顧客起点で再設計する「営業現場の働き方改革」

2018年9月6日(木)に日本マイクロソフト品川本社のセミナールームで、顧客起点で再設計する「営業現場の働き方改革」と題するセミナーが開催された。平日の午前中にも関わらず、セミナー会場は満席となり、AI による営業変革や顧客接点の強化に対する関心の高さを窺わせた。「営業活動以外に費やしている時間が67%もある」、「 AI が意思決定者にたどりつくための確実な線を教えてくれる」、「ゴディバ ジャパンの実証実験は計画から完了までわずか1カ月間」、「大がかりな AI ではなく、業務に AI をプラスするだけで生産性が向上する」。日本マイクロソフトの兼城氏と日立ソリューションズの江角氏の講演は刺激的であり、なおかつ具体的だった。今すぐ AI で営業を効率化し売上げを拡大していこう――そんな思いに突き動かされる時間となった。

AI 必須? いま求められる営業変革とは

営業担当者が営業活動以外に費やしている時間は67%

「お客様は営業担当者に何を求めていらっしゃるのでしょうか?」という問いかけから、日本マイクロソフト Dynamicsビジネス本部 兼城ハナ氏のセミナーは始まった。一瞬の間の後、兼城氏は衝撃的な数字を口にした。「80%近いお客様が、単なる商品の説明ではなく、自分もしくは自社に特化した情報、自社のマーケットに対する有益な情報を求めており、新たな視点や気づきをもたらしてくれることを期待されています。自分が知りたいことや話したいことを先読みして用意してきてほしいというのが、お客様の本音であることが、この数字から見えてきます」

満席となった会場では、興味深いデータ分析の紹介についてセミナー参加者がうなずきながら聴講。

デジタル時代において、製品やソリューションを選定する場合、すでに多くのお客様が様々な情報を収集し調査を行っている。「57%以上のお客様が営業担当者に会う前に、ほぼ意志決定をしているというデータがあります」と兼城氏は指摘し、「お客様の期待値に対し、現実はどうか」と新たな問いかけを行った。
お客様の期待に応えるためには、お客様の視点に立ち、様々な角度から情報を収集し考察を深めることが必要だ。しかし、そうした時間的余裕がないのが、営業担当者の現実である。営業業務の効率化を支援する営業支援システムも、営業業務を管理するツールになっていると兼城氏は指摘する。「上司に提出するレポートの作成や日報、勤怠管理、経費精算等、営業担当者が様々な作業に費やす時間は週に1.5日、業務活動の約3分の1に当たります。また営業担当者が営業活動以外に費やしている時間が67%もあるというデータもあります」

データを集める敷居を低くし、AI が気づきを生み出す

真に効果的な営業支援とは何か。兼城氏は、1. 営業の日常全方位を高効率にする仕組み、2. お客様が期待している自身のビジネスに役立つ情報、新たな気づきや示唆をもたらす提案といった営業活動をサポートする仕組みの大きく2のポイントをあげた。この2つのポイントを満たすべく、マイクロソフトでは CRM と ERP の機能を統合した Microsoft Dynamics 365 と、クラウドサービスの Microsoft Office 365 を組み合わせ、社内実践による営業変革を推進していると兼城氏は話す。重要なポイントは、データ収集の敷居を低くし、集めたデータを AI により価値ある情報に変えていくことだ。
「営業担当者が普段利用しているメーラーやスケジューラーに入力した情報を自動的に収集し一元管理を実現します。営業担当者に負担を強いることなく収集したデータを使って機械学習を行い、アクションにつながる気づきや示唆を生み出します。AI が各営業担当者のアシスタントとして過去の提案資料、クレーム対応等の情報を提供するとともに、コミュニケーション不足の注意喚起や提案のタイミング等のアドバイスを行います。マイクロソフトの社内実践では、商談サイクルの短縮化や営業1人当たりの売上高拡大につながっています」
営業活動で最も重要でありながら、非常に難しいのが、自身のビジネスに有益な人物と良好な関係を築くことだ。人脈づくりは一朝一夕にはいかないものだが、兼城氏は「意思決定者にたどりつくための確実な線を AI が導いてくれる」と話しその理由を説明した。
2016年、マイクロソフトは世界最大規模のビジネス特化型 SNSのLinkedIn(リンクドイン)を買収し、そこに AI を導入した。「営業担当者は LinkedIn の中で、社内の A さんは前の会社で一緒だったとか、B さんはその人のコメントをよくフォローしているとか、商談における意志決定者と関わり深い人物を探しあてることができます。また LinkedIn の記事やコメントをもとに、AI がこの相手にはこうした話題を話した方が良いといったアドバイスもしてくれます」

Microsoft Dynamics 365 とMicrosoft Office 365、さらにソーシャル上の人物情報である LinkedIn を連携させることで、営業スタイル革新が加速。

兼城氏は最後にこう締めくくった。「マイクロソフトは営業担当者が日々の業務で利用する Microsoft Dynamics 365 や Microsoft Office 365 に AI を標準機能として組み込んでいます。AI を利用していることを意識することなく、メーラーやスケジューラー等の便利な機能として自然に使っている状態が理想です。AI が日常の営業活動にどう貢献するのか。具体的なお話はこの後に登壇される日立ソリューションズさんからご紹介があります」

