コンペ勝率100%の達人が語る“勝てる営業組織”は、データに踊らされず、データを使いこなす

ビジネスの前線部隊であり、“企業の顔”である営業職。現在は、あらゆる営業活動をデジタルデータ化し、縦横に活用することが、強い営業組織をつくる際の要件になりつつある。だが残念ながら、それに成功している企業はまだ少ない。現状の課題を克服するためにはどうすればよいのか。営業コンサルティングに定評のあるTORiXの高橋 浩一氏、セールスフォース・ドットコムの田崎 純一郎氏と秋津 望歩氏が、データ活用時代の営業組織のあるべき姿を語り合った。

「データ活用」の前に立ちはだかる2つの壁

TORiX株式会社 代表取締役 高橋 浩一氏
TORiX株式会社
代表取締役
高橋 浩一
東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社創業参画(取締役副社長)。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表に就任。1日100件のテレアポ新規開拓や数十人の営業組織をゼロからつくった経験をベースとして、上場企業中心に50業種3万人以上の営業強化を支援。行動変容を促す構造的アプローチに基づき、年間200本の研修、800件のコンサルティングを実施。8年間、自らがプレゼンしたコンペの勝率は100%を誇る。
──データは、今やあらゆるビジネス領域に必須のものとなりました。営業現場におけるデータ活用は、どんなメリットをもたらすのでしょうか。

田崎氏
 これまで個人の経験や勘に頼っていた営業活動を「見える化」して標準化し、組織全体の営業力を底上げできます。当社のCRM「Sales Cloud」は幅広い営業活動をデジタル化するとともに、営業マネジメントを効率化する機能を多数提供することで、お客様の営業改革を支援しています。近年は、蓄積したデータを一層有効活用するための機能として、AI「Sales Cloud Einstein(アインシュタイン)」(以下、Einstein)も提供を開始しました。

秋津氏
 Einsteinは、様々な営業活動のデータを分析することで、いわゆる“勝ちパターン”の要因を明らかにしてくれます。これにより、見込み客や案件のスコアリング、売上予測など、人間だけで導くことが難しかった価値ある示唆を簡単に得られるようになります。

高橋氏
 おっしゃる通り、AIは営業の現場やマネジメントのあり方を大きく変えるでしょう。ビジネスにこれまでにない価値をもたらすテクノロジーだと思います。

 ただ、私が実際にクライアントと接する中で感じるのは、そうしたメリットを享受するには、まず、前段のステップを踏まなければいけない企業も多いということです。具体的には、営業改革やAI活用に必要なデータそのものが、まだCRMシステムの中に十分に蓄積されていない。そのため、経営トップの号令のもと、システム導入に着手することは決定したものの、何をどうすればよいかが分からず、AI活用などは夢のまた夢というケースも少なくないのです。

──原因はどこにあるのでしょうか。

株式会社セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 プロダクトマーケティング ディレクター 田崎 純一郎氏
株式会社セールスフォース・ドットコム
マーケティング本部
プロダクトマーケティング
ディレクター
田崎 純一郎
高橋氏
 AI活用といっても、それはあくまで人の行動のためのものである、というのがまず前提にあります。その上で、原因は大きく2つあると考えています。例えば1つは「現場担当者が情報を入力しない」こと。データの効果を引き出したければ、受注した案件の情報はもちろん、失注した案件の情報もできる限り多く集めることが重要です。改善につながる「気づき」は、失敗した点にこそ多く含まれているものだからです。

 ところが実際は、失注案件の詳細を入力すると、自分の能力のなさが可視化されてしまうという不安を感じ、各担当者がデータ入力を行わないケースが多いのです。結果、システム上のデータを見る限り受注率は高いのですが、実態と乖離していることも多い。これでは、効果的なデータ活用が行える環境とはいえません。

 もう1つは「データを扱えるマネージャーが少ない」ことです。特にベテランマネージャーの方は、自分が現場に出ていた当時にデータを活用するという経験をしていません。そうすると、メリットがいまひとつ理解しづらい。そうなると、目標に対して、どんな行動がどのくらい必要かといった日常的な会話や、上司からの適切なアドバイス、マネジメントが行われない環境になりがちです。

