日経ビジネスオンラインスペシャル

ASEANは世界の成長センター 激変する市場環境に対応するサプライチェーンをどう再設計するか

Maximizing Supply Chain Valueサプライチェーン・オペレーティングモデルを再考する

サプライチェーンが世界で複雑化した今、それは企業が生み出す製品やサービスの付加価値を高め、収益を最大化するための経営戦略の「手法」のひとつとなった。
旧来の「コスト」削減の要素にとどまらず、国際競争に打ち勝つためのサプライチェーンのオペレーティングモデルを考える。

今や巨大なマーケットへと変貌しつつあるASEAN(東南アジア諸国連合)。日系企業がASEANの成長力を取り込むためには、事業のプランニングから購買(プロキュアメント)、製造、物流、販売に至るサプライチェーンをいかに構築、変革していくかが鍵になる。その要諦について、シンガポールにおいて20年にわたりグローバル企業のサプライチェーン構築を支援してきた深田アレン氏に、サプライチェーン・コンサルティングサービスを統括する羽柴氏が聞いた。

羽柴 多くの日系企業や欧米企業が、ASEANの地域統括拠点をシンガポールに置いています。深田さんはシンガポールで20年にわたりグローバル企業の活動を支援してきて、今年2月から日本に拠点を移して、サプライチェーンの戦略やオペレーティング・モデルの設計から個別領域の改革を支援していますが、まずは、ここ数年間における日系企業のASEANでの動きをどう見ていらっしゃいますか。

深田 シンガポールに地域統括会社をつくる、あるいは「調達」や「資金管理」といった機能を集約するという動きが見られます。従来は、本社と現地法人との間に主従関係がみられましたが、今は現地である程度の判断ができるような体制をつくらなければいけないという話になっています。しかし、まだまだ議論が足りていない気がします。

羽柴 地域統括会社を設立してうまく活用して成果を上げているケースは限られますよね。

深田 そうです。極論してしまうと、とりあえず地域統括会社は必要だからつくりましょうと。しかし、その統括会社の中にどんな機能を持たせるべきなのか、どんな権限を与えるべきなのかという、一番重要なところが煮詰まっていません。
 特に日系企業は、事業部横断的に地域を統括することが非常に難しい。日本国内での各事業部の権限が強いため、海外に出ていったときにも国内と同じ状況になります。特にASEANのように単一の巨大マーケットではなく、複数の多様なマーケットがある地域において、それぞれを管理する権限がまだ事業部にあると、地域横断型にいろんなことを考え、決めていく際に、社内での根回しに多くの時間と労力を要することになってしまいます。マーケットにおける活動をどう効率化するかといった本質的な議論が二次的になってしまうことが多いです。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

羽柴 日系企業の本社の皆さんと議論すると、現地法人にどのような権限と責任を移譲するかで大変悩んでいらっしゃいます。

深田 例えば地域統括会社をつくったけれども、社長、最高経営責任者(CEO)、マネージングダイレクターといったポジションに就く方々が、本社の中でどの程度のポジションなのかが問題です。本社からどれくらいの権限を持っていけるかという部分で、現状ではなかなか難しいものがあります。
 玉虫色な権限の移譲になるとなかなか予算もつかないですから、地域統括会社といっても本社の出先機関に過ぎず、本社からサービス料をもらって、調整機能を果たしているだけというケースがよくあります。そうすると、地域統括会社がASEAN各地の現地法人に対して供与する付加価値が限定されてしまうため、今度は現地法人の統括会社に対する見方が厳しくなる。ただ数字を出せと言って仕事を増やしているだけではないか、単なるコスト増ではないかといったフラストレーションがたまってしまいます。
 ただし、一歩一歩前進している面はあると思います。グローバルな商環境がこれだけ激変している中で、よりマーケットに近いところで、より精度の高い情報やデータを使って経営判断をしていこうという意欲はすごく高まってきていると思いますね。

