松本 渉 氏 アラヤ取締役
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ディープラーニングの登場で一気に進化したAI技術。企業の成長や新たなビジネス展開の打ち手として脚光を浴びている。一方で、AI導入がうまくいかずに、道半ばで失敗に終わるケースも多いのが現実だ。連載第3回でご紹介するのは、AI導入の救世主として大手自動車メーカーや通信事業者も注目する「本当に使えるAI技術」。AIベンチャーの最前線を追った。

アラヤ

英国サセックス大学の認知神経科学の准教授だった金井 良太氏によって、2015年に設立。神経科学と情報科学の融合による、意識の計算原理を利用した人工知能(人工意識)の開発と、そこで培った高い技術を活かす商用での人工知能プロジェクトを行っている。

「ディープラーニングは、オープンにされている汎用的な部品を組み合わせても、まだまだ上手くいきません。そこにAIの成否を分ける落とし穴があります」。そう話すのは、AIベンチャーとして注目を集めるアラヤ取締役の松本 渉氏だ。

 AIの研究は1950年代から始まり、現在第三次AIブームと言われる。近年、注目されるようになったのは「ディープラーニング(深層学習)」によって、その精度が飛躍的に向上したからだ。これまでとは比べ物にならない量のデータ収集・解析をすることができるようになったビッグデータ時代、経営判断や新規事業におけるAIの活用は、企業の成長を支える起爆剤となりうる。その一方で、PoC(Proof Of Concept/概念実証)レベルで成果が出ずに失敗に終わることも多い。なぜAI導入がうまくいかないのか。

成功の秘訣は“AIの現在地”を知ること

成功の秘訣は“AIの現在地”を知ること

ーーAIベンチャーとして注目を集めるアラヤですが、どのような経緯で創業されたのでしょうか。

もともと、創業者の金井良太がイギリスの大学を辞め、立ち上げたベンチャーです。金井は認知神経科学の研究者として、脳から意識がどうやって生まれてくるのかを研究してきました。研究を続けるなかで、意識を持った人工知能を開発したいというビジョンから、アラヤは生まれました。現在は、「人工意識」と呼ぶ汎用AIにつながる新技術を研究しながら、クライアント企業の製品・サービスに人工知能を組み込む支援を行っています。

一般的に人工知能と呼ばれるディープラーニングやその他機械学習技術は、すでに多くの場面で我々の日常に浸透してきています。例えば、画像による物体認識や人の行動推定への活用。カメラに人工知能を搭載することで、車の安全運転補助や、セキュリティカメラ、顧客の行動推定、医療画像診断など、その用途は広がりを見せています。弊社では、クライアント企業の製品・サービスに組み込む学習アルゴリズムの開発を行っています。

ーー第三次AIブームを背景に、多くの企業がAIに取り組んでいます。しかし、お金をかけてPoCを行っても、成果が出ないケースも多いと聞きます。何が問題なのでしょうか。

AIに取り組んだものの成果が出ず、弊社にご相談頂くケースは多くあります。お話を伺い、その失敗を紐解いていくと、多くのケースで「AIに対するアプローチへの誤解」があるということが分かりました。

もう少し具体的に説明しましょう。現在、AI案件の多くは、オープンなフレームワークを使ってディープラーニングの構造を効率的に作り、サービスとして提供しています。実際、そうしたサービスに魅力を感じる方が多いのも確かです。汎用的なフレームワークの中で、スピード感をもって構築でき、コストも低減できるからです。

数年前、汎用的な工業技術を取り入れ、低コストで作られた「イプシロンロケット」が話題を集めましたね。イプシロンロケットのようにオープンな技術や製品を活用し、スピード感をもってビジネスを加速させることは、現在の経営のトレンドです。ただ、ディープラーニングの世界は、まだそのようなやり方では上手くいかないケースが多いのが現実です。

ーーまだディープラーニングの技術は発展途上であるということなのでしょうか。

その通りです。ディープラーニングのコードが汎用的なレベルまでブラッシュアップできていれば、フレームワークが提供する部品を組み合わせて製品を作ることが可能になっていくと思います。しかし、まだまだディープラーニングはそこまで洗練されてはいません。そのため、フレームワークが提供する部品を組み合わせてしまうと、結果として失敗してしまうケースが多くみられます。AIで成功するには、日々進化し続ける“AIの現在地”を知ることがとても大切です。

カメラに人工知能を搭載し、ドローンで監視する事例で考えてみましょう。
画像認識で識別するように学習させ、例えば特定の人物を特定し、ドローンで追跡させるとします。フレームワークが提供する部品の組み合わせでは、人物が正確に特定できなかったり、特定できたとして追跡できなかったり、一定上の誤り率を改善できないケースが多くみられます。

