日経ビジネスオンラインスペシャル

企業価値を左右するタックス戦略 グローバルネットワークとデジタル対応でスピーディーな事業売却を後押し

Managing Global Competitive Position国際競争力強化の戦略

世界のビジネス環境の変化は加速される一方だ。テクノロジーの急激な発展に伴い、M&Aで自社にない事業や人材を手に入れ、熾烈なビジネスの第一線に躍り出ようとする動きも盛んになっている。そうしたなか、日本企業にとって重要になってきたのが「ポートフォリオ・ストラテジー」「企業の再編・売却(ダイベストメント)」「成長とタックス戦略」の3つだ。

企業が成長戦略を描くとき、税務(タックス)への対応は重要な鍵になる。たとえば事業売却を検討する場合、タックス戦略によって事業を高い価格で売りやすくなったり、不用意なタックスコストの発生を避けたりすることができるからだ。日本企業が事業の再編・売却やM&A(合併・買収)によって新たな成長を目指すときに留意すべきタックス戦略とは何か、国際税務コンサルティングで豊富な経験を持つ金谷雅子氏に聞いた。(聞き手:日経BP総研 ビジョナリー経営ラボ プロデューサー 長坂邦宏)

――世界のグローバル企業の87%が、今後2年の間に事業売却を考えているというEYの調査結果を発表されましたね。企業による事業の選択集中はますます加速しそうです。一方、2017年末には、約30年ぶりとなる大型の米国税制改革が行われるなど、各国の税制はめまぐるしく変わっています。こうしたなか、企業が事業の再編・売却(ダイベストメント)を検討する場合、税の問題への対応についてどのようなことに留意すべきでしょうか。

金谷 経営戦略として事業再編・売却を行うときには、必ず課税の問題が関わってきます。したがって、税への対応、つまりタックス戦略を織り込んで考えていかなくてはなりません。売却によって税金の支払いが生じるのか。生じるとしたら、どれくらいか。再編方法や売り方を工夫することによって課税インパクトを減らせるのか。しっかりとタックス戦略を練れば、事業を売りやすくなったり、より高い価格で売れたりする場合もあるのです。
 税法にもいろいろな規定があり、あるケースでは課税の繰り延べができるが、別のケースでは繰り延べができないということがあります。それを知っているのと知らないのとでは、税引後の収益面に大きな違いがでます。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

――なるほど。税務が経営戦略の決定に欠かせないものになっているわけですね。

金谷 その通りです。タックス戦略を立てるうえでは、タックスリスクをマネジメントするという観点も重要です。 日本の企業が事業再編・売却を行う場合、最初から一部の事業を売り切るのではなく、まず対象となる事業部門を分割・子会社化した後に売りに出す、あるいはジョイントベンチャーにするというケースが多くみられます。雇用面等の配慮が主な理由です。こうした場合、最初の事業再編、たとえば社内で分社化した時点での税金をどう抑えるかというあたりが課題となってきます。
 売却の場合、売却する事業や会社について、税金面でのリスクをきちんと評価することが大切です。きちんと納税しているか、税務コンプライアンスが順守されているかといったことをチェックして、“きれいな状態”であることをアピールして良い条件で売却する。その一方で、タックスリスクを勘案しつつ条件で妥協して早めに売るという考え方もあると思います。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー
EYの『ダイベストメントに関する意識調査(2018年)』調査結果より

――日本企業のグローバル化が進み、海外で手がけていた事業を再編・売却する事例も増えているようです。

金谷 EYがお手伝いさせていただいた事業売却の件数を見ると、アジア、特に東南アジアが増えています。ただし、規模・金額面で見ると中国やアメリカ、ヨーロッパが大きいですね。
 それというのも、歴史的に見て、欧米は進出してから年数が経っているケースが多いので、状況によってはそろそろ売却を考えるフェーズになっているわけです。これに対して、東南アジアはまだ一般には進出し始めてそんなに時間が経っていないので売却を検討する案件が少ないといことでしょうか。