普及期に入った AI 活用による営業活動効率化

ゴディバ ジャパンの AI を活用した実証実験は計画から完了までわずか1カ月間

AI といえば、新薬開発や自動運転車、ビッグデータ解析等、イノベーションでの活用シーンを思い浮かべる人も多いだろう。日立ソリューションズ 産業イノベーション事業部 カスタマーエンゲージメントソリューション部 主任技師 江角忠士氏は、多くの人が抱く AI のイメージを覆す提案を行った。
「営業の日常業務にAIを“ちょい足し”するだけで生産性は飛躍的に向上します」。その具体例として江角氏は様々な事例を紹介。その中で、ゴディバ ジャパンと日立ソリューションズによる実証実験も紹介された。

株式会社日立ソリューションズ
産業イノベーション事業部
カスタマーエンゲージメントソリューション部
主任技師 江角忠士氏

世界中の人々から愛されている高級チョコレートブランド、ゴディバ。同社のチョコレート製品を販売する日本全国の百貨店等の店頭において、販売員は商品パッケージを持参したお客様から「おいしかったので同じものを購入したい」と相談を受けることがある。海外からのお土産でもらった商品や季節限定商品の場合、その場で販売員が回答するのは難しい。また商品に使用しているアレルゲン確認のニーズも多く、詳細かつ正確な情報を伝える重要性も高まっている。こうした課題を解決するために、販売員の接客力を AI がサポートする実証実験が実店舗で行われた。
実証実験では、店舗スタッフが Microsoft Dynamics 365 のスマートフォン用アプリケーションで、商品のパッケージ写真を撮影すると、その画像情報から AI が商品を認識し、Microsoft Dynamics 365 のデータベース上の商品情報を、スマートフォンを使ってその場で表示できることを確認した。この仕組みにより、販売員は接客を続けながら商品情報を簡単に検索し、商品に含まれる材料等アレルギーに関わる情報の確認はもとより、類似商品を勧めることも可能となる。

スマートフォンで商品を撮影するだけで、AI が画像を識別し、データベース上の商品詳細情報を確認できる。

江角氏は実証実験の2つの成果について説明する。「1つめが、店舗スタッフからサービス向上に有用であるという意見が多く寄せられたことです。2つめが、ビッグデータがなくても AI を手軽に試せるという確認ができたことです。AI の活用では事前学習に要する手間と時間が課題となりますが、今回は10枚程度の画像の機械学習と最小限の開発だけ。Microsoft Azure の AI サービスである Cognitive Services の画像認識機能と Microsoft Dynamics 365 を連携させることで、計画策定から機械学習、アプリケーションを含むシステム構築、レポート作成までわずか1カ月間で完了できました」

提案アドバイス、情報検索等、AI を活用した営業活動は実用段階に

日立ソリューションズは、Microsoft Dynamics 365 の多くの導入実績に基づく豊富なノウハウと、業務知識を活かしたソリューションをグローバルで展開している。江角氏は Microsoft Dynamics 365、Microsoft Office 365、Microsoft Azure や日立ソリューションズの AI サービスにより実現できる AI を活用した営業活動を具体的に示した。
「例えば、朝、出社してメールを開くと、このお客様への提案が1週間前になりましたとアクションを喚起してくれる。また、このお客様からメールの返信が1週間ない等、お客様との関係性の度合いが信号の色で表示される。さらに訪問の準備をする際、お客様の課題分析や類似案件を教えてくれる。提案中に既存のプリンター等を買い替えたいという話になったとき、その製品の個体識別番号の写真を撮影することで、その写真から AI が商品を認識しアプリケーション上に購入時期や保守契約等の情報が提示される。AI が営業の日常業務を360度支援してくれます」
AI の活用により営業活動で多くの手間と時間を要している情報収集も大きく変わると江角氏は話す。「従来、情報を収集する際、パソコンで検索したり、過去の担当者や関係部署に尋ねたり、煩雑な作業を伴いました。当社の AI アシスタントサービスを利用することで、音声によるチャットで質問するとすぐに答えが返ってきます。家庭に普及しつつある AI スピーカーのビジネス版です。商談中も、タイムリーに情報を入手できることから、お客様対応のスピードアップが図れます。また訪問後、簡単なチャットのやりとりで報告書を作成し、オフィスに戻る必要もなくなります。私も利用していますが、非常に便利です。一度使うと手放せません」

チャットによって、営業報告を作成したり、顧客に関する様々な情報を容易に知ることができる。

AI は日常の営業活動の身近にすでに存在していると江角氏は強調する。そして、「様々な AI 機能がすでに用意されており、それらをいかに使うかがこれからのポイントとなります。業務知識に AI の知見をプラスし営業活動を行えば、営業の効率化、高度化を実現できます」と力を込めた。
日本マイクロソフトの兼城氏と日立ソリューションズの江角氏の2人が紹介した AI 活用による営業変革は「未来」ではなく「今」の話だ。AI が営業担当者にアドバイスするのが当たり前の時代が到来している。セミナー会場では示唆に富むセッション内容に、参加者が熱心にメモを取る姿が見受けられた。

顧客起点で再設計する「営業現場の働き方改革」セミナーは好評のうちに幕を閉じた。

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