誤り率を改善させようとしても、ブラックボックスされたコードの組み合わせでは、何が原因か特定できず、その後のアプローチが取れない、という問題もあります。実際オープンなフレームワークは冗長的で、ブラックボックス化されているものが多いです。

我々は、ディープラーニングを「ホワイトボックス化」していきたいと思っています。可視化を重視し、最適なアルゴリズムを活用してデータ解析を行うことで、何が問題であるのか、その本質を見極められる。結果として、理想のAIが実現すると考えています。実際画像認識の事例では、ディープラーニングが注目した物体認識のポイントが間違っていたことが分析により判明し、問題が解決できました。

ーーAIに対するアプローチが、大手企業を含めた他の受託開発会社とは違うということなのですね。

我々は、ターゲットの機器に最適なディープラーニングを搭載できるよう、技術を積み上げてAIを構築しています。丁寧にカスタマイズすることで、理想のAIを実現します。少し専門的なお話をしますと、我々はもっともベーシックなニューラルネットワーク構造から、1つひとつ技術を積み上げてAIを構築しています。AIの各層を深堀して設計することで、ターゲットの機器にぴったりとフィットするような開発ができるのです。

こうした丁寧な開発ができる「AI人材」が揃っていることもアラヤの強みですね。アラヤには20数名の研究者がいますが、その8割がドクターの称号を持っています。人工知能をバックグラウンドにしている人だけでなく、さまざまな分野の研究者が集まっていることが特徴です。ディープラーニングを脳科学や数学など、さまざまな観点からアプローチし、評価し直す。結果として、他社には真似できないAIのご支援が可能になっています。

“エッジ側”での処理をいかに高めるかも鍵に

“エッジ側”での処理をいかに高めるかも鍵に

ーー今後、AIが活用される分野にはどのようなものが考えられるのでしょうか。

先ほども例に挙げましたが、自動車やドローン、スマートフォンなどの移動体機器(エッジ機器)にディープラーニングの機能を載せたいというニーズは非常に高まっています。一方で、ディープラーニングの精度を落とすことなく、エッジ機器に実装するためには大きな課題があります。

ディープラーニングには膨大な計算リソースが必要とされるが、
現状はハードウェアの進化とネットワーク構造を変えない
「量子化」、「処理の並列化」などに解決手段が限られている。

ディープラーニングの精度を落とさないためには、高性能なGPUなどを使う必要がありますが、演算量が重く、消費電力やメモリ容量が大きすぎて移動体機器に載せるのは現実的ではありません。また、FPGA(Field-Programmable Gate Array)に搭載させようとすると、場合によっては5個以上のFPGAが必要となり、コストもかかってしまいます。

エッジ側での処理が困難になってしまうと、高性能なニューラルネットワークを自動車、携帯電話、家電などのデバイスに搭載することのボトルネックとなってしまいます。そのため、我々は、ニューラルネットワーク構造を見直して、演算量を削減する技術を開発しています。

ーーそれが、アラヤのコア技術「演算量削減技術」ですね。

はい、AI導入を支援する上で欠かせない弊社の技術です。「演算量削減技術」は、構築したニューラルネットワークの性能を維持しながら演算量を1/10~1/50に圧縮する技術です。ディープラーニングの演算量が多いことは、さまざまな分野で課題となっているため、データのビット数を削減したり、並列化で高速処理できるようにしたり、ハードウェアのコアを改善することで演算量を削減する試みが行われてきました。

我々は、それに加えてディープラーニングの本質であるニューラルネットワークの構造に着目し、これを改良することで、高精度のまま1/10~1/30以下に演算量を削減することに成功しました。最大の特徴は構築済のあらゆるニューラルネットワークのネットワーク構成を大きく変えずに圧縮できることにあります。ResNet, AlexNet, GoogleNet, VGGやその他個別に構築したニューラルネットワークにも適用可能であり、様々なアルゴリズムを自動車、携帯電話、家電などに搭載することが可能になるわけです。

アラヤの演算量削減はニューラルネットワークの構造そのものを見直すことで、
精度を維持したまま高速化(演算量削減)を実現させる。
また他の手法と掛け合わせることで乗数の高速化(演算量削減)が期待できる。

ーー実際に、「演算量削減技術」はどのように活用されているのでしょうか。

「2017年、ISIDと共同でマグロの養殖場で個体数を数えるためにディープラーニングを活用した事例があります。個体数をカウントするためには単にマグロを認識するだけでなく、しっかりとトレースする技術を組み合わせていくことが重要でした。この技術は人や物体の識別とトレースにも適用可能であり、監視カメラ系へのエッジ機器のチップ(FPGA)搭載の為に演算量削減技術による具体的な回路設計評価を実施しました。結果、大幅な回路規模削減を実現し実装の目途が付きました。今後は、これを応用して、KDDIのスマートドローンプラットフォームにおいて機体にディープラーニングを搭載させて、エッジ側とクラウド側が連携しながら警備やインフラ点検などを行う仕組みを共同開発しようとしています。又、大手自動車メーカーと共同で車両への搭載も目指していく予定です。移動体機器にAIを入れたいということは、多くのメーカーが願っている課題で、我々としても、できるだけ早く実現できるようにお手伝いしたいと考えています。」

