日経ビジネスONLINE SPECIAL
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社員を幸せにしたい 会社がすべきこと

Vol.9 衣類問屋の新しい役割探る 跡取り息子が家業を改革 みやじ豚 武田勇輔社長に聞く

伊藤その考えに基づいてどのような事業を育てようと考えているのですか。

武田ログズのビジョンは、「『衣・食・住・学』の同時代的なあり方を再定義し多様性をかたちづくる」です。これに沿って、ファッション、フード、ホテル、アカデミーの4領域で新事業を展開していきたいと思っています。

ファッションとホテルについてはお話ししました。アカデミーとは学ぶことです。情報があふれて世の中の変化が速まる中、何を学ぶかが人々のライフスタイルを表現するものにますますなっていくと考えています。

たとえば、ログズ本社ビルの中で、「coconogacco(ここのがっこう)」という学びの場を設けています。社会とファッションの関係を考えてきたデザイナーの山縣良和さんが主催するもので、第一線で活躍し海外を知る現役デザイナーが講師となり、商品づくりのスキルではなく、ファッションを創造することの本質とは何かを教えています。卒業生が軒並み、世界的なファッションデザインのコンテストでグランプリを受賞するなどして注目を集めています。

また、高い技術力を持つ日本の繊維製品の産地とデザイナーなどを連携させる目的で設立された「産地の学校」も誘致しています。産地の学校では、現地を見学して話を聞きながら、アパレル産業に携わる新たな人材の育成を行っています。

フードの領域では、養殖しやすく栄養価も高いことで注目されている「昆虫食」の可能性を探るなど、たとえ1割でも面白いと強く共感してくれるファンを作ることが重要だと考えています。

伊藤そうした新しいビジョンの実現には、個性やこだわりの強い社員を集め続ける必要があると思います。会社という組織で個性的な人材をどのように束ねながら経営をしていこうと思いますか。

武田メディアアーティストの落合陽一さんのウェブ番組で、「人の遺伝子の99.9%は皆同じ。そこに0.1%の異なった遺伝子が混じることで多様性が生まれる」との話がありました。0.1%の違いを大事にすることはもちろん大切ですが、99.9%の同じ部分にも意味がある。これは、それぞれを会社に置き換れば「自分は何に幸せを感じるのか、会社が目指すことに心から共感できているか」ということだと思います。いろいろな個性、多様性を認めるからこそ、逆に、会社の目指す方向については社員と話し続け、常に同じ方向を向いている必要があるのだと思います。

問屋の使命は時代とともに変わる

伊藤衣料品問屋の事業が時代とともに縮小していく分、丸太屋グループを守り続けるには新規事業を拡大していかなければいけませんね。

武田必ずしも新規事業の拡大は必要ないと思っています。一つひとつの事業は適正な規模を守って事業のサステナビリティ(持続可能性)を高めていくことが重要で、そうした事業を複数、ポートフォリオとして揃えればいいと思っています。

本業の衣料品問屋についても同様で、丸太屋を今の形のままで守っていくつもりはありません。そんなことをよく話すので周囲からはちょっと心配されていますが(笑)。たとえば、100年続く味噌の醸造元が伝統を守って商品を作り続けることは意味があると思いますが、問屋は消費者と生産者をつなぐ社会の機能である以上、時代に合わせてその役割は変わるべきです。無理をして古い機能を引き継いでも意味はありません。

問屋を含むこれまでの流通は、消費者と生産者の間でモノを受け渡すつなぎとなることが役割でしたが、次世代の流通は「クリエーティブ&コミュニティー」が肝だと考えて、それを当社のビジネスコンセプトにしています。

つまり、クリエーティブな新しい要素を様々なコミュニティーをつなぎ合わせ、いかに新しいものを生み出すか。そして、その新しい要素を好きだと感じるコミュニティーをいかに組織化していくか。そうした新しい幸せを生み出す触媒になることがこれからの流通の役割だと思うのです。

ログズは、本社がある日本橋横山町界隈の活性化も目指す

日経BP総研 中堅・中小企業ラボ所長伊藤暢人の「経営ワンポイント」

小さな頃からの刷り込みが後継者の自覚を育てる

 経営者が60歳以上で、後継者が決まっていないという中小企業は全体の3割以上に上る127万社とされています。つまり、こうした会社の3社に1社は、このまま廃業するか、M&A(合併・買収)などで会社を他社に引き取ってもらうことを考えなければなりません。

 こうした中で、中小企業の経営者からよく受ける相談は「子供がウチを継いでくれない」というもの。地方の経営者の家庭でよく見られるのは、子供に幼い頃からしっかりと勉強させて都会の大学に進学させ、大手企業で働いたり、医師になったりというケースです。子供に「継ぐ」という意識がなければ、今の仕事を投げ打って親の会社に戻ってくることは少ないのです。

 たとえば、タクシー大手、日本交通の川鍋一朗会長は幼い頃から「3代目」として紹介されていたそうです。そうした刷り込みがあって、コンサルタントのマッキンゼーに入社して経験を積んだ後、家業を継ぎ、経営改革を実行しました。武田悠太代表も同様のキャリアを積んでいますが、外部で培った視点や経験を用いて家業を新しいステージに引き上げようとしています。

 家庭と仕事を分けるライフスタイルが増える中で、経営することの素晴らしさが子供にうまく伝えられていないケースが目立つようになりました。大人になって急に「後を継いでほしい」と言われても、子供は戸惑うばかりです。幼い頃からの意識づけが30年後のバトンタッチにつながるのです。