日経ビジネスオンラインスペシャル

激動する通商環境への備えは?サプライチェーンの管理は関税の「見える化」から

Maximizing Supply Chain Valueサプライチェーン・オペレーティングモデルを再考する

サプライチェーンが世界で複雑化した今、それは企業が生み出す製品やサービスの付加価値を高め、収益を最大化するための経営戦略の「手法」のひとつとなった。
旧来の「コスト」削減の要素にとどまらず、国際競争に打ち勝つためのサプライチェーンのオペレーティングモデルを考える。

トランプ米大統領の登場で保護貿易主義への傾斜が見られるなか、関税問題がにわかにクローズアップされてきた。「見えない税」とも言われる関税は企業の国際競争力をも左右しかねない。日本企業は関税コストに対してどう取り組むべきか。サプライチェーンと関税の問題について、通商関税戦略に精通したインダイレクト タックス リーダーの大平氏に、サプライチェーン・コンサルティングサービスを統括する羽柴氏が聞いた。

羽柴 企業が管理する税金には、法人税をはじめ関税など様々な税金があります。サプライチェーンに対する関税の影響はどう見ていますか。

大平 直接税である法人税は財務諸表に具体的に記載されることからいくら支払っているか一目瞭然ですが、間接税は多くの場合、陸揚げ価格として原価に吸収され、具体的にどのくらい支払っているかが見えにくくなっています。間接税が「見えない税」とよく言われるのはこのためですね。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

関税コストは「見える化」し、適切に管理する

羽柴 実際、企業が支払う関税額はどのくらいのものになるのですか。お客様と原価の話をしているときに、さっと資料がでてくるケースがほとんどありません。

大平 そうですね。最近、米国の法人税率が35%から21%に引き下げられましたが、米国子会社が輸入販社だと仮定した場合、その法人税額は平均で関税の2%程度にしか相当しません。多くの企業はおそらく年間平均2%以上の関税を支払っているので、実は企業にとって税金の管理という意味では、関税管理がとても重要な要素を占めていることになります。

羽柴 ということは、グローバル規模で複雑なサプライチェーンを張りめぐらせている多国籍企業にとって、関税はサプライチェーンに占める大きなコストとなり、それをどううまく管理するかどうかによって企業の営業利益に影響が出てくるわけですね。

大平 ええ。サプライチェーンの中に占める関税コストをいかに削減するかは企業の国際競争力という観点から見れば、死活的な問題だと言えます。グローバルサプライチェーンの管理といった場合、関税コストを「見える化」していき、適切に管理していくことが重要になります。

羽柴 企業はどうやって「見えない税」を「見える化」していけばいいのでしょうか。

EY Japanが考える変革の時代における成長のキードライバー

大平 現状では多くの企業がPDFでしか輸出入通関データを持っていなく、その管理も各国子会社単位でしか行っていないケースが多く見られます。しかし、最近では申告情報を安価でデータ化するテクノロジーの選択肢が多くあるので、そうしたツールを使って本社目線でデータ分析を行うことが必要です。
 例えば、米国のIT企業を例に挙げると、これまでソフトウエアを扱っていた彼らがハードウエアも取り扱うようになったことから、EYの輸出入データアナリティックスのソリューションを導入。タイやオーストラリアなど世界の子会社の関税状況を本社でモニタリングできるようになり、グローバルサプライチェーンに占める関税コストの最適化を実現しました。EYは各国の輸入申告データをデータベース化し、それを分析する業務を依頼されています。

EYデータ・アナリティクス
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「原産地規則」および「検認」とは?

羽柴 関税は、米国のトランプ政権が自国の鉄鋼やアルミ製品を守るために適用するといったことで最近話題になっています。こうした動きはサプライチェーンの管理上、大きな影響がありますよね。

大平 関税はご存じの通り、国内産業を保護するために設定される性質の税ですから、国の通商政策に大きく左右されますし、経済連携協定など国際通商協定にも大きく影響を受けます。北米自由貿易協定(NAFTA)を例にとって、どんな影響があるか考えてみましょう。
 NAFTAでは米国、メキシコ、カナダ間のサプライチェーンは完全に統合され、3カ国の物品取引において関税コストを気にすることなく行き来ができます。関税がかからないのは貨物が「原産地規則」と呼ばれる利用条件を満たしているからで、現在トランプ政権が主張するようにNAFTA再交渉でその原産地規則が変更されれば、関税ゼロで輸出することはできなくなり、関税コストを考慮したサプライチェーンの変更が必要になってきます。
 似た話は英国と欧州連合(EU)の間でもあり、英国のEU離脱後、自由貿易協定(FTA)が結ばれることになればNAFTA同様に原産地規則を充足することを考慮したサプライチェーンを構築することが必要になります。

