金融セクターをはじめ、幅広い産業分野で躍進を続ける英国。近年、特にイノベーション戦略を推進する世界の成長企業の進出が増加傾向にある。2016年、日本初のユニコーン企業とされる、株式会社メルカリが海外2拠点目として選んだのも英国だ。その背景、対英投資の魅力について、外務省、世界銀行などでキャリアを積み、国際情勢に深く精通するMercari Europe CEOの伊藤錬氏に聞いた。
今や“フリマアプリ”の代名詞的存在となった「メルカリ」を運営し、急成長を遂げる株式会社メルカリ。2013年7月に日本でサービスを開始し、翌年9月には米国に進出。その2年後、2016年には海外2拠点目として、英国にMercari Europeを設立し、2017年3月から、英国でのサービスを開始した。
なぜ英国なのか。その理由について、Mercari Europe CEOの伊藤錬氏は3つのポイントを挙げる。
1つ目として、グローバルにサービスを展開していく上で、英国は欧州の“玄関口”として位置付けられること。
「私たちは、“新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る”というミッションのもと、創業時よりグローバル進出を視野に入れ、事業を展開しています」と語る伊藤氏。世界最大の経済圏とされる米国に続き、今後は英国を足掛かりに、約5億人の消費者を擁する欧州市場へのリーチを目論む戦略だ。
2つ目に、英国のさまざまなイノベーションを起こす知見とテクノロジーが根付く先進的な地域性を挙げる。
例えば、英国というと長い歴史を持つ金融街「シティ」の存在が知られるが、近年は従来の金融分野(Finance)に技術(Technology)を掛け合わせたFintechのスタートアップ企業が数多く誕生。その他、デジタル部門をはじめ、幅広い産業において世界中から続々とスタートアップ企業が集積し、起業家への支援環境、エコシステムの整備も進んでいる。
「最先端のテクノロジーに精通する人材層の厚さから見ても、今や英国は世界の“イノベーション・ハブ”とも言えるポジションを獲得していると言っていいでしょう」と伊藤氏は語る。
3つ目に挙げられるのがユーザー・消費者の感度の高さだ。
ファッションなど世界のトレンドの発信地、多様性に富む国際都市として発展してきた歴史的経緯からも、英国人はテクノロジーの潮流などにも敏感で、新たなサービスの利用に関しても積極的だと伊藤氏は話す。「世界中でより多くの人に、『メルカリ』を使ってもらうためにも、英国市場は試金石として捉えています」(伊藤氏)。
日本、米国、英国でのサービス展開により、2017年末には世界累計1億ダウンロードを達成するなど、成長を加速させる同社。英国進出に当たって、何を重視し、サービスローンチを実現したのか。
伊藤氏が特に注力するのが、時間軸を意識した「プロダクトファースト」の姿勢と、その地に合わせたサービスの最適化、「ローカライゼーション」だ。
「日本で『メルカリ』をリリースした2013年から5年を経て、日進月歩でテクノロジーは進化し、競合サービスも続々と登場しています」と明かす伊藤氏。日本での成功モデルを単純に横展開するのではなく、サービスのさらなる進化、差別化を強く意識しているという。
例えば、英国では古くから、物品を寄付し、非営利活動に活用する「チャリティショップ」が多く存在している。また、ガレージセールが日常的に行われるなど、まだ使える価値あるものを捨てることなく、個人間でリユースするような土壌が根付いているという。「こうした個人間売買への親和性の高さだけを見ても、日本とはまた違った切り口が求められます。一体、その地でどのようなサービスが求められ、支持を得ているのか。既成概念を捨て、ユーザーの声に地道に耳を傾け、ローカライズを進めていくことが何より大事です」と伊藤氏。
検証に検証を重ねた結果、導き出されたのが、英国で同社が新たにサービス展開する「インスタントセリング」。「高く売りたい」ではなく、「早く、手間ひまかけずに売りたい」というニーズに応え、出品者から同社が値付けをし、買い上げるシステムとなる。日本でも同種のサービス「メルカリNOW」を既にローンチしているが、日本および米国市場で培ってきたデータベースも生かしつつ、価格設定などにおいてもより最適化を図っていく構えだ。
「『出品した瞬間に買ってもらえる』という“安心・安全・快適”な売買体験を英国のユーザーに広く提供していきたいと思います。『インスタントセリング』の他国への展開も見据え、さらなるUX(ユーザー体験)/UI(ユーザー接点)の改善を重ねていく予定です」(伊藤氏)