IoT新時代 先進事例から勝機を掴め

IoTの壁を越えろ-日立製作所:前編

IT領域だけでは現場へのIoTデプロイは進まない!
IoTの壁を突破するために不可欠なOTとは?

あらゆるものをインターネットにつなげることで現場の見える化に大きく貢献するIoT。ドイツで進められている製造業の革新を目指す「インダストリー4.0」の中核技術としても注目され、今やIoTに関連した動きはグローバルな広がりを見せていることはよく知られているだろう。しかし、日本ではIoTそのものが十分に広がっているとは言い難い。その背景について、電力や交通、鉄鋼、上下水といった社会インフラシステムの構築を担う株式会社日立製作所の入江 直彦氏に、制御系に欠かせないOT(Operational Technology)の重要性とともに聞いた。

IoTが広がらない現状

IoTが広がらない現状

あらゆるものがインターネットにつながることで新たな価値を生み出すことが期待されるIoT。特に日本では、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する未来社会としての「Society5.0」を実現するべく、IoTやAIなどの技術を用いて新たな価値創造や社会課題の解決を目指す「Connected Industries」への取り組みが官民あげて進められている。企業においても、センシング技術を用いて現場を見える化し、既存データと合わせて高度な分析を行うなかで新たな価値を見出していくIoTに多くの期待を寄せていることだろう。

しかし、日本においてはIoTに対する取り組みが十分に進んでいない状況にあるようだ。経済産業省が毎年発表している製造基盤白書、いわゆる“ものづくり白書”によると、「生産プロセスにおいて何らかのデータ収集を行っているか」との問いに対して、2017年の調査では67.6%が何らかのデータ収集を行っていると回答している。しかし、「収集データの「見える化」やトレーサビリティ管理などの生産プロセスの改善・向上などへの活用度合い」について尋ねたところ、2016年調査とほぼ横ばいの数値となっており、機械や人員の稼働状況の見える化や製造物・部材のトレーサビリティ、海外拠点でのデータ収集などを行っていると回答したのは全体の20%にも満たない。つまり、データ収集は行っているものの、それらを使って現場の見える化にまで至っているケースはいまだに少ないのが今の日本における状況だと考えられる。

2018年度版ものづくり白書より引用

IoTにおける2つの方向性と成熟度モデル

IoTにおける2つの方向性と成熟度モデル

一概にIoTといっても、実はIoTには2つの側面があると入江氏は説明する。「IoTには“賢く作る”ためのIoTと“賢く使う”ためのIoTがあります。一般的に語られるのは、Uberに代表されるような“賢く使う”ためのIoTで、遊休資産になっているモノを上手に活用し、利便性を向上させるものです。一方でB to Bを中心としたビジネスを展開している我々の場合、製造業や発電といったモノを作る側に対してIoTを適用していく、つまり“賢く作る”ためのIoTを展開しています」と説明する。冒頭で紹介したものづくり白書の実態は、この“賢く作る”ためのIoTという視点が中心となっているが、現状は機器の保守といった、何らかの目的でデータ収集は行われているものの、工程全体や機械の稼働状況そのものを的確に可視化するレベルまで至っていない段階にあることを示しているわけだ。

ちなみに、現場の状況を見える化することは、IoTを進めるうえでの第一歩であり、最終的には6段階の成熟度モデルによってIoTの状況を見極めていく必要があると入江氏は力説する。その成熟度モデルとは、「Visualization(見える化)」「Integration(統合)」「Analysis(分析)」「Predictive(予測)」「Prescriptive(適切な指示)」「Symbiotic(共生)」の6つのレベルで表現される。

IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)が提唱する
「Factory of the future」にある共生型エコシステムの実現に向けた、日立提案「IoT利活用成熟度モデル」

一般的な成熟度モデルの場合、「Visualization」から「Prescriptive」という5段階で表現されることが多いが、自社単独で取り組めるのがこの5段階まで。予測を経て実際に起きないように処置したとしても、問題はまだ残ると入江氏は説く。その先にあるのが「Symbiotic(共生)」という段階だ。「実は、これまでスマートシティ構想などの際に提唱した共生自律分散という考え方がもとになっています。自分だけでは解けない課題を、周りとともに助け合って解決していく、まさに共生という考え方をIoTの成熟度モデルに加えています。顧客協創による新たな価値創出を行っていくことをIoTプラットフォームによって実現していく、これが日立として目指すべきIoTのあるべき姿だと考えています」。

