日経ビジネスオンラインスペシャル

時代の変革時にこそ存在感を増す金の価値

時代の変革時にこそ存在感を増す金の価値

金現物のオンライン投資プラットフォームである英国ブリオンボールドサービスを日本で展開し、 今 次世代の金現物投資の姿を模索するブリオン・ジャパン株式会社 CEO 平井政光氏。 今回から2回に渡って、彼が新たな事業展開の準備のために訪れたオーストリアウィーンに同行し、新規事業のために新たなグループ会社を立ち上げるに至った動機とその事業内容に迫る。

金現物のオンライン投資プラットフォームである英国ブリオンボールドサービスを日本で展開し、今次世代の金現物投資の姿を模索するブリオン・ジャパン株式会社CEO平井政光氏。 今回から2回に渡って、彼が新たな事業展開の準備のために訪れたオーストリアウィーンに同行し、新規事業のために新たなグループ会社を立ち上げるに至った動機とその事業内容に迫る。

「今回のウィーン訪問の本題に入る前に、いくつかウィーンでご覧いただきたいところがあります」

平井氏からの招待で我々は、19世紀末にウィーンで花開いた世紀末芸術の代表的な画家であるグスタフ・クリムトのいくつかの作品を案内された。

ここで退廃芸術とも言われる世紀末芸術の誕生の背景を説明しておきたい。19世紀後半から19世紀末は第二次産業革命により重工業・重化学工業が発達し、現在まで続く石油と電力を基盤とした近代化が進む中、世界規模での資源や市場の獲得競争が激化した結果、帝国主義が台頭した時代でもある。

帝国主義では、金融資本による資本の支配-いわゆる独占資本と国家権力が結びつき、軍事力による領土、勢力圏、植民地の拡大を図る膨張政策を列強国が競うようになった。帝国主義国家内部においては、国家利益がすべてに優先され、個人の自由は強く制限されることが多くなり、人々が従来の支配層である王侯貴族ではない新たな支配層の誕生と社会の変革に漠然をした不安を持っていた事も、退廃芸術とも言われる世紀末芸術の誕生の背景であり、大きな変革期を迎えた世相を反映した芸術であるとも言える。

そのような背景を持つ世紀末芸術を案内してくれた平井氏は、ウィーンのクリムトの作品群を年代毎に見ることで、人々にとっての金への認識の変遷を見る事ができると言う。

時代の変革時にこそ存在感を増す金の価値

最初に案内された美術史博物館の大階段ホールにある時代毎に栄えた都市国家のシンボリックな壁画群には、鮮やかな金による装飾が施されている。この壁画群は、クリムト達によって1891年に描かれたもので、この頃はまだ金による装飾は神の力や富・権力を表すために使われており、クリムト自体も非常に古典的なアプローチにより、中世的絵画のテーマに基づいた手法でこれらの壁画を描いる。この壁画たちを見ても、金という素材が神話の時代から価値の認められた資産である事が良く伝わるものである。

次に平井氏は、我々をベルヴェデーレ宮殿のオーストリア絵画館の“ユディト”へと案内した。

ユディトは旧約聖書外典のユディト記に登場するベトリアに住むユダヤ人の美しい寡婦である。彼女は、その神への信仰の厚さからベトリアの人々に尊敬されていた。

アッシリアの侵攻に際して、彼女は降伏せざるを得なくなったベトリアの民を励まし、単身着飾ってアッシリアの司令官ホロフェルネスの元に赴き、エルサレム進軍の案内を申し出たふりをする。そして酒宴の後泥酔するホロフェルネスの首を、その短剣によって切り落とした。司令官を失ったアッシリア軍をユダヤ人は追撃し、それを打ち破った。

この絵でクリムトは、絢爛な金装飾を着飾ったユディトの衣装として使用している。美術史博物館では、金装飾は神の力、富・権力の象徴であったのに対して、このユディトでは神への信仰を守るために立ち上がった一寡婦の装束として描かれているのである。

