日経ビジネスオンライン SPECIAL

INNOVATIONS SINGAPORE

~世界の「智」を集め躍動する
イノベーション・エコシステム~
(CEATECセミナーレビュー)

Fact.03
DISCUSSION

シンガポールは「規制の砂場」、
失敗を恐れず大胆な挑戦を

2018年10月17日、幕張メッセで開かれたCEATEC会場において、シンガポールのイノベーション・エコシステムをテーマとしたカンファレンスが開催された。第一部では、シンガポール経済開発庁(EDB)副次官国際担当のリム・スウィニェン氏が登壇、同国の産業戦略とイノベーション・エコシステムの特徴について講演した。続く第二部パネル討論では、学識者と企業の担当者がパネリストとして登壇し、日本企業がシンガポールでビジネスイノベーションをどのように希求するかについて、聴講者も巻き込みながら、熱い議論が交わされた。

第一部 講演者

リム・スウィニェン 氏

シンガポール経済開発庁(EDB)
副次官国際担当

第二部 パネリスト

米倉誠一郎 氏

法政大学大学院教授
一橋大学イノベーション
研究センター 特任教授
一橋大学名誉教授
プレトリア大学
日本研究センター 顧問

横瀧 崇 氏

アクセンチュア
戦略コンサルティング本部
M&A 日本・アセアン統括
兼 シンガポールイノベーション担当
マネジング・ディレクター

モデレーター

高木邦子 氏

日経BP社
日経BP総研 ビジョナリー
経営ラボ 主任研究員

カンファレンスの第一部では、シンガポール経済開発庁(EDB)副次官リム・スウィニェン氏が登壇、シンガポールのイノベーション・エコシステムの特徴と、政府による支援についてのプレゼンテーションを行った。

「シンガポールは時代とともに産業戦略を転換してきた。」とスウィニェン氏は語る。「より多くの企業がオープンイノベーションを採用し、スタートアップを新しいアイディアや技術や製品の資源だと捉えています。シンガポールはそういったニーズを満たすイノベーションのホットスポットをいくつも生み出してきました。」

そんなイノベーションスポットのひとつが、イノベーションを生み出すスタートアップの拠点となるブロック71。このエリアには、250社以上のスタートアップ企業と、30のインキュベーター、ベンチャーキャピタルなどが集積し、「世界で最も密度の高い」起業家たちのエコシステムを形成しているという。

もうひとつ、デジタル人材の育成・供給支援策についても言及した。

「データサイエンス、ネットワークエンジニアリング、ソフトウェアエンジニアリング、サイバーセキュリティといった分野のデジタル人材を、大学や民間のトレーニング機関によって育成している。シンガポールでデジタルイノベーションを起こそうというとき、即戦力を容易に見つけられることは大きなアドバンテージ」と、スウィニェン氏は主張する。

最後に同氏は、シンガポールに進出してイノベーションを実現している日本の企業4社の事例を紹介して講演をしめくくった。

なぜ日本で画期的なイノベーションが生まれなくなったのか

第二部では、イノベーションに関して国内随一の有識者である法政大学大学院教授の米倉誠一郎氏と、実際にシンガポールにおいてさまざまな企業を支援しているアクセンチュアの横瀧崇氏を迎えて、パネルディスカッションが行われた。

まず米倉氏は、日本からかつてのような国際競争力が失われた現状についてデータをもとに解説。日本企業が抱える問題点を指摘した。

「日本は、直近の20年間でGDP(国内総生産)が横ばい。まったく成長していないのは主要国で日本だけだ。中国の20倍は別格としても、先進国ではドイツでも1.5倍、アメリカは2.5倍、不況といわれる韓国でも3倍程度に伸びている。非常に憂慮すべきことだ」

「戦後の日本は、資源が乏しいため、外国から資源を輸入し、それを加工して輸出することを国是とした。加工した製品に競争力がなければ世界で勝てない。1980年代までは、日本人の頭にあったのは国際競争力だった。ところが、80年代に豊かになると、この国是を忘れてしまった。国際競争力を考えずに、海外で通用しない製品を次々に生み出しては自己満足を重ねていった」

日本が学ぶべきは、アメリカではなく、ヨーロッパであり、シンガポールやアブダビのような小国の生き方ではないかと、米倉氏は問題提起する。

プラットフォームを取りに行く、
それが本当のイノベーション

これからの時代、日本の企業はいかにして、成長を加速させるイノベーションを生み出せばいいのか。

米倉氏が挙げたのは、「構想力」とそれを実現するエコシステムだ。

「重要なのは、どんなビジネスをつくり、どうやってそのプラットフォームを取りにいくかという構想力。IoTが得意だとか、ファクトリー・オートメーションは世界一といった単体の技術で勝負していては、永久に部品提供者にとどまってしまう。現在の日本の企業は過去の成功体験に縛られ、容易に事業領域を拡大しようとしない。チャレンジがない。一番の問題点は、ここにある」と米倉氏は強調する。

