日本のモビリティ発展には産官学連携の環境作りが急務

電気自動車が普及し、コネクティッドカーや自動運転車が実用段階にある一方で、都市交通の業界秩序を根底から覆す大変革が各国で進行している。交通エコシステムの再構築が進む今、日本企業が目指すべき道とは──KPMGモビリティ研究所所長・小見門恵氏とアドバイザー・伊藤慎介氏に聞いた。

KPMGモビリティ研究所 アドバイザー 伊藤 慎介 氏 / KPMGモビリティ研究所 所長 小見門 恵 氏
KPMGモビリティ研究所
アドバイザー
伊藤 慎介
KPMGモビリティ研究所
所長
小見門 恵

モビリティ先進国が進める次世代プラットフォーム構築

自動車産業は、100年に一度の大変革期を迎えている。2016年のパリのモーターショーで、ダイムラーがこの状況をCASEと名付けると、認識は瞬く間に浸透した。「CASEとは、Connectivity(コネクティビティ)/Autonomous(自動運転)/Shared & Services(シェアリング)/ Electric(電動化)の頭文字をとったもの。この4つのトレンドを背景として、世界では“移動革命”ともいえる大変革が起こりつつあります」と小見門恵氏は語る。

そうした状況下で、近年欧米で注目されているのが、次世代交通を生み出すMobility as a Service(MaaS:マース)の動向だ。

「MaaSとは、鉄道やバス、タクシー、ライドシェアやカーシェアリングなど、マイカー以外の全ての交通手段による移動をシームレスに統合する移動サービスです。その発端は、欧州でマイカー利用が急増し、交通渋滞や環境汚染の問題が深刻化したことにあります」と語るのは、経済産業省の官僚として15年のキャリアを経てKPMGに加わり、並行してモビリティベンチャーを4年間経営してきた伊藤慎介氏。「これらの問題を解決するため、欧州では様々な交通手段を組み合わせて、マイカーの利用を減らす取り組みが行われています。例えばロンドンでは、市内に乗り入れる一般車両に対して渋滞税を導入。パリでは、駅周辺に自転車や電気自動車のシェアリングスポットを設置しています。また、スマートフォンの普及で料金の決済がスピードアップしたことも追い風となっています」。

現在進められているMaaS構築の主眼は、従来個別に提供されてきた様々な輸送や交通系ICカードなどのサービスを統合し、一つのアプリとして提供する点にある。こうした中で、他に先駆けて次世代モビリティサービスのプラットフォームを構築するべく、業界の枠を超えた合従連衡が加速。Uberやダイムラーなどを中心に、熾烈な主導権争いが繰り広げられている。

とくに注目したいのが、MaaS Global社の動きだ。同社は2016年、フィンランドの首都ヘルシンキでMaaSアプリ「Whim」のサービスを開始した。これは「月額料金制で鉄道やバス、タクシー、レンタカーなど様々な交通手段を無制限に利用できる」サービス。今後はシンガポールを皮切りに、世界中でサービスを展開する計画だ。

「Whimは、携帯電話会社ノキアの経営危機に端を発して、行政が後押ししたことで台頭しました。行政が一つの街で次世代モビリティビジネスの実証実験を行い、成功したビジネスモデルを他の地域にも展開して成長させる。そんな新しい産業振興の流れができつつあります」(伊藤氏)

2050年には世界人口の7割が都市部に集中すると予測される中、北米でも移動革命に向けた取り組みが加速。オハイオ州コロンバスやカナダのトロントでは、都市交通の革新を目指した大規模なスマートシティの実証実験が行われようとしている。一方、日本はといえば、次世代を睨んだ都市交通政策やサービスの導入は遅々として進まず、欧米の後塵を拝しているのが実情だ。

「もはや旧来型の工場誘致などの産業振興策だけでは追い付けません。官民が連携して社会システムの根本的な変革に取り組み、日本が誇る自動車産業で、再びインパクトがある日本発の次世代ビジネス創出を目指すべきです。しかしながら日本では、未だに有望な産業政策が打ち出せていません」と、伊藤氏は危機感を隠さない。

産官学の壁を超えた環境作りのハブを目指す

こうした閉塞状況を打破するべく、KPMGジャパンは2018年9月1日、KPMGモビリティ研究所を設立。コンサルティングファームとしては日本初となる、モビリティ専門の研究拠点を立ち上げた。これまでKPMGでは、欧州を中心にモビリティの新しいエコシステムを研究してきたが、今回の設立は、その知見を活かして日本の産業発展への貢献を図る。

当面はKPMGジャパンのメンバーファームからモビリティの専門家を招集し、各国のKPMGと連携して海外の先進事例を紹介。日本におけるモビリティのあるべき姿を追求し、変革を志向する日本企業をオールKPMGで支援していく。「日本における新たなモビリティエコシステムの一翼を担うべく、いずれはコンソーシアムを主宰し、社会に一定のインパクトを与えていきたい」と小見門氏。同研究所が中心となって異業種間の連携を実現し、将来は地域での実証実験の旗振り役も務めたい、と抱負を語る。

では、モビリティ分野における同研究所の強みとは何か。両氏は、①イノベーションやスタートアップ、AIなど各分野で高度な専門性とパッションを兼ね備えた人材が集結していること、②監査法人を中核とするプロフェッショナルファームとして、中立的な立場で物事を俯瞰的に見られること、③世界150カ国以上に広がるグローバルネットワークの3つを挙げる。

2018年は“MaaS元年”。自動車メーカーを頂点としたエコシステムが解体され、交通、エネルギー、インフラ、電機通信、金融、小売・サービスなど、多分野の企業が新たにエコシステムの再構築へ向けて舵を切った転機の年といえる。「私は官と民の立場でモビリティ分野に携わってきましたが、情熱を持った人材は双方にいる。官民が結束し、日本のモビリティが引き続き強みを維持するために力を尽したい」(伊藤氏)。今後はこの研究所をハブとして、産官学の壁を超えた環境作りのためにKPMGジャパンでは精力的に活動を行っていく予定だ。

モビリティの新たなエコシステム
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