不確実性が高まる経済状況で日本企業が成長するための処方箋 〜シスコシステムズのトップに聞くデジタル戦略〜

経済のグローバル化や新興国の台頭、業種を超えたディスラプター(破壊的創造者)の出現など、従来にも増して厳しい競争を強いられる日本企業。不確実性が増す経済状況の中で成長を続けるには、意識的な変革が求められている。そのキーワードとなっているのがデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。このような取り組みを、ネットワークやセキュリティーなどの製品・サービスによって支援しているのがシスコシステムズだ。同社は2015年7月にチャック・ロビンス氏がCEOに就任してから、DXへの取り組みを大幅に強化。また2018年7月には日本法人の社長にデイヴ・ウェスト氏が就任したことで、日本市場における戦略にも注目が集まっている。ここでは米シスコシステムズ社で最高財務責任者を務めるケリー・クラマー氏と日本法人の新社長となったデイヴ・ウェスト氏に、同社の戦略と、日本企業がDXの推進に当たって注意すべきポイントについて話を聞いた。

シスコシステムズ エグゼクティブバイスプレジデント 兼 最高財務責任者 ケリー・クラマー氏シスコシステムズ合同会社 代表執行役員 社長 デイヴ・ウェスト氏

デジタル技術で日本企業に革新と活力を 知日派の社長が描くシスコの新戦略とは

日本におけるデジタル変革の支援をさらに強化

前任者の鈴木 みゆき氏からバトンタッチし、2018年7月30日付けでシスコシステムズ(以下 シスコ)日本法人の社長に就任したデイヴ・ウェスト氏。同氏はIT業界で25年以上の経験を持ち、シスコにも18年間在籍している人物だ。ウェスト氏は、今後、日本市場においてどのような戦略に基づき、いかなる舵取りを進めていくのか。

これについて「前任の社長である鈴木 みゆきが打ち出していた戦略を引き継ぎながら、それをさらに前進させていきます」とウェスト氏は語る。

鈴木氏が打ち出していた戦略は、大きく3つの要素で構成されている。

1つ目は「日本のデジタル変革を加速」だ。既に、日本の製造業の顧客企業と累計10もの共同IoTソリューションの提供を開始したほか、新規スマートシティ実証実験も2件着手。またシスコ自身もデジタル技術を活用した働き方改革を推進し、2018年2月に発表された日本における「働きがいのある会社」ランキングでも、従業員1000名以上の大規模部門で第1位になっている

※2018年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング(Great Place to Work Institute Japan)

2つ目は「次世代プラットフォームの構築」だ。これについては、IT環境の運用を自動化・自律化できるようにするためのプラットフォーム製品を積極的に展開。これを活用する大規模案件も獲得している。

そして3つ目が「日本市場に根ざした事業展開」だ。ここでは中堅中小企業へのソリューション提供を積極的に展開するとともに、スポーツ&エンターテインメント分野での新たな取り組みも行っている。

「これからもこれらの取り組みを継承しながら、日本のお客様やパートナー、社会とともに、デジタルイノベーションの共創を目指していきます」とウェスト氏。そのために大きく3つの領域で取り組んでいくという(図)。

ウェスト氏が説明するシスコ日本法人の戦略

日本におけるデジタルイノベーション共創を行うため、3つの領域でそれぞれ2つの戦略テーマを掲げ、取り組みを推進していくという

まず第1の領域は「お客様とパートナー」。ここでの1つ目のテーマは「デジタルトランスフォーメーション(DX)」だ。

「欧米や新興国企業がグローバル市場だけでなく、日本市場にも参入し、次々に新しいサービスを展開しています。日本企業がこうした動きに対抗していくためには、スピーディーかつ柔軟に事業を展開しなければなりません。そのためには、先を見据え、場合によっては自らが積極的に変化を起こしていく必要があります。例えば製造業であれば、スマートカーやスマートファクトリー、ロボットへの取り組みが必要になるでしょう。また流通業では新たな購買方法の提供、金融業ではデジタルバンキングの積極展開が求められるようになるはずです。シスコはこのような取り組みを、高い品質と信頼性、セキュリティーの提供によってサポートしたいと考えています」(ウェスト氏)


シスコ自身も「ソフトウエア企業」へとビジネスモデルを変革

「お客様とパートナー」における第2のテーマは「エクスペリエンス(体験)」。これは、顧客やパートナーがシスコのソリューションを使う際の利便性を新たな方法で向上させ、テクノロジーの積極的な活用を容易にすることを指す。

