日経ビジネスオンラインスペシャル

企業の不正リスク調査白書

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企業の不正はなぜ起きるのか、不正を防ぐことはできるのか。デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社発行の《企業の不正リスク調査白書》(A4版・全36頁)は、上場企業を対象にアンケート調査を実施し、「社内外コミュニケーションや不正の実態」「不正への取り組み」をテーマに最新事情を分析・紹介しています。

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米国ニューヨーク州公認会計士 プリボスト真由美 氏 Mayumi Prevost

SPECIAL INTERVIEW

不正相次ぐ日本企業|不正の実態と不正への取り組み

縦割り組織、忖度の精神が
企業不正を生む要因に。
内部監査の底上げが急務!

デロイト トーマツ ファイナンシャル
アドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス
マネージングディレクター
米国ニューヨーク州公認会計士

プリボスト真由美 氏 Mayumi Prevost

PROFILE

デロイト ファイナンシャルアドバイザリーサービスLLPニューヨーク事務所で、フォレンジック&ディスピュートサービス部門において19年以上の経験を有しており、上場および非上場企業に対し、多種多様な財務調査の実務経験がある。FCPAを含む汚職防止コンプライアンス監査・調査では10年以上の経験があり、調査関連業務に関しては財務不正、資産横領、リベート、着服を含む、多数の国内および国際企業調査に従事。訴訟・係争関連業務では、訴訟、反トラスト法、特許侵害、証券不正、監査人責任、M&Aにおける価格決定後の問題事案など、広範囲な実務経験を有している

RELIABLE

ここ数年、日本企業の不正・不祥事が相次いでいる。
不正リスクに対する意識は確かに高まったが、企業内の
制度や運用は機能しているのか。日本企業特有の問題点
は何なのか、どうすれば不正を防げるのか——。
不正の実態と不正リスクへの取り組みを考える。

 多くの日本企業は、過去に経験した不正に対して不安に感じているというよりも、何か漠然とした不安を抱いています。そして、不正が社外に漏れることによるレピュテーション(評判)を最も気にしています。

 不正への取り組みとしては、モニタリングをせず対象者へのインタビューしかしていないなど対策が限定的・断片的です。つまり、もぐらたたき的に「業務を見直しました」という企業が多いということです。確かに多くの企業は不正に対するポリシーを制定しています。しかし、モニタリングはやっていません。だからこそ、いつまでたっても不安が消えないのだと思います。

 日本企業は縦割り組織で、法務・コンプライアンス部門が内部監査部門と連携していない、あるいは「うちの部署の役割はここまで」と線引きしています。しかも、経営者の関わり方が問題で、「うちは大丈夫だろうな。ちゃんとやっといてくれ」とトップから言われて途方にくれる現場担当者を何人も見てきました。

 では、どうすればいいのか――。まずは会社全体のリスクを捉え、対峙することをミッションとするCCO(チーフ・コンプライアンス・オフィサー)を置き、専任チームをつくることが重要です。きちんとガバナンスを働かせないと、“漠然とした不安”は一向になくなりません。

 日本でも「コンプライアンス」「ガバナンス」という言葉を普通に耳にするようになりました。例えば10年前と比べても、不正に対する意識レベルは上がっています。ただ、「日本人は不正をしない」という性善説が依然としてあります。

 内部通報制度は非常に重要で、多くの日本企業は制度として整えています。しかし、社内の各現場がその制度を知らないという企業も多く、また日本独特の忖度の精神が通報を邪魔しています。「おまえ、分かっているよな」「仲間を売るのか」という無言のプレッシャーです。そこまで見越して有効性のある制度をつくる必要があります。

 グローバル化した今、海外子会社トップに日本人を据えたからといって安心かというと、そうではありません。日本からの監視の目が離れてタガが外れ、不正が起きているのも事実です。もはや「日本人だから安心」というのは認識が甘いといえます。

 海外法人で不正が起こるのは、属人的管理になっているのが一因です。日本からはコントロールできず、組織としての監視が働きません。最初は小さな額から経費の乱用・私物化が始まり、やがて数千万円単位へと膨らんで不正の頻度も増えていきます。

■不正を発見・発覚させるべきルート

不正を発見・発覚させるべきルート

■不正調査の実施手続き

不正調査の実施手続き

出典)※グラフすべて同じ
「企業の不正リスク調査白書」(デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社)
上場企業303社へのアンケート調査結果より