時代の変革時にこそ存在感を増す金の価値

平井氏は我々に問いかけた。

「この絵でユディトは切り落としたホロフェルネスの首を抱え恍惚の表情を浮かべています。これは第二次産業革命によって、それまでの世界のモラルが崩壊し変革していく様子をクリムトが写し取ったと考えられると思いませんか。しかもこの頃は長く続いた大不況の中で、金本位制による貨幣経済が成立していきました。

つまりこの絵でクリムトが一寡婦であるユディトの装束に金装飾を用いたのは、この金本位制で直接的ではなくとも金という資産価値が多くの庶民にとって身近なものとなった事が背景にあったのではないか?

一流の芸術家であった彼が敏感に世相を感じ、それまでは社会的弱者であった寡婦が富の象徴である金で飾られた煌びやかな衣装を纏い、権力と力の象徴である軍司令官を打ち破る。その寓話の中に、資本によって存在していた権力や価値といったものが打ち破られていく事への高揚感や恐怖心を投影しているからこそ、首を抱えて恍惚の表情を浮かべるユディトのモチーフが生まれたのではないか。

そしてそんな激しい変革の時代の中で変わらぬ価値を維持し、拠り所として機能したものが金だったのではないか。そう考えるのは金を取り扱う人間としてのセンチメンタルかもしれませんね」

時代の変革時にこそ存在感を増す金の価値

オーストリア絵画館には、クリムトの作品の中でも最も有名な”接吻”も展示されている。クリムトが1900年に分離派会館で開催されたジャポニズム展等を通じて、浮世絵や琳派の影響を受けていたことは有名で、この接吻にもその影響を見る事ができる。

平井氏は続けた。

「もしクリムトが生きていたら、前回対談した京都の金箔伝統工芸士、裕人礫翔さんと意気投合しそうですよね。きっと礫翔さんの技術はクリムトにも強いインスピレーションを与えたと思います。前回も話しましたが東洋・西洋を問わず金の持つ美しさは人を惹きつけるものであると同時に、資産としても価値があるものです。

この時代、旧来の権威や価値観が崩壊していく中で、金の持つ資産価値や美しさは人を惹きつけるだけでなく、信じ頼ることのできる普遍の価値として無意識に認識され、通貨としても芸術としても花開いたのは非常に興味深い歴史だと思いませんか」

時代の変革時にこそ存在感を増す金の価値

世紀末芸術の絵画鑑賞の最後に、分離派会館の壁画ベートーベン・フリーズを訪ねた。この作品はベートーベンの第九をモチーフとして、「幸福への憧れ」・「敵対する勢力」・「歓喜の歌」の3つの壁面から構成されており、古典的で権威的な美術家組合と訣別し、初代分離派会長として保守的な芸術からの脱却を目指したものである。

その壁画を真剣に見つめる平井氏の目は自身の挑戦と当時のクリムトの挑戦を重ね合わせているようだった。我々は全員が静寂の中、クリムトの傑作だけでなく、平井氏の目に宿る強い決意に心を動かされた。

対談

その後、「建築は必要にのみ従う」と唱え、カールスプラッツ駅やアム・シュタインホーフ協会などを設計したオットー・ワーグナーの建築やウィーン旧市街を案内してくれた平井氏。そこで彼は今回のウィーンの訪問の意図を話してくれた。

「世界は今、大きな変革期を迎えていると思います。インダストリアル4.0など色々と呼ばれていますが、世界的なインターネットと携帯端末の普及により、全てのスピードが早くなっているだけでなくブロックチェーンなどの登場もあり、従来の金融の常識が変わるかもしれません。

仮想通貨やICOなども今までになかった経済の仕組みです。ただ今回、ウィーンで見ていただいた世紀末の変革期に存在感を増した金のように、今の変革期にも金現物は重要な資産となると思います。だからこそ僕たちは時代に沿うサービスを実現していかなければいけません。今回のウィーン訪問は、その実現に向けての重要なマイルストーンとなるものです」

平井氏の言う重要なマイルストーンに関しては次回へ

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