
2017年5月23日――。ザ・プリンス パークタワー東京の大ホールは異様な熱気に包まれていた。マイクロソフトが年に一度開催するテクノロジの祭典「 de:code (デコード)」。革新的な製品やビジョンが発表されるこのイベントには、毎年全国から参加者が殺到する。その冒頭を飾るキーノートスピーチに、Microsoft HoloLens の生みの親であり、同社の Hall of Legends(伝説の殿堂)の一人、あのアレックス・キップマン氏の登壇が決定したのだ。

3時間に及ぶキーノートの最後、ステージにキップマン氏が登場すると、会場からは割れんばかりの大きな拍手が巻き起こった。キップマン氏は、マイクロソフトの革新的な製品開発において常に中心的な役割を果たし、高性能ゲーム機器「 Xbox 」用のモーションコントローラー「 Kinect(キネクト)」を生み出してきた伝説の人物。聞けば、ここ日本での“ Microsoft HoloLens フィーバー”を耳にし、急きょ de:code への参加を決めたという。
キップマン氏は冒頭、「 Microsoft HoloLens の発表以来たったの1年間で、世界中で22,000人以上の開発者がこのデバイスに関わり、7万件以上もの独創的なコンセプトのアプリケーションを開発している」とし、世界での Mixed Reality の広がりに自らが驚きを隠せないと語った。その上で彼の口から出た言葉は次のようなものだった。
「その中でも、私が最も感銘を受けたイノベーションはここ日本において生まれている」
キップマン氏は、Microsoft HoloLens の登場が日本における教育や学習の在り方を革新しつつあるとし、その一例として、高解像度のホログラムを使いながら手術の準備を行う、日本のHoloEyes株式会社の事例を大きく紹介した。同氏は「このように過去半年たらずで、本当にすごいイノベーションが生まれている。日本は既に、世界で最も成長している Mixed Reality の市場を形成しており、その市場成長のスピードは目を見張るものがある」と語った。
日本の Mixed Reality 市場の盛り上がりに驚きを隠せない。
スピーチの最後にキップマン氏がプレゼンテーションしたのは、これから先、Mixed Reality が私たちの生活や仕事を劇的に変えていく未来だ。
「 AR や VR や MR は別々のコンセプトではない。それはすべて Mixed Reality の1つの世界をいろいろな角度から見ているものに過ぎない」
そして、それを支える唯一のプラットフォームが Windows 10 である。2017年秋に提供される「 Fall Creators Update 」によって、Mixed Reality が誰にとっても身近な存在になる。ある人は Microsoft HoloLens で、ある人はモバイルノートで、またある人はサードパーティ製のヘッドセットを使って、離れた場所から同じ Mixed Reality の世界を共有できる。
「かつてすべてのコンテンツはコンピュータの中にのみ存在するものだった。しかし Mixed Reality の世界では、コンテンツは場所に限定されなくなる。そしてそれを“見る”ために、Microsoft HoloLens のようなデバイスが真価を発揮する。その来るべき世界のビジョンは、我々全員で描いていくものだ」と語り、キップマン氏は講演を締めくくった。

Mixed Reality こそ、コンピューティングの未来だと提唱するキップマン氏。
1979年ブラジル生まれ。現 米マイクロソフト Windows and Devices グループ テクニカルフェロー。2001年にマイクロソフト入社以来、100以上の特許において主要な発明者に名を連ねる。キップマンが開発し、2010年に発売になった Xbox 用のモーションコントローラー「 Kinect 」 は世界で最も早く普及したコンシューマ向け電子機器となり、TIME 誌の 2011年の「世界の100人」(100 People of the Year)にも選ばれる。また同年、マイクロソフトの Hall of Legends(伝説の殿堂)の一人にもなっている。2015年1月に発表した Microsoft HoloLens により、Mixed Reality(複合現実)を具現化。そのインパクトが世界を席巻している。

テクニカル エバンジェリスト 高橋忍氏によるセッション、「本気で始める HoloLens - プラン・設計・開発の勘どころ -」には熱心な開発者がこぞって参加し、会場のボルテージは最高潮に。
まず「 Mixed Reality とは何か?」という問いについて高橋氏は、テクノロジに関係なく実際に存在しているのが「 Physical Reality 」で、環境や物体の感覚を人工的に作ったものが「 Virtual Reality 」、そこに「 Human(人間)」を加え、それらすべてが混ざり合ったものが「 Mixed Reality 」になると語った。Human が Mix されるという概念は、最近になってマイクロソフトが新たに提唱したものだ。

会場は立ち見が出る程の超満員。日本に熱心な開発者が多いことを裏付ける盛り上がりを見せた。
講演の最後に、高橋氏は「今日もっとも伝えたかったこと」として、「アプリを作ることをゴールにしてはいけない」と、語気を強めた。
「テクノロジー・ドリブンで“アプリを作ること”をゴールにすると、絶対に失敗する。考えるべきは、問題を発見し解決するアプローチ、つまり“イシュー・ドリブン”だ。Microsoft HoloLens によって、今まで解決できなかった問題が解決できるというストーリーをきちんと考えることが重要。まずアイデアを出し合い、なぜそれが Microsoft HoloLens でなければ実現しえないのかを徹底的に議論する。それによって、課題解決に向かうユーザーのストーリーを描く。きちんとしたストーリーが描ければ、アプリケーションにはどんな UI が必要なのかも、おのずと見えてくる」
高橋氏は、イシュー・ドリブンの考え方を持って、革新的な Microsoft HoloLens アプリケーションを開発してほしいと語った。

講演中、客席の頭上に CG のキューブを出現させるデモンストレーションを行う高橋氏。

展示ブースに設けられた Microsoft HoloLens 体験コーナー。
展示ブースでは、Microsoft HoloLens の体験コーナーが大盛況だった。実際に体験する前に、ビデオによる簡単なレクチャーを受ける。まず驚くのはその個性的な操作方法。基本的に手の動き(ジェスチャ)によって、視界に映ったデジタル映像を操作できる仕組みになっている。レクチャーが終わると、体験者一人一人の視界が Microsoft HoloLens とマッチするように、両目の間隔を計ってもらった。これにより最適なホログラムが見られるという。
Microsoft HoloLens を体験中。見た目には何もないが…
体験時は横にトレーナーが付き、Microsoft HoloLens を操作してゆく。その未来的な操作に感動。指先を突き出し、人差し指と親指を広げることでクリックを行い、手のひらを上に向け、指先をつぼんで開く様な動作(ブルームという)をすることで、いわゆるホーム画面に戻ることができる。コツを掴むとスイスイと、ストレスなく操作できるようになった。
あっ! 実物大の橋が見える!
体験したのは、橋梁工事の設計データを展開できる建築業界向けのアプリケーション。国内では小柳建設が採用し、大きな話題になったものだ。目の前に現れた橋の CG の縮尺を変えていくと、やがてそれは実物大になり、CG の橋の上に自分が立っている感覚になる。見渡せば、橋がずっと遠くまで広がっている! さらに、橋脚を見上げながら近づいていくと、自分の体が橋脚の中に入り込み、外からは見えなかった鉄骨構造が見えてくる!
体験者にはこのようなホログラムが見えている。(小柳建設事例より)