内部監査の質を上げるとともに、魂を込めたトップのメッセージを発信

 日本企業は今後、内部監査の質をもっと上げていかなければなりません。不正は通常の業務監査では見つかりません。欧米では内部監査が当たり前になっていて、専門部署にスペシャリストを配置します。隠蔽が巧妙になり、不正目線のインタビューやデータ分析が求められているからです。例えばインタビューするにしても、質問内容や態度などから不正を発見することができます。データ分析においても、数字の歪みや不正の兆候を見破ることができます。だからこそ、スペシャリストが必要なのです。

■不正リスクへの対応・取り組み

不正リスクへの対応・取り組み

 日本企業における内部監査の良い点は、社員同士で気心が知れているからこそ「頼むよ」と協力を求めやすいところです。反面、何か疑問が出てきた際には突っ込みづらいのが難点です。そうなったときは外部監査に切り替える企業もあります。

 不正に関する社員への研修や啓蒙のトレーニングもやりっ放しにするのではなく、継続していかなければなりません。また、ルールや制度を改訂するなど、次のステージに向けて監査の底上げをしていくことが重要です。そして何よりも「不正はしてはいけない」「許さない」という魂を込めたメッセージをトップが発信し、不正をしない・させない・報告しやすい環境づくりを徹底することが大切です。時間がかかっても、信頼し合える風土が伝染していけば、自浄作用が働く健全な組織になっていくはずです。

Opinion

不正は起きる

青山学院大学 名誉教授 博士
大原大学院大学 会計研究科 教授

八田進二 氏 Shinji Hatta

人ごとと考えず自社に置き換え
不正は許さないという本気度を伝える

PROFILE

2005年4月、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科教授。2018年4月、青山学院大学名誉教授、大原大学院大学会計研究科教授(現在)。その他、金融庁企業会計審議会委員(内部統制部会長)、日本政策投資銀行・日本航空・理想科学工業の社外監査役等を兼務。主な著訳書として、『COSO全社的リスクマネジメント』『会計。道草・寄り道・回り道』『決定版COSO不正リスク管理ガイド』『開示不正:その実態と防止策』『会計のいま、監査のいま、そして内部統制のいま』『COSO内部統制の統合的フレームワーク(フレームワーク篇・ツール篇・外部財務報告篇)』『会計人魂 ! 』『会計プロフェッションと監査』『会計・監査・ガバナンスの基本問題』『21世紀 会計・監査・ガバナンス事典』『企業不正対策ハンドブック -防止と発見-』など多数

 同じ業界の著名企業が不正を起こしても「自社の経営にはあまり影響がない」と考えているのは、そうした不正が一過性だと考えているからです。しかし、同じ業界なら優秀な学生が来なくなる可能性もあります。長期的には就職人気企業ランキングも下がり、いい人材が確保できなくなります。しかも、不正は“人ごと”と見ている企業が多いといえます。「まさか、わが社に限って」と思っているのでしょうが、不正はどの企業で起きてもおかしくありません。他社で不正事案があれば、必ず自社のことに置き換えて考えることが大切です。

 最近、不正発覚後の対応に疑問符の付く事案が少なくありません。10年前と違って、今はメディアやネットなど社会の視線は厳しい。隠すことは不可能で、情報は必ず世の中に漏れることを認識すべきです。そして、不正が発覚したら、速やかに真摯な態度で対応すべきです。

 特に高い技術力を持つものづくり企業では、何事も「現場任せ」にしているのではないでしょうか。その部門が会社の稼ぎ頭であれば、長年、上長に権限委譲していてトップでさえモノを言えません。情報も上がってきません。「不正の発見・発覚ルート」は内部通報がトップです(グラフ1参照)。常に風通しのいい組織体制にするためにも、トップの姿勢や掛け声、意識、ガバナンス能力が問われます。不正を速やかに発見・報告できるルートを確保することが、ひいては経営者の身を守ることになります。

 「不正は必ず起きる」という危機意識を持つことが常に必要です。ただ、日本人は性善説に立ちます。組織の風土やDNAもそう簡単には変わりません。だからこそ、例えば社外取締役を過半数置いて外部の目で監視・チェックしてもらうことも重要です。そして、たった一人の優秀な経営者で会社は生まれ変わります。会社全体が同じリスク感覚を持つような組織にすべきです。不正を防止するためには、制度など“ハコ”だけつくっても絵に描いた餅にすぎません。意識や行動を含め、そこにいかに魂を入れるかです。経営者は現場に出向いて胸襟を開いてコミュニケーションすること。そして「組織人として不正に手を染めてはいけない」「不正は許さない」という本気度を繰り返し伝えてください。