

村上 輝康氏
産業戦略研究所
代表
菊地 唯夫氏
ロイヤル
ホールディングス株式会社
代表取締役会長兼CEO
針谷 了氏
株式会社湯元舘
代表取締役会長
八野 正一氏
全国労働組合生産性会議
副議長
デービッド・
アトキンソン氏
株式会社小西美術工藝社
代表取締役社長
開会挨拶・来賓挨拶に続いて、「サービス産業の生産性向上戦略を考える」と題したパネルディスカッションが行われた。
産業戦略研究所の村上輝康氏は冒頭で「日本のGDPの約7割を占めるのはサービス産業だが、労働生産性は米国の5割程度しかない。15%向上させるとGDPは600兆円になるという試算もある。実現できるかどうかを意識すべき」と問題を提起。「カンと経験に頼るのでなく、研究革新から市場革新、人材革新、仕組み革新のサイクルを作ることで持続的に生産性は向上できる。ベストプラクティスの模倣も効果的だ」と、科学的アプローチで生産性向上に取り組む「サービソロジー」の概念やサービスイノベーションの確立プロセスを語った。
ロイヤルホールディングスの菊地唯夫氏は、「サービス産業では従業員数を削減した結果、サービスレベルが低下して売上総利益も減少し、生産性低下に結びつくケースもある。新たな枠組みで産業化モデルを組み立てないといけない」と強調。「ロイヤルホストは営業時間の短縮で当初約7億円の売上減少という見通しもあったが、国産食材の活用や人員の最適配置によるサービスレベルの改善で、むしろアップした。今後は人口減少の中で人が付加価値を創出するプロセスに集中したい」と今後の抱負を語った。
湯元舘の針谷了氏は「経営者の不作為が最大の敵」と指摘した上で、「生産性を向上させている企業には税制優遇や補助制度、不作為企業に対する増税など、アメとムチの徹底は必要かもしれない」と切り出す。旅館業に対しても、「価格訴求から価値訴求にシフトすべき。クレジットカード等の手数料の低減化も課題で、湯元舘では電子決済を導入、チェックイン時のお伺いもデジタル化したことで電話対応がなくなった」といった取り組みにも触れた。
全国労働組合生産性会議の八野正一氏は、「人口減少の中、高いスキルと強い意欲が連動した企業を再構築する必要がある。ただし、経済の主役は人間であり『働かせ改革』であってはならない」と現状を分析。「良質な雇用・働き方をベースにイノベーション創出力を高め、付加価値を向上、顧客満足度を改善することが、持続可能なサービス産業の創造になっていく」と述べた。
小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン氏は「日本の一人当たりのGDPは先進国で最下位。人材の質は4位なのに経営者の質が低く、経営者改革を行わない限り生産性は改善しない」と指摘。「最低賃金が低い国ほど生産性は低く、女性の経済参加度とも比例するが、日本はいずれも低水準。平均給与の低い10人未満の企業の数も多すぎる。最低賃金を1300円に引き上げ、企業数は半分に絞り、霞が関の半分を女性にするなど女性の社会参加も促すべきだ」と提案した。

米田 瑛紀氏
エッセンス株式会社
代表取締役
伊藤 禎則氏
経済産業省
産業人材政策室参事官
宇佐川 邦子氏
株式会社リクルートジョブズ
ジョブズリサーチセンター長
山内 幸治氏
特定非営利活動法人エティック
理事兼事業統括ディレクター
シンポジウムを締めくくるのは、「個人の学び直しや人材流動化・企業の新陳代謝による生産性向上」をテーマに行われたパネルディスカッション。
エッセンスの米田瑛紀氏は、非常勤のプロ人材をクライアントに紹介する「プロパートナーズ事業」を紹介。「40代、50代の現役層が中心で、30代も増えている。副業や兼業の方もいて、彼らは肩書よりも『いま何ができるか』を重視している。社外体験や副業、兼業の機運は高まっている昨今、こうした場を提供することでプロ人材は育ち、1億総活躍から1億総プロ活躍になることで生涯現役が実現するだろう」と述べた。
経済産業省の伊藤禎則氏は、人生100年時代にはリカレント教育が重視され、「教育機関や企業、組織、現場は社会人基礎力を磨く場であり、充実が急がれる。また、経済産業省では2018年からを事業承継集中期間として据え、税制の抜本的拡充を軸とした政策を総動員する。若い中小企業経営者が増えると、右腕人材のニーズも増加し、働きながら学ぶなど、多様で柔軟な働き方を支援していきたい」とその展望を語った。
リクルートジョブズの宇佐川邦子氏は、「ミドル層のキャリアチェンジを成功させるため、採用前から採用後の取り組みステップを整理した。そこでは、従来の転職一辺倒ではなく、本業型、複業型、副業型といった多様な選択肢や『コト軸』での選考が重要だと考えている」と考え方のフレームを紹介。「業種・職種が変わっても通用するポータブルスキルを可視化するなど、専門性に偏った採用から脱却することで入社後の活躍につながる採用は可能で、そういった視点が人材流動性を加速させる」と見解を述べた。
エティックの山内幸治氏は、「東日本大震災以降、都市部の若手ビジネスパーソンを中心に、キャリアアップからキャリアチェンジ志向の相談が増加した」と指摘。東北の復興リーダーの右腕として、5年間で約90社250名の参画を支援したことにも触れ、「これを機に休職制度を見直した企業も多数あった」と語る。「地域課題をビジネスとして捉え、自分の思いを実現するケースが増えている。挑戦しやすい社会にするため、採用や雇用の在り方を変えていく必要はあるだろう」と総括した。