この実現に向けて、シスコ自身が「ソフトウエア企業」へと変貌を遂げつつあるのだという。

「シスコはこれまで30年間にわたってハードウエアベースのビジネスを行ってきましたが、これをソフトウエアベースへと転換しています。またユーザーエクスペリエンスもよりシンプルなものにし、これまで手作業が必要だった部分も自動化していきます。もちろんシスコはこれまでもソフトウエア開発を行ってきたのですが、それらは機器に組み込まれた形で出荷されていました。いま取り組んでいるソフトウエア化は、その抽象レベルをさらに上げ、複数の技術要素の連携を容易にし、自動化や自律化を推進していくためのものです。これによって変化のスピードを上げることができ、お客様もそのメリットを享受しやすくなると考えています」(ウェスト氏)

次に、第2の領域として挙げられたのが「社会イノベーション」である。ここでの戦略テーマは「東京2020」と「未来の働き方」だ。

「まず東京2020についてですが、ここでは日本ならではのホスピタリティの実現を、当社のテクノロジーを活用した自動化やスマートコネクト、サイバーセキュリティ人材育成によって支援します。これらのソリューションは東京2020だけに限らず、その後の観光業などにも生かせるはずです」とウェスト氏は説明する。

未来の働き方に関しては、少子高齢化や労働人口の減少がその背景にある。今後は、あらゆる場所、あらゆるデバイスで仕事ができる環境の整備がさらに多くの企業で求められてくるはずだ。これが可能になれば、これまでは育児や介護のためにやむなく離職していた人々や、限られた時間で働くことを希望する高齢者なども、ビジネスに参加しやすくなる。「またデジタルツールに慣れているミレニアル世代(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)にとっても、働きやすい環境になってくるはずです」とウェスト氏は言う。

シスコではこのような環境を実現するソリューションを提供すると同時に、自社でも積極的に活用している。前述の「働きがいのある会社」ランキングの結果も、このような取り組みが評価されたからだといえるだろう。また多様な人々が共に働く「ダイバーシティ」にも積極的に取り組んでいる。実際に東京をはじめとする各地オフィスでは、多様な国や地域の出身者が、一緒に働いているという。

その一方で、物理的なオフィス環境の変革も進めている。その1つとしてウェスト氏が挙げたのが、東京オフィスを刷新して作られたフリーアドレスとコラボレーションスペースの開設だ。「これまでのようにデスクが並んでいるオフィスでは、なかなかほかの部門との連携やコラボレーションが難しかったのですが、このようなオープンスペースを用意することで、組織の垣根を越えたグループでの活動も活発になっています」とウェスト氏は述べる。


顧客やパートナーの声を聞きながら戦略策定と実行を推進

そして第3の領域が「エコパートナーシップ」だ。ここでは「戦略アライアンス」と「日本の活性化」が、戦略テーマに挙げられている。

戦略アライアンスでは、IoTやロボティクス、AI、サイバーセキュリティなどの分野で、これまでになかったような新たなアライアンスを推進。例えば製造業では、ファナック、横河電機、ヤマザキマザックとの戦略的アライアンスを締結しており、ロボティクスやスマートコネクト、工場におけるエコソリューションの取り組みも推進している。また、働き方改革に関連したコミュニケーションツールであるコラボレーション製品分野でもソニーと提携。さらにAutomotive Edge Computing Consortium(AECC)に参画。コネクテッドカーや自動運転の実現に向け必要となる様々なサービスを支える基盤づくりを推進している。

日本の活性化に関しては、日本の公的機関と共に、サイバーセキュリティの強化や脅威に関する情報収集・分析などを推進。また、京都・嵐山において、映像コンテンツによる多彩な表現を可能にするソリューションで、先進的な観光情報発信プラットフォームを構築したり、東京・日本橋室町地区で、エリアの防災高度化を目指した実証実験を開始したりと、スマートシティに関連したいくつものプロジェクトを推進している。

「このような戦略を策定・実行していくために、日本のお客様やパートナーと直接お会いしてお話を伺うとともに、経営層の方々の幅広い声を聞くためのエグゼクティブフォーラムも開催しています」とウェスト氏。こうしてヒアリングした声は、米国本社にもフィードバックされ、社内体制や製品戦略、顧客サービスに生かされるという。

「これからもこのような取り組みを積極的に進めながら、日本のデジタルイノベーションを支援し、思い入れの深い日本をさらに元気にしていくお手伝いをしたいと思っています」とウェスト氏は最後に語った。


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