グローバル企業の事業売却やM&Aで豊富な実績を持つEY

――改めて、事業再編・売却支援サービスにおけるEYの強みとは何でしょうか。

金谷 企業が海外事業の再編・売却やM&Aを検討する場合、まず事業上の目的があって、どこを整理するとか、どこに投資するという動きがあり、そのなかで税金はどうなのかという問題に入ります。EYには、ビジネス戦略や法律、税務などさまざまな専門家が世界各国にいて、クライアントにとって最適なアドバイスができるような形にチームを編成しています。「ビッグ4」と呼ばれるコンサルティングファームに所属する他の税理士法人も、同様なスタイルを取っていますが、EYはグローバルのメンバー間の連携のよさを強みにしています。
 その背景には、EYがロンドンのヘッドオフィスを中心にして連携しながら活動していることがあると思います。他の税理士法人のグループは国ごとに独立独歩的であるのに対し、EYはグローバルで同じ価値観を共有し、共通のプラットフォームを使うことに力を注いできたため、連携が取りやすいのです。そうした強力なネットワークを生かし、グローバル企業の事業売却やM&Aを数多く手がけてきました。その経験値もEYの強みになっています。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

――EYのタックスチームが手がけた日本企業による海外事業の再編・売却の具体的な事例についてご紹介いただけますか。

金谷 ある日本の製造企業の事例ですが、1つの事業部門が中国やタイなど複数の国に拠点を持っていたのですが、売却を想定して全部切り出して1つにまとめ、持ち株会社の下に置くという事業再編の検討をお手伝いしました。各国に工場などもありましたので、それぞれを切り出すときに課税されるか拠点ごとに調べる必要がありました。複数の国にわたって調べるのはなかなか難しいことでし、オペレーションの検討も必要ですが、各国のEYチームと連携し、数カ月でプランを立てて提案しました。
 その企業には、将来的には事業再編した部門を丸ごと売却したいという希望があり、前段階として持ち株会社の下に切り出して置こうと考えたのです。予め切り出しておけば、持ち株会社を売れば一度に売却できるので売却プロセスのスピード化が図れますし、売却後のオペレーションが問題になることもありません。この事例はまだ実施には至っていませんが、EYの税務チームのグローバルネットワークがうまく機能した事例だと考えています。

――グローバルな事業再編・売却やM&Aでは、税務のデジタル化も課題になっていますね。そういう面でのEYの特徴や強みは何でしょうか。

金谷 税務の世界では今、デジタル化においては大きく2つの論点があります。一つは、デジタルツールをいかにうまく使って税務マネジメントに役立てるか。クライアントに対して、デジタルによって業務の効率化やリスク管理をどう図るかを提案していくことが必要です。もう一つは、各国の税務当局もデジタル化が進んでいるので、それに対応していかなければなりません。
 EYとしては、ほかのさまざまな動きに対応するためのデジタルツールの開発にも取り組んでいます。たとえば、タックスヘイブン(租税回避地)税制への対応。海外の優良企業を買収しようと思ったら、じつは租税回避行為を図るための子会社の存在が影に隠れている場合があります。その実態をいち早く把握できるように、対象となる会社の財務データを分析すると、タックスヘイブンになりそうなところにアラートが立つというようなシステムをつくったりしています。

――デジタル化によって、税務の効率化とともにリスクマネジメントについても深化しているわけですね。今日はどうもありがとうございました。

  • 金谷雅子(Masako Kanaya)

    EY税理士法人
    トランザクション タックス ジャパン リーダー
    パートナー
    税理士

    20年以上の国際税務コンサルティング経験を有し、2000年よりEY税理士法人に入所。現在はEY税理士法人のトランザクション タックス部のJapanエリアリーダーとして、国内外の企業を対象としたM&A、組織再編業務に携わる。現在に至るまで、多くの多国籍企業、投資銀行、投資ファンドに税務デューディリジェンスや買収前後のストラクチャリングアドバイスなどのサービスを提供している。

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