リージョナル人材を積極活用する欧米企業

羽柴 シンガポールには、欧米企業の地域統括会社もたくさんありますが、日系企業の地域統括会社との違いはどういうところにあるのでしょうか。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

深田 明確に言えるのは、欧米企業の場合、統括会社をつくるときの目的意識が当初からはっきりしていて、それをもとにオペレーティングモデルを設計し、必要な権限を与えて実行していく体制ができているということです。これはある意味、現地の統括会社に責任をとらせるということでもあります。
 これに対し、日系企業の場合、とりあえず統括会社をつくりましょう、人を何人か置きましょう、何をするかはそれから考えましょうというスタイル。実はこれも、ある意味では有効な手段かもしれないけれども、会社をつくったところで止まってしまうリスクが残ってしまいます。
 もう1つの違いは、人材登用の面だと思います。欧米企業は特にこの10~15年、リージョナル(現地の国籍を持つ)人材をどう生かしていくか、そしてマネジメント、最終的には経営陣にどう取り込んでいくかという点において非常に積極的です。
 ところが日系企業の場合、アジアに関して言うとまだまだガラス天井があって、経営陣は日本人という会社が非常に多い。その下の層になると、日系企業は従業員からの信頼、忠誠心が非常に高く、勤続30年という現地の人たちがたくさんいます。

羽柴 先ほどの現地への権限移譲の件とつながる話ですね。

深田 そうです。ただし、状況は少しずつ変わってきています。その理由は、日系企業の場合、本社から外に出せる人が枯渇しているからです。この先、結構大きなブレークスルーがあるかもしれません。 実際に、ある自動車会社は、ほぼ完全にローカルシフトをしています。つまり現地企業のトップを含め、リージョナル人材に経営を任せている。これからは、中国の人、ASEANの人がもっと台頭してきて、日系企業の経営に直接かかわるというケースが増えてくると思います。

市場の変化に柔軟に対応できるサプライチェーンを

羽柴 ASEANの市場環境が目まぐるしく変わる中、日系企業はサプライチェーンを経営戦略の「手法」として捉え、収益を最大化することが求められていますが、欧米企業はASEANでどう行動しているのでしょうか。

深田 ダイナミックな動きをしている会社が多いですね。日系企業と決定的に違うところが大きく2つあると思います。
 1つめは、税務面での効果を高めることに積極的なことです。例えば製薬やバイオ、ライフサイエンス系のビジネスに関して、シンガポール政府は非常に優遇税制を敷いています。ですから欧米企業の中には、シンガポールに機能を集約し、場合によって製剤はすべてシンガポールで行い、世界各国に展開することによって、オペレーション上の効率もさることながら、非常に大きな税務メリットを獲得しているところがあります。
 また、ある米国のIT企業の例では、日本も含めたASEAN地域の管理職をシンガポールに集めて、各国の販売マーケティング活動を全部仕切っています。そうすることでシンガポール政府と優遇税制の交渉をうまく進めて、より多くのキャッシュを取り込み、再投資するということをやっていますね。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

羽柴 サプライチェーンの変革を進める要因として、税のプランニングは重要ということですね。もう1つは何でしょうか。

深田 2つめとしては、マーケットに合わせて迅速にサプライチェーンを見直し、改修しているということです。
 今、ASEANは生産拠点から巨大なマーケットに変貌しつつあり、ここで販売網をどうつくるかが非常に大事になっています。したがってASEANで事業を展開する欧米企業は、上流の事業計画の部分から、一番末端のロジスティックスの部分まで、オペレーティングモデルの作り込みに積極的に取り組んでいます。
 例えば製造業の場合、一番大きい設備投資の部分を頻繁に変えることは難しい。けれども、製造を分業化したり、外注比率を高めたり、いろいろな手を加えながら、必要に応じた調整をかけている。確固たるプロセスがあり、頻繁にプロセスを書きかえているわけではないけれど、プロセスそのものをどこにでも持っていけるようにする。だから、状況が変わっても迅速な対応が可能となるのです。