 よくあるのは、会社として共通のシステムやツールを使っていても、現場ではマネージャーが独自のスプレッドシートで状況を追いかけていて、“統一の言語”で会話ができない状況です。システム内のデータより、マネージャーの頭の中にある暗黙知に基づいてマネジメントが行われるため、ますます部下はシステムへの情報入力をしなくなり、実際の数字見込みが見えづらくなるという悪循環も生まれます。

 つまるところ、多くの企業の営業部門が、「実態を知られないよう予防線を張る営業担当者」と「経験と勘を頼りにするマネージャー」とのやり取りに終止しています。しかし、目標やKPIを本当に機能させるには、「営業プロセスの見える化」が必要です。私は職業柄、いろいろな企業の営業会議や幹部会議に同席することも多いのですが、システムから抽出された売上見込みの表やグラフを見て、「ここにある数字じゃなくて、本当の着地見込みはどのぐらい?」とトップが尋ねる場面には何度も遭遇してきました。

田崎氏
 確かに、データ活用が必須になりつつある中、前段でつまずいてしまう企業と、それを乗り越えられる企業とでは、今後の市場競争力に大きな差がついていくでしょう。なんとか手を打ち、現状を脱却する必要があります。
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成功体験で味をしめれば、自然とデータが集まる

株式会社セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 プロダクトマーケティング マネージャー 秋津 望歩氏
株式会社セールスフォース・ドットコム
マーケティング本部
プロダクトマーケティング
マネージャー
秋津 望歩
──では、データ活用に基づいて、マネジメントが機能するようになるにはどうすればよいのですか。

高橋氏
 まず成功体験をつくることです。現場がデータ活用のメリットを体感すれば、失注案件も含めて正しい情報を入力してくれるようになります。

 具体的には、「商談の特定のステータスにあるお客様を訪問したら、そのやり取りの内容について、この情報だけは必ず入力する」「その内容に基づいてマネージャーはメンバーにこういう質問をする」といった簡単なルールがしっかり運用できるかどうかを、丁寧に行っていくのがよいでしょう。

 情報の共有と活用が進んでくれば、お互いの活動状況も見える化されますし、そこから自分の案件に生かせる知見が得られれば、徐々に各自が情報を入力しようという気持ちが芽生えてくるものです。しかし、データの裏にある文脈のコミュニケーションが行われず、「数字が到達しているかいないかだけ議論される」会議がまだまだ多いのが現状です。

田崎氏
 また、そうした取り組みに当たっては、情報システム部門との連携も必須ですね。もっと言えば、忙しい情報システム部門にはサポート役に回ってもらい、営業部門が主体的にITを扱うくらいの姿勢が必要です。これがあるかないかで、デジタル化のスピードや得られる効果は大きく変わります。

高橋氏
 まさに、その通りです。情報システム部門との連携がうまくいかないと、営業現場でどう活用するかの検討がされずに「この情報は入力項目に含めておいたほうがよいですね」といったレベル感で、システムの要件定義が行われてしまいます。そうすると、「入力項目が多くて大変だが、この情報は活用されるのか?」という疑念が現場の間に生まれてしまいがちです。しかし、「情報の正しい活用が必要だ」と感じられる成功体験が現場にあれば、次第に、受注/失注プロセスの核心を捉えていくマネジメントに移行できます。

 情報を収集していく上では、「お客様は発注をどう決定するのか」に着目した工夫をすることで、得られるデータの質が大きく変わります。例えば、受注した案件について、「なぜ弊社に発注してくださったのですか」と正面切ってお客様に聞いても、なかなか正しい理由は話してくれないものです。そこで、私はコンサルティングの現場で、「発注はどの瞬間に決まったのか」を聞いていただくよう、クライアントにお伝えしています。

 そうすると、「提案を聞いたその場で即決」「他社の提案と比較して社内で議論」「社長の“鶴の一声”で」……といった「場面」が見えてきます。場面は事実ですから、そこから詳細をヒアリングしていくことで、そのお客様の受注決定要因を浮き彫りにしやすいのです。この過程で得た情報をシステムに入力・蓄積していけば、多くの企業が苦労している「受注を増やしていくためのプロセス」が描きやすくなります。

