地道で継続的な品質の向上が明日への信頼につながる

近年、国内外で不正会計問題が続発し、会計監査に対する信頼が根底から揺るがされつつある。監査法人の存在意義が問われる中、監査の現場では、信頼回復のためどのような取り組みが行われているのか。4大監査法人の一つ、あずさ監査法人の田中弘隆氏に、話を聞いた。

あずさ監査法人 監査プラクティス部長/パートナー 公認会計士/米国公認会計士(カリフォルニア州) 田中 弘隆 氏
あずさ監査法人
監査プラクティス部長/パートナー
公認会計士/米国公認会計士
(カリフォルニア州)
田中 弘隆

「監査の品質」こそ経営上の最重要課題

会計監査を取り巻く環境変化や会計不祥事を背景として、金融庁は2015年、「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置。その提言に基づき、監査業界では、監査法人のガバナンス強化を目的としたガバナンス・コードの導入や、KAM(Key Audit Matter:監査上の主要な検討事項)の記載による監査報告書の透明化など、業界挙げての取り組みが進められている。

「本来、資本市場のインフラを支える監査人が注目を浴びるということは、監査法人が世間の期待に応えられていないことの証しでもあります。我々は社会的な信頼を得るべく、自ら品質管理活動を強化し、監査の品質を継続的に高めていかなければなりません。それと同時に、監査のプロセスを透明化して、企業と投資家との対話を深めることも非常に重要だと考えています」と田中氏は語る。

では、これらの課題に対して、あずさ監査法人ではどのような取り組みを進めているのか。

同法人では「4つのディフェンスライン」を定め、経営責任者以下、品質管理担当部署、監査事業部、および監査チームからなる4階層において監査品質の責任を明確化する、独自の品質管理体制を構築してきた。その後、ガバナンス・コードの公表を踏まえて、2017年7月に新たなガバナンス体制に移行。「監査の品質」を最重要の経営課題と捉え、総力を挙げて品質向上に取り組んでいる。

一方、2021年3月期のKAM導入に向け、投資家への情報開示についても取り組みを本格化。KAMがもたらす変化について、田中氏はこう話す。

例えば、不正会計でよくあるのが、「利益をかさ上げするため、売り上げを意図的に改ざんする」ケース。また、固定資産や有価証券、買収先企業の“のれん”の価値が減損しているにもかかわらず、それが財務諸表に反映されず、虚偽表示リスクが発生してしまうケースも少なくない。

「このような事態を防ぐため、監査人はリスクが高い領域を特定し、重点的にリソースを配分して、リスクがないことを確認する必要があります。こうしたリスクアプローチは従来から行われてきましたが、監査報告書には『財務諸表は適正である』という結果のみが記載されてきました。しかし、今後KAMが導入されれば、『監査人は財務諸表のどのような点に注目し、どのような対応を行い、その結果どうだったか』を詳細に記述することが求められます。いわば、やや不透明であった監査のプロセスを透明化することで、投資家はより有益な情報を得られるようになるわけです」

監査品質に対する社会の期待が高まる中、あずさ監査法人は様々な形で監査の効率化・高度化を進めてきた。

その一つが、先進テクノロジーを活用した監査技法の開発・導入だ。同法人では、AIの利用も見据えた先進IT技術の応用研究を行う「次世代監査技術研究室」を2014年7月に設置。監査先から財務データ、非財務データを入手し、高度なデータ分析を統計および可視化の技術を利用して行うことにより、先進的かつ高品質な監査の実現を目指している。

だが、監査の高度化に向けた取り組みを支えているのは、IT技術だけではない。その原動力は、不正会計防止のための地道な努力と継続にある。

「会計監査への信頼を築くため、我々は『リスクアプローチの進化』を目指して絶えず努力しています。監査品質を最重要の経営課題と捉える社風と、社会的信頼を獲得するために努力し続ける姿勢。それが、我々の最大の強みといっても過言ではありません」

日本人プロフェッショナルがKPMGグローバルの中枢で活躍

こうした監査の高度化への取り組みを可能にするのが、世界最先端の知見を有するプロフェッショナル集団の存在だ。同法人では日本基準、IFRS(国際財務報告基準)、US GAAP(米国基準)に精通した専門家を養成し、会計基準に関わる全ての相談にワンストップで対応。中でもIFRS適用済み/予定企業194社に占めるシェアは59社30.4%と国内トップを誇る(2018年6月末時点)。

また、KPMGグローバルのIFRS中枢組織であるISGへの駐在経験者が多いことも、この分野における同法人のプレゼンスの高さを物語っている。田中氏自身も2007年にISGに派遣され、今では世界で14名しかいないIFRSのパネル(最終意思決定者)の一人。国内外の会計基準を熟知した専門家をそろえ、日本国内で完結する体制を整えていることは、同法人の大きな強みといえる。

もう一つの強みは、日本人プロフェッショナルと現地との緊密な連携だ。グローバル企業のグループ監査を円滑に行うためには、親会社の監査チームと現地の監査チームとの連携が必要となる。KPMGはグローバルで主要37カ国79都市に約700名の日本人と日本語対応が可能な人材を配置し、GJP(Global Japanese Practice)ネットワークを構築。「マネジャー以上の4人に1人超が海外駐在の経験者であり、国際的な展開力を意識的に強化してきたことも、あずさの特長の一つ」と、田中氏は語る。

「我々はグローバル化も含め、先々どの領域で貢献できるかを考えながら、地道に取り組んできました。そうすれば、世の中のニーズが高まった時に社会の期待に応えることができる。全ては信頼のために、地道な努力をコツコツ続けることが我々のバリュー。会計監査への信頼を築くため、今後もたゆまず努力してまいります」

あずさ監査法人の日本人がKPMG ISGに参加
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