IoTに立ちはだかる壁を突破するためのOT

IoTに立ちはだかる壁を突破するためのOT

株式会社日立製作所
制御プラットフォーム統括本部
制御プラットフォーム開発本部
本部長
博士(工学)
入江 直彦 氏

ものづくり白書でも明らかなように、日本企業の多くが見える化の段階にすら到達できていない状況にあるが、それはなぜなのか。実は現場にはインターフェースの異なるさまざまな機器が設置されており、ほとんどがネットワーク接続されていないばかりか、電子化すらできていないのが実態だと普段から社会インフラの現場に赴く機会の多い入江氏は指摘する。「例えばプラントの現場では、いまだにアナログメーターが数多く設置されており、人手によってその数値を毎日チェックしているケースをよく見かけます」。本当に必要なデータの数割しかビットになっている情報がなく、データ収集するだけでも苦労しているというのが現実なのだ。特にプラントや製造現場の設備は償却期間が長く、なかには30~40年前から稼働している機器も少なくないため、どうしても電子化や情報化が遅れる傾向にある。海外に比べて日本では現場が強く、日本の現場力が高いことも設備投資が進まない大きな要因の1つだと入江氏は指摘する。

もし見える化がうまくいったとしても、今度はIntegration、いわゆる“データ統合”の大きな壁が立ちはだかる。現場は部分最適化された仕組みが数多く展開されており、そのデータも多種多様。どのデータがどこにあり、そのデータが意味することがそもそも分からないケースは多い。「現場にあるさまざまなデータを解析可能にするまでの工数が、実は解析全体の8割を占めるとも言われています」と入江氏は語る。発電所内に設置されたセンサーで取得した温度データを例に挙げると、この温度を取得したのは、タービン前で取得したものか排気の温度なのか、そしてどのくらいの周期で取得したデータなのかによって、それが意味するものが異なってくるという。単にビット列のデータを見るだけでは理解が難しいデータが、現場には数多く存在しているのだ。

そこで必要になるのが、生産ラインなどのシステムや設備を最適に制御・運用するためのOT(Operational Technology)に関する知識だ。単に複数の機器から集められたデータを時系列で統合するだけでは意味がなく、このデータはこの閾値を超えると危険だといった現場ならではの知見が必要になる。もちろん、データ統合後のAnalysis、いわゆる分析の領域ではIT領域の知見や技術が存分に生きてくる。特に分析についてはビッグデータ解析の基盤となるPentahoなど複数のソリューションを組み合わせて解析していくことが必要になるが、データサイエンティストなどが続々と登場しつつあるなど、IT領域でカバーできることが多い。

それでも、分析後の「Predictive(予測)」や「Prescriptive(適切な指示)」のレベルになると、再びOTの知識が必要になってくる。当然だが、既存の現場や設備を理解していないと予測は難しく、適切な対処方法を考える際にもOTの知識がないと厳しいはずだ。「大前提として、現場の状況に応じて最適なデータ収集を行う最初のステップからOTの知識が必要で、意味理解を行うデータ統合を経て、ようやくIT領域での分析が行われます。そのデータを再びOTに戻して予測や対処というプロセスにもっていくことになるのですが、OTの知識を踏まえながら精度の高い予測につなげて行くのがとにかく苦労するところ。いずれにせよ、IoT利活用を進めていくためにはOTが欠かせないものなのです」と入江氏は言及する。

もちろん、ITとOTを比べれば、圧倒的にITのほうが技術的な進化が早く、ITベンダーやITのエバンジェリストがIoTを語るのは自然な流れだろう。「理想像があって、その世界に向かう道筋を語るのはITの専門家でしょう。でも、それを現場にデプロイする際にはOTの知見を持った人材が必要です」と入江氏。ただ残念なことに、現状はITとOTの双方が分かる専門家が少ないのが実態で、そのことが現場へのIoTデプロイが進んでいかない要因の1つとなっている。まさに、最先端のITを使いこなすことが可能なOT専門家の不在が、大きな課題といえるだろう。

今回は、IoTにおける日本の現状と成熟度モデルについて紹介しながら、その成熟度を高めるためのOTの重要性について紹介した。次回は、日立製作所が提供する顧客協創基盤「Lumada(ルマーダ)」とそのIoTプラットフォームについて、OT領域から見たその強みについて見ていきたい。

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