日経ビジネスオンライン SPECIAL

INNOVATIONS SINGAPORE

シンガポールでビジネスイノベーションに挑む日本企業

Fact.02
CASE

セーフティビジネスの新展開へ、
オープンイノベーションを加速

NEC

今や、世界中のグローバル企業がシンガポールに拠点を設け、ビジネスイノベーションの創出に挑んでいる。ここではその最前線に立つ日本の先進企業4社――NEC、アズビル、横河電機、カネカを紹介する。これらの企業がどのように現地でビジネス機会をつかみ、事業を展開しているのかに注目してほしい。
最初に登場するのはNEC。NECは、「NEC Safer Cities」というビジョンのもと、世界No.1のバイオメトリックス技術とAI(人工知能)技術を活用し、グローバルにセーフティ事業に注力している。2018年9月、同社はシンガポールにビジネスイノベーションを推進するための新施設「OIC(Open Innovation Centre)」を開設した。NECの未来戦略に迫る。

「アジアの成長力には多くのグローバル企業が注目しています。シンガポールはアジアの物流、金融、情報のハブであり、ショーケース。シンガポール政府や地域企業などとのコラボレーションによってイノベーションを創出し、新たなビジネスを世界に展開していきます」――アジア・大洋州地域の統括拠点であるNECアジアパシフィック社の赤木鉄朗CEOは、この9月にOICをシンガポールに開設した狙いをこう語る。

OICは、NECが持つ世界No.1のバイオメトリックス技術はもちろん、AIやIoTなどの先端技術を、顧客となる政府機関や企業に“体感”してもらう施設だ。館内には金融、輸送、流通などの分野ごとにショーケースが設けられ、顧客はそれぞれの分野で先端技術によってどのようなイノベーションが可能になるのかを理解し、その実現に向けてNECと共にソリューションの開発・実証を進めることができる。

OIC(Open Innovation Centre)の館内。生体認証、AIなどの技術を顧客に体感してもらい、共同でソリューションを開発する

「OICは政府機関や企業、研究機関など、さまざまなステークホルダーに活用頂きたいと考えています。NECの技術を実際に体験してもらい、ビジネスをどう変えていくかを共に考え、新しい価値を共創していきたい」と赤木氏は期待を込めて話す。

NECアジアパシフィック社の赤木鉄朗CEO

NECは50年近いシンガポールでの事業運営を通じて、シンガポール政府と強固な信頼関係を構築してきた。地元企業や研究機関とのコラボレーション、人材の採用・育成、実証プロジェクトなど、さまざまな観点でシンガポール政府と連携している。

シンガポールでセーフティ
ビジネスを育て、世界に展開

NECは1971年にシンガポールに進出、衛星地上局の受注を皮切りに、80年代、90年代は通信インフラやコンピュータを中心にビジネスを展開してきた。2000年代以降は、バイオメトリックス技術を活用したセーフティ事業に特に力を入れている。

2013年、NECとシンガポール経済開発庁(EDB)は、サイバーセキュリティ、IoT、ヘルスケア、スマートエネルギーの4分野でMOU(基本合意書)を締結。さらに、同社にとって世界で5ヶ所目の研究所となるNECラボラトリーズシンガポール(NLS)を設立した。ここに優秀な人材を集め、技術に磨きをかけていった。

追い風となったのが2014年にシンガポール政府が発表した「スマートネーション構想」。国民生活の安全・安心を重要テーマとして掲げ、より安全な都市の実現に向けたさまざまな施策やプロジェクトを打ち出した。

そのひとつが、2016年から2017年にかけて、シンガポールの主要な工業地帯であるジュロン島とその近隣エリアを対象として実施されたセキュリティ実証実験。EDBとシンガポール内務省が推進する「SSIP(Safety and Security Industry Programme)2020」の一環として実施された。

NECはこの実証実験に参加し、(1)顔認証技術と映像・音声情報を解析するシステムを組み合わせた不審な行動や要注意人物の早期検知、(2)バスの乗降口や窓に取り付けたセンサーによって、不正な開閉がないかのモニタリング、(3)顔・指紋を組み合わせた「マルチモーダル認証」によるジュロン島への入場手続きの効率化――について実証を行った。ここで得られた成果はNECが提供するソリューションにフィードバックされ、さまざまなシーンで活用されている。

NECの生体認証技術は、用途によって複数の技術を組み合わせて精度を高める「マルチモーダル認証」が強み

「シンガポールはNECのセーフティ事業をリードする最重要拠点です。ここで生み出された成果が、シンガポールに設立したグローバルセーフティ事業部(GSD)によって世界に展開されていきます」と赤木氏は語る。

シンガポール国内においても、空港などの出入国管理や、公共施設への入退場管理システムなどにNECのバイオメトリックス技術が使われている。従来はこうした「安心・安全」分野が主な用途だったが、ここにきて金融や観光などサービス業界からも引き合いが増えているという。顔認証などにより顧客のニーズをいちはやく把握し、より付加価値の高いパーソナルサービスを提供しようというのである。

「例えば店舗に訪れた顧客を入口のカメラで認識し、スタッフがその顧客の好みに合ったサービスを積極的に薦めるといったことが可能になります。銀行であれば、来店時に顧客をいちはやく特定し、過去の取引データなどを元に、金融商品を効果的に提案することもできるようになります」と赤木氏は説明する。

未来を担うリーダーを育てるプログラムも、
シンガポールから

TDP(Talent Development Program)で採用した未来の幹部候補生たち

もうひとつ、NECとシンガポール政府とのコラボレーションで注目すべき動きがある。EDBとNECが共同で推進する、未来のリーダーを育てる人材育成プログラム「TDP(Talent Development Program)」だ。

TDPの特徴は、未来の幹部候補生をNECアジアパシフィック社の複数のビジネスユニットにローテーションで配属し、短期間で多様な経験や視点を身につけてもらうことにある。NECはシンガポール国内の大学の新卒者と面接を重ね、その中から優秀な人材を採用。現在までに16名をこのプログラムで採用し、育成を図っている。2020年度末までに追加で10名を採用する予定だ。

TDPで採用された幹部候補生は、すでにセーフティ分野やマーケティング分野など、さまざまビジネスの現場で活躍している。

 

グローバルセーフティ事業の成長に向け、シンガポールを起点にビジネスイノベーションと人材育成を加速するNEC。その戦略に今後も注目が集まりそうだ。

関連リンク

シンガポール経済開発庁(EDB)では、年4回発行のオンラインマガジン「BRIDGE」にて、 最新の産業動向や企業の事例を発信しています。
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お問い合わせ

EDB
URL:https://www.edb.gov.sg/content/edb/ja.html

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