羽柴 なぜ、スピーディーに改修できるのでしょうか。

深田 システム面が鍵になっていると思います。欧米企業の場合、システムの内製ということはほとんど考えない。業界によって違いはありますが、基本的にはパッケージの基幹システムがまずあって、そこに自分たちが必要なアプリケーションやデジタルツールをどうくっつけていくかというやり方が多くなっていますね。

羽柴 システム以外で、たとえば人材の面などはどうですか。

深田 サプライチェーンの変革を考える上では、人材の問題も避けて通れません。そこでは、包括的な事業設計とオペレーティングモデルの設計が重要なわけですが、現地法人の中に、経営をピース(部分)でしか見られない、あるいはピースレベルでの個別の判断事項しか任せられていない人ばかりだと、包括的な設計など当然できないわけです。先ほども言いましたが、日系企業はこうした人材活用の面でも欧米企業に後れをとっており、対応が求められると思います。

データ活用でサプライチェーン改革を支援するEY

羽柴 今後、グローバル企業がサプライチェーンの機能を高めるには、データをいかに効率的に活用していくかが重要になります。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

深田 データの源泉とは何かというと、事業が生み出すものすべてです。基幹システムのみならず、上流の研究開発、生産、消費者動向まで実にたくさんある。それが、今までは収集しにくかったり、分析や解析をするのが大変だったりしたのが、ここにきてデータ解析ツールも含め、データを活用する環境が急速に整ってきました。販売サイドで考えると、画一的なマーケットの分析ではなくて、極論すれば、1人のお客様のデータをもって、自分たちのビジネスモデルの中でどう対応していくかということが考えられるのです。
 こうした状況が、サプライチェーンにおける個々の流れの中で生まれています。データ活用を強化していくことが、サプライチェーンの機能を高めるために重要であり、EYもここに注力しています。
 具体的には、サプライチェーンを「プランニング」「購買(プロキュアメント)」「製造」「物流」の大きく4つに分け、それぞれにおいてデータの収集、分析、解析をして、戦略や商品・サービスの開発に反映していくデジタルソリューションの展開を、急ピッチで進めているところです。全世界で人員も含めて増強している状況です。

羽柴 最後に、シンガポールで長く勤務されていた経験から、日系企業がASEANで存在感を高めていくために必要なことは何だと思われますか。

深田 今後、ASEAN、そしてアジアにおいてますますマーケットの垣根が取り払われていく中で、日系企業はもっと地域横断的に活躍できると期待しています。というのも、日系企業はエコシステムを構築する手法をしっかりと持っており、護送船団的にがっと出て行ける。系列会社にしてもそうです。これは、日系企業ならではの、すごい強みだと思います。
 半面、環境が変わったときに、そのエコシステムをどう作り変えていくかという対応に問題があるように感じます。逆に言えば、市場変化のスピードに対応したオペレーション、あるいはサプライチェーンをつくることができれば、日系企業はまだまだ成長できると思います。

  • 深田 アレン(Allen H. Fukada)

    EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
    サプライチェーン・アンド・オペレーションズ
    パートナー

    30年以上にわたり、 APACエリアのグローバル企業にて営業、マーケティング、マネジメント、コンサルティングの経験を積む。2015年にEY参画、日本企業をクライアントとしながら、APACエリアでのビジネスディベロップメントおよびコンサルティング支援に従事。2018年より、EYジャパンのパートナーとして、日本エリアにおけるサプライチェーン・アンド・オペレーションズの共同リーダーを務める。

  • 羽柴 崇典(Takanori Hashiba)

    EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
    サプライチェーン・アンド・オペレーションズ リーダー
    パートナー

    2012年にEYに参画し、2014年よりサプライチェーン・コンサルティングサービスを統括している。事業会社およびコンサルティング会社で30年以上のサプライチェーンの経験があり、主に製造業、流通業に対して、経営管理、サプライチェーンマネジメントの業務改革、システム再構築の計画立案と導入、定着化のコンサルティングを多数手掛けている。

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