この開発成果を人や物体の識別とトレースに適用し、監視カメラ系へのエッジ機器のチップ(FPGA)搭載の為に演算量削減技術による具体的な回路設計評価を実施し、大幅な回路規模削減を実現し実装の目途が付きました。

従来(Original)と、演算量削減技術を活用した場合(Araya Net)では、物体認識の速度(約10倍)が変わっていることが分かる。

今後は、これを応用して、大手自動車メーカーと共同でドライバーの状態を監視する仕組みを開発したり、大手通信事業者と共同でドローンにディープラーニングを搭載させて、警備やインフラの監視、工場や倉庫などで人の管理を行う仕組みを開発しようとしています。移動体機器にAIを入れたいということは、多くのメーカーが願っている課題で、我々としても、できるだけ早く実現できるようにお手伝いしたいと考えています。

意識を持った人工知能が新たなソリューションを生む

意識を持った人工知能が
新たなソリューションを生む

ーー2016年12月からマイクロソフトのスタートアップ支援プログラムに参加されていらっしゃいますね。

とあるスタートアップのイベントを通じて、マイクロソフトとのご縁ができ、 Microsoft BizSpark (現 Microsoft for Startups) というスタートアップ支援プログラムに参加させていただきました。インフラとしてMicrosoft Azure を活用していますが、セキュリティが高く、安定して利用できるサービスを提供してインフラ部分を支えてくれていることは大変心強いです。

AIの観点で言うと、今後 Microsoft Azure 上でも演算量を削減することで、より高度な識別などが可能となると考えています。例えば、これまで静止画の識別しか行えなかったリソースで、動画をリアルタイムに識別できるようになる可能性があると思っています。将来的には、Azure上で演算量削減技術を使ったニューラルネットワークの自動生成ツールを提供していきたいですね。

また、AIの精度を上げるためには、周辺環境の変化に合わせて追加の学習を行っていく必要がありますが、 Microsoft Azure で設計したり、追加学習したものをエッジ機器にダウンロードできるような仕組みも作っていきたいですね。

ーー今後、アラヤはどのような挑戦を続けていくのでしょうか。

人工意識を作ることが創業の目的ですが、人工意識は一足飛びに実現できるものではなく、ディープラーニングと強化学習の2つのベースとなる技術を、機器にしっかりと搭載して研究を続けた先に実現できるものです。そのためのコア技術が「演算量削減技術」であり、事業化してきました。

人工意識とは、内発的動機付け(好奇心)を持たせて、自律的にエージェント自身が持つ能力を向上させていく技術で、産業ロボットなどと親和性が高い技術です。現在は、産業用ロボットにAIを活用しようとすると、新しい動きが加わるたびに、毎回教える必要があります。人工意識で自律的にロボットが学習するような仕組みが実現すれば、多品種少量生産に対応した産業ロボットが実現できると考えています。

好奇心を持った人工知能が生まれることで、人間が思いもよらなかったソリューションが提案できるようになり、これまで解けなかった問題を解けるようになる。そんな未来を夢見ています。

未来のパートナーを募集中です

未来のパートナーを募集中です

  • パートナー募集

    AIの社会に対するインパクトとそれに対する対応を欧米だけでなく、日本・アジアも巻き込み価値観の多様性を持ち込んで議論・方針決定し、推進していくフレームワークをつくるパートナー企業を募集しています。

  • 用途募集

    自動車、ドローン、スマートフォンなどの移動体機器に「演算量削減技術」を使ってディープラーニングを搭載する事例が増えています。課題をお持ちのメーカー様は是非お声がけください。

  • 人材募集

    常に優秀な研究者を求めて、発表会やディスカッションの場を設けています。AIに可能性を抱き、情熱を持っている人材を社員の枠組みを超えて求めています。

アラヤ

WEB:http://www.araya.org/

松本 渉

アラヤ 取締役

情報理論・符号理論の研究に従事し東京大学にて工学博士を取得。大手メーカーにおいてコンピュータ、通信機器等の開発に従事した後、同メーカーの研究所にてADSL、3GPP、WiMAX等の通信方式・誤り訂正符号の研究開発とその標準化活動を行う。その後、情報理論の視点から深層学習、強化学習等の機械学習の研究開発を行い、人工知能を開発するグループのマネージャー職に従事。2017年7月より現職。

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