プラットフォームを取るには、技術、資金、人材、情報などのイノベーションを創出するためのエコシステムが必要だ。アクセンチュアの横瀧氏は、シンガポールにこそ、日本企業がイノベーションを起こすためのカギがあると語る。同氏は、シンガポールに長期赴任し、日本企業のM&A(買収・合併)を支援する業務を担当。そこで、シンガポール社会がいかに洗練されているかを体感したという。

「もっとも驚いたのは、モビリティの便利さ。スマホアプリを使った配車サービス「グラヴ」の普及のみならず、自転車のシェアリング、電動モーター付きキックボード、さらにはビルの車寄せの配置のしくみなど、日本では規制があって実現していないものが、どんどん実用化されている。そのスピード感に圧倒された」と、横瀧氏は実感をこめて話す。

日本ではできないことを
シンガポールで実証する

横瀧氏は、多くの日本企業を支援した経験をもとに、次のようにアドバイスを送る。

「シンガポールは『規制の砂場』。ある一定の条件のもとに規制を外し、企業による実証試験を柔軟に受け入れ、支援してくれる国だ。日本ではできない新たな取り組みを、日本に先んじてできるメリットがある。イノベーションによってビジネスをつくろうという企業にとって、このしくみを活用しない手はないだろう」

都市国家であるシンガポールは、交通の混雑、水の確保、人口の高齢化など、さまざまな課題を抱えており、解決に向けたあらゆる実証プロジェクトが行われている。そうしたソリューションのなかに、プラットフォームを押さえるための多くのビジネスチャンスを見いだすことができる。

政府の手厚い支援のもと、急速に整いつつあるシンガポールのエコシステム。特に横瀧氏が強調したのは「市場特性」だ。

「多様な人種、民族がシンガポールには混在している。シンガポールはグローバル市場の縮図になっている。シンガポールで成功したモデルを他のアセアン地域や自国、欧州へと展開することができる。グローバルレベルでのイノベーション創出の環境が整っている」と横瀧氏は現地の状況を伝える。

シンガポールにネットワークがなくても、まず一歩踏み出すことが重要、と横瀧氏は言う。現地の情報や人材を紹介したり、現地のスタートアップ企業とマッチングしたりといったビジネスサービスを、アクセンチュアをはじめとするコンサルティング会社が行っている。そういう意味でシンガポールは、優れた技術や人材をつないでバリューチェーンを構築する出会いの場になっている。

失敗を恐れず、
挑戦するマインドをもつ

今の日本に欠けているのは、失敗に対する許容だと、米倉氏はいう。失敗を許容できなければ、チャレンジはできない。

「私は去年、デザイン・シンキングを学ぶために、スタンフォード大学のDスクールにいったが、そこのワークショップに出席して、1つだけはっきりと分かったことがある。それは、『Fail early!』。早く失敗をし、そこから学ぶことで、早く成長できる、というメンタリティだ。これがイノベーションには欠かせない。日本企業はまだまだ失敗が許容される風土になっていない。だからこそ、シンガポールのようなエコシステムを提供している場所で、失敗を恐れることなくチャレンジしてほしい」

横瀧氏は、シンガポールのエコシステムを活用しようという日本企業に対して、3つのアドバイスを示した。

1つ目は、シンガポールを、これまでのアジアのリージョナルヘッドクオーターという位置づけだけで見るのではなく、イノベーションの中心の基地としてとらえ、グローバルで拠点の配置を再考するということ。例えば、シリコンバレーやイスラエル等の技術を、シンガポールで商用化を検討してみるといったことが可能になる。

2つ目は、本社のマネジメントのコミットメント。

「シンガポールの出先機関では、日常の仕事とイノベーションを両方やらなくてはならない。ありがちなのは、必要な資金や人材などは提供せずにプレッシャーだけをかけること。本気でイノベーションを創出しようと思うのであれば、マネジメントがしっかりコミットして進める必要がある」

3つ目は、人材の育成。エース級の人材を拠出して戦略的に育成する。人材は日本人だけに限定する必要はない。イノベーション創出の核となるシンガポールに、自社の将来を担う人材を配置、育成していくことが中長期的な自社の競争優位性構築の肝となるだろう。

最後に、シンガポールへの進出を検討している企業や個人に対して、米倉氏がメッセージを送った。

「ぜひ、『外国人をマネジメントしてやろう』という気持ちで、一旗も二旗も上げてほしい。日本の技術力も日本人中心の人事制度ももう通用しない。日本国内でできないことを、シンガポールでぜひ実現してほしい」

会場からの質問も次々に飛び出し、熱い議論の余韻を残してパネル討論は終了した。

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URL:https://www.edb.gov.sg/content/edb/ja.html

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