移動時間や出張コストが大きな負担となっています。今後、Microsoft HoloLens が全社的に導入されていけば、「 Dynamics 365 Remote Assist 」を活用したテレビ会議や現場検証により、出張を減らすことで労働時間や交通費の削減にもつなげていくことができると期待しています。
また、タイやブラジルといった海外の工場で問題が起きた際、今までは現地にエンジニアを派遣して対処するというケースもありましたが、工場の様子を Microsoft HoloLens を通して確認しながらリアルタイムに指示を出せることで、想定外の海外出張等も減らすことができるでしょう。実は以前、タブレット端末とヘッドマウントディスプレイを用いて、宮城の工場とテレビ会議をしながら指示を出す試みをしたことがあります。しかし複数の機器を装着しなければならないことから総重量も重くなり、ケーブルもついていて動きにくかったため活用が進まなかったという失敗もありました。単体で動作する Microsoft HoloLens ならば、国内外で作業を行うスタッフにも使ってもらいやすいと思います。

日本の製造業の競争力を上げていくために Mixed Reality は欠かせない

― 今後の展開についてお聞かせください。
稲垣:現場と組み合わせて安全環境面で事故やトラブルをバーチャルにて再現する「事故の再発予防」を提案していきたいと考えています。現在も紙ベースで再発予防を呼びかけていますが、紙面ですと実感がわきにくい面もあるため、実際に MR で“事故につながりやすいシチュエーション”を疑似体験してもらうことで事故予防につながっていくと思います。また、作業者目線で録画した工程作業を参考に作業標準書などの技術資料に反映することにより、よりスムーズに動ける作業姿勢などを共有することが可能になっていくでしょう。
Microsoft HoloLens のような最新デバイスの登場や ICT 環境の進化を背景に、現在は自動車業界を含めた製造業全般が改革期にあると思います。機密管理を軽視してはいけませんが、過度に重視しすぎる傾向がある日本のメーカーの場合、海外のメーカーと比較して最先端の技術を取り入れるスピードが遅い点を私は懸念しています。考え方の改革と、技術の改革を同時に進めていかなければ、日本の製造業は世界に取り残されていってしまうでしょう。Microsoft HoloLens は、そうした革新を一気に推し進めるインパクトを秘めていると思います。

※本コンテンツのお問い合わせ先は日本マイクロソフトになります。
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日本の製造業のあり方に警鐘を鳴らす稲垣氏。革新のためにテクノロジーの積極活用が不可欠と語った。

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