それではカリキュラムの設計は、どのような方針にもとづいて行われたのか。大きく3つの柱があると紺野氏は説明する。
第1は「デジタル戦略」。デジタルビジネスを推進するには、決裁権を持って意思決定を下すことのできる経営層が、デジタル化とは何か、そこにどのようにアプローチしていくべきかという、デジタル革新の本質を理解していることが重要になる。そのため企業経営層を対象に、デジタル戦略をマスターできるコースを用意したのだという。
「講師が受講者に一方的に何かを伝えるだけではなく、それぞれの受講者が自らの課題を持ち込み、それを解決するためのプロジェクトを立案・発表する、という取り組みかたを重視しました」と紺野氏は話す。
また国内だけではなく、米国シリコンバレーやフィンランド、エストニアにも行き、世界的なイノベーターや実務家とのワークショップも開催しているという。
「例えばエストニアでは『e-residency(電子住民)』という取り組みが進んでおり、物理的にはエストニアに居住していない人でも仮想的にエストニア住民になることができ、会社も設立できます。またキャッシュレス化も進んでおり、スウェーデンでは現金の使用率が2%にまで低下しているなど、世界のイノベーションをリードする拠点は、シリコンバレーとバルト海沿岸諸国だからです」
第2の柱は「デザイン思考」。これは最先端のイノベーションを導き出すデザイン思考について学習・実践するコースであり、ビジネスに変革をもたらす実務者を対象にしたものだ。富士通の共創ワークショップ空間「FUJITSU Digital Transformation Center」などを活用し、デザイン思考の基本から実践、応用までをマスターする。ここでも単に知識を伝達するのではなく、有識者や他の受講者との議論やワークショップを通じて、自らの課題解決や新規ビジネスの創出ができる人材育成を目指している。その狙いを紺野氏は次のように語る。
「デザイン思考はビジネススクールなどでも教えていますが、デザイン思考を知っただけではイノベーションは起こせません。それをどの場面でどのように使うのかを、適切に判断できることが重要です。そのためにはデザイン思考を知識として頭に入れるのではなく、身体に叩き込む必要があります。またデジタル化も理解し、そこでどう使っていくのかという視点づくりも欠かせません。ここまでやっているのは本カレッジだけだと思います」。
そして第3の柱が「ICT技術」。デジタル革新を実際に遂行していくには、デジタル技術を駆使できる人材も欠かせない。そのため本カレッジでは、「AI・Analyticsコース」と「セキュリティコース」の2コースを用意。これらのICT技術を活用した新規ビジネス創出や、サイバー攻撃からの防御を担当できる実務者を育成しているのだ。
一般的な研修のように「何回出席したら修了」というのではなく、アジャイル開発で用いられる「スプリント」という考え方を取り入れていることも見逃せない特長だ。これは特定の目的を設定し、それを満たすプロジェクトを一定時間内に実装するというもの。参加者はスプリントの目標に集中でき、これが終わった後は自社に戻って実際の課題解決に役立てることが可能だ。この手法はスタートアップ等で大きな効果を発揮しているが、教育現場でこれを行っているのは珍しいという。
「トランプ大統領の誕生やBrexit(英国の欧州連合脱退)など、この1年を振り返るだけでも予想を裏切られることが数多く発生しました」と紺野氏。冒頭で触れた「VUCAワールド」化は、今後さらに加速していくだろうと指摘する。このような状況の中、本カレッジの意義も高まっていくことになるだろう。では2018年に開講される第二期では、どのようなことが計画されているのだろうか。大きく3つの要素が新たに加わることになるだろうという。
第1は「シナリオプランニング」だ。「局地的に見ると予想が裏切られる場合でも、歴史的観点から大局的に見ていくと、その本質を理解しやすくなります。このような観点を取り入れながら、シナリオを考えていくスキルを高めることが求められます」。
そのためには「リベラルアーツ」が必要であり、これが第2の追加要素になるという。リベラルアーツというと専門教育の前に行う「教養教育」というイメージがあるが、実はビジネスの現場でも実践的に活用すべきものなのだと紺野氏は語る。「例えばアップル創業者のスティーブ・ジョブズはデザイナーやアーティストとしての素養がありましたが、これもリベラルアーツです。最近ではスタートアップの経営者の中でも、デザイナー出身の人が増えています」。
そして第3が「働き方改革」である。現在すでに多くの企業がこれに取り組んでいるが、その具体的なアプローチとしては時短や生産性向上など、未だに20世紀的な発想から抜け出せていないケースが一般的。これからは決められたことを短時間で行うのではなく、新たな価値を生み出すにはプロジェクトマネジメントなどをどうすればいいのか、組織全体に横串を通した形で考え直すべきなのだという。
「発想力と技術を兼ね備えた人材へのニーズは、これからさらに高まっていきます。社内起業家を目指す人、組織の中でイノベーションを起こしたい人に、ぜひ受講していただきたいと思います」と紺野氏は期待を寄せる。
それでは実際に受講した人は、具体的にどのような評価をしているのか。次回は彼らの本音に迫りたい。
【部門長向け】デジタル戦略コース
【実務者向け】デザイン思考コース
【実務者向け】AI・Analyticsコース
【実務者向け】Securityコース
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