──受注決定要因が見えてくれば、“個客”に合わせた提案もしやすくなりますね。

高橋氏
 そうですね。受注決定要因がはっきり見えていないと、どうしても提案内容がアバウトになりがちです。例えば、店舗の棚割りを考えるバイヤーに対して提案をするメーカーの営業であれば、「これまで売れていたので今年も売れます」といったプレゼンになりがちです。しかし、得意先が今後、新しい顧客層に向けた商品を展開したいと考えていることが分かっていれば、「御社が開拓したい顧客層にリーチするためには、この商品を使った売り場で……」といった提案になるでしょう。

 あるいは、得意先が「SNS活用をしていきたいのになかなかうまくいっていない」という事情を詳細につかめば、「御社が今取り組んでいるSNS拡散を成功させるには……」といった提案のストーリーを考える余地が出てきます。成果を上げるためにシステムの力を借りた上で、一人の人間として顧客と向かい合う営業が、さらに新しい価値観を提示したり、相手に合わせた付加価値提供へと注力したりする。これにより、結果として営業も独自の価値が発揮できるようになります。

田崎氏
 営業生産性を高めるには、様々なデジタルツールをどう活用していくか、という点も重要ですね。

 例えば、プレゼン時のサービス紹介や商品案内にうまく動画を組み込められれば、従来は一部の優秀な担当者だけが可能だった、“必勝プレゼン”を全担当者が使えるようになります。タブレット端末の活用が浸透していくことで、「どの顧客が」「どの動画や資料を」「何回見たか」のデータも取得できるため、市場が今何を求めているかの全体像を把握することも容易になるでしょう。

 これがさらに進めば、対面でのプレゼンは必要最小限で済むようになり、遠隔営業が可能になるかもしれません。もちろん、VR(仮想現実)などと組み合わせて社内向けに活用すれば、担当者のトレーニングやスキルアップに生かすこともできます。

秋津氏
 これからの時代、勝てる営業組織の1つのキーワードとなるのが、こうした「再現性」だと考えています。今は個々人の経験に基づいたものでしかない営業ノウハウも、データ化すれば共有財産として永続的に活用できます。再現性を持たせることで、特定担当者に依存しない組織全体の戦力アップや、業務負荷の平準化、働き方改革などが加速しやすくなるでしょう。そのために必要となるのが、営業支援システムです。
「営業マネジメント」関連情報

AIは人の可能性と選択肢を広げるもの

──データ活用の基盤が整えば、いよいよAI活用が現実的なものになります。改めて、その可能性を教えてください。

田崎氏
 冒頭で紹介したような効果のほか、より多くのデータを蓄積・活用していくことで分析精度もアップしていき、「目標設定の最適化」「着地見込みの予測」「活動のボトルネック発見」といった取り組みにも適用できるようになります。営業担当者の日々の活動だけでなく、マネージャーのマネジメント業務もAIが支援する環境を構築することで、部門全体の生産性向上を図ることが可能です。

高橋氏
 これからの時代は、人材の確保がますます困難になっていきます。経験と勘のみに頼ったマネジメントのままでは、やがてビジネスそのものが立ち行かなくなるでしょう。

 ただ、「データ活用」は手段の話であり、目的に立ち返ると、「集団の英知を高める」ということだと思います。一人ひとりの営業パーソンが、「上司から突っ込まれないようにどうするか」といった観点で仕事をするのではなく、現場からたくさんの知見をフィードバックし、AIなどの最新技術と共に生きながらも、「お客様に喜んでいただけるうれしさ」を感じて仕事ができることが理想です。

 人の可能性と選択肢を広げ、それぞれが個性を生かして活躍できる環境をつくるためにAIが活用される——。そんな未来が描ければ素晴らしいですね。そのためには、現場のどこで行き詰まっているのかを捉え、課題解決に向けたデータ/AI活用までを含めて検討していくことが、今、営業部門に求められている取り組みなのだと思います。
成功する!営業支援システムの選び方10のポイント
AIを営業活動に生かす上では、まずはデータを蓄積することが重要です。その営業データを蓄積する仕組みが、まさに営業支援システムとなります。いまから営業支援システムを検討する方におすすめのeBookはこちらからダウンロードください。
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