羽柴 日本も環太平洋経済連携協定(TPP)や日EUのFTAが2019年に発効すると予想されます。すでに世界にはFTAは300ぐらいあると言われていますが、このFTA締結の動きが世界中に広がれば、企業は関税コストを気にすることなくグローバルサプライチェーン戦略を練ることができるようになると考えているお客様が多いのです。実務的にはどんな課題があるのでしょうか。

大平 よく誤解されやすいので注意が必要です。たしかに世界中にFTAが広がれば関税コストを抑えられるようになるのですが、それはあくまでも先に申し上げました原産地規則といった条件を満たしている場合に限ります。
 FTAを利用する場合、「原産地証明書」を輸出当局が発給し、それを輸入通関時に輸入国税関に提示することで関税が無税になります。しかし最近、アジアの国々などで必ずしも原産地規則を満たしていない貨物に対しても原産地証明書が発給され、不当に無税での通関が行われている実態があきらかになっています。このため「検認」と呼ばれる原産地規則の充足状況を輸入国税関が事後に再確認することが増えています。ただし、もし検認で不正が見つかれば、過去にさかのぼって追徴され、多額の罰金を支払うことになるので、これまで以上に原産資格の管理は重要になっています。

FTA業務の「アウトソース化」と「IT化」で関税のコストとリスクを削減する

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羽柴 FTAを正しく使いこなすということが大切なわけですね。そのためにはどんな体制を取り入れるべきでしょうか。

大平 適切なFTAの管理には、正しい関税分類番号(HSコード)を振ること、協定ごとの原産地規則を正しく理解すること、サプライヤーに対して正しい情報を提供すること、そして部品単価や本船渡し(FOB)単価・為替・原産国の変動を逐一モニタリングできるなどの体制が必要です。
 FTAや関税は専門性を必要とする分野にもかかわらず、それらを適切に管理する人員を配置せず、生産管理部や事業管理部の担当者が兼任している事例が見受けられます。急に専門部署を立ち上げるのは難しいでしょうから、FTA管理のためのHS付番、原産地規則の確認、原産資格の計算などを、専門家にアウトソースしたり、ITを活用して自動化したりすることが必要でしょう。EYのそういったソリューションをご活用いただいた企業の多くは、FTAのメリットを確実に拡大させています。

羽柴 なるほど、よくわかりました。ものの動き以外に、ロイヤルティー(特許権、商標権など)やサービスにも注意が必要ですね。

大平 はい。サプライチェーンを変更する際、物品の商流は変更しないで、ロイヤルティーやサービスで回収するモデルのみを導入するケースがあります。その場合、「無形資産の取引」だからといって物品輸入時の関税に影響しないとはいえないので注意が必要です。
 最近では多くの途上国の税関がブランドや製造ライセンスについて「輸入時の課税価格に加算すべき」と主張するケースが増えているため、無形資産と棚卸資産の関係を関税法の観点から事前に整理しておくとよいでしょう。

サプライチェーンと税務、チーム一体となったサービスがEYの強み

羽柴 サプライチェーンの再設計に際して、EYでは関税の「見える化」のソリューションがあり、その「見える化」によって抽出される、関税コストの削減や関税リスクの低減機会を確実に実行に移すことのできる専門家やツールを有していますね。

大平 さらにEYには世界140以上の国に、関税の専門家を750人擁す大きなネットワークがあります。東京でも今年4月、ここ日比谷に拠点集約が行われ、サプライチェーンのチームと税務のチームが協働しています。今回の例のようにサプライチェーンの話になると、最初に間接税が影響してくるので、そのコストとリスクを削減することを検討します。その後、法人税を最も適正にするという観点などから、各税の整合性を合わせながら、サプライチェーン上、どこで製品をつくり、どこで保管し、どう運ぶかといった一連の動きを考えていきます。
 こうしたすべての要素を考えて提案できるのはEYの強みの1つです。この新しいオフィスでは、そうした取り組みがいっそう強化されたように思います。

  • 大平 洋一(Yoichi Ohira)

    EY税理士法人
    インダイレクト タックス リーダー
    パートナー

    大手電機メーカーにて10年以上にわたり、通商関税に係る社内アドバイザリー業務に従事。2008年にEY入所後は、その経験を生かし、自由貿易協定の戦略的活用、関税評価・分類面での関税コスト削減、通商関税コンプライアンスの導入等の分野において、ビジネスの負担軽減を勘案した実用的且つ即効性のある通商関税戦略を展開することに主眼を置く。

  • 羽柴 崇典(Takanori Hashiba)

    EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
    サプライチェーン・アンド・オペレーションズ リーダー
    パートナー

    2012年にEYに参画し、2014年よりサプライチェーン・コンサルティングサービスを統括している。事業会社およびコンサルティング会社で30年以上のサプライチェーンの経験があり、主に製造業、流通業に対して、経営管理、サプライチェーンマネジメントの業務改革、システム再構築の計画立案と導入、定着化のコンサルティングを多数手掛けている。

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