雇用・労働における現状と課題

労働力人口が約800万人減少する2030年
対策すべき3つの中長期的課題とは

今、日本は雇用問題における大きな曲がり角に差し掛かっています。まずはお2人から見た雇用・労働問題の現状について詳しくお聞かせください。

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人口減少・少子高齢化が進んでいく中で、働き方の改革や人材の最適配置・人材移動によって生産性を向上させることが大切と語る太田氏

太田氏 まず、産業雇用安定センターの活動から見える労働問題の現状についてお話しさせてください。当センターは、今から約30年前の1987年3月に設立されました。当時は、プラザ合意の後の円高不況の進行により雇用不安が高まっており、経済・産業界などから、「失業を未然に防ぐため、企業系列外に及ぶ出向・移籍という新たな人材移動の仕組みができないか」という声が上がり、「失業なき労働移動」を支援する専門機関として当センターが発足いたしました。主な事業としては、事業活動の縮小等により労働力が過剰になっている「送出企業」と、事業内容の拡大、成長等により労働力が不足している「受入企業」との間に立って、情報提供・相談等の支援を行い、出向・移籍の成立に結び付ける「人材橋渡し」の業務を全国ネットワークにより無料で実施しています。支援実績としては、最近数年間は、年間8000~10000件の就職件数で推移しており、設立以来の約30年間で約18万人の支援実績があります。
 この約30年の間に、当センターの業務の手法や内容などはかなり変化してまいりました。発足当初は、製造業のブルーカラーを中心に集団での情報提供や相談によって出向の斡旋を行うのが主な業務でした。しかし、バブル崩壊後の雇用情勢の悪化に伴い、出向よりも移籍の斡旋や転職者の支援が重要な課題となり、センターの業務に大きな転換が見られました。また、職種もホワイトカラーや専門職が増え、産業も製造業だけでなく、流通や医療・福祉などサービス業も増えてきています。さらに、流通関係の支援を行うと正規労働者だけでなくパートタイムの女性の支援を行うことも多くなっています。このように業務の手法や内容、取り扱う産業や労働者の範囲が大きく広がってきています。
 今後の人口減少社会においては、社会全体での人材の最適配置・最大活用を図り、生産性を向上させることが大きな課題となっています。そのためには、成熟産業から成長産業へ、大企業から中小企業へ、そして大都市から地方への人材移動が不可欠です。当センターの使命である「失業なき労働移動」を一層積極的に行うことにより、国家的な課題でもある人材移動に貢献していきたいと考えています。

清家氏 マクロから見た現状は極めて良好です。現在、日本の有効求人倍率は1.5倍を超え、失業率は3%を切り、ほぼ完全雇用に近い状況です。働き方改革により、長時間労働と正規・非正規間の格差という2つの課題の是正も着実に進んでいくだろうと期待しています。ただ課題もあって、厚生労働省の雇用政策研究会の試算では、2014年時と比べ、2030年には労働力人口が800万人近く減少すると見込まれています。これは日本に中長期的には3つの課題をもたらします。1つめは労働力の減少による生産力の低下、2つめは消費の主役である勤労者の減少による消費の後退、3つめは保険料や税負担者の減少による社会保障制度の持続可能性の低下です。これらの問題を克服するためには、女性とシニアの活用は不可欠です。先に挙げた研究会の試算によると、2030年までに女性とシニアの労働力率をそれぞれしっかりと着実に引き上げていけば、労働力人口の減少は200万人ほどで済むとされています。

太田氏 おっしゃるとおり、ほぼ完全雇用の状況で人材不足が非常に強くなっており、企業側が欲しがる若い人材を確保することは難しくなっています。賃金や処遇を改善し、働きやすい職場環境を作り、社員を活かす会社でないと良い人材は確保できません。さらに、女性やシニアを積極的に活用するよう、企業の採用方法や働き方を変えていかなければならないと感じています。

多様で柔軟な働き方の実現へ

働きやすさは収益アップにつながる
意欲ある女性とシニアの更なる活用を

女性やシニア活用のためには、企業側に多様な働き方を認めるだけのマネジメント力が必要ではないでしょうか。長時間勤務ありきの職場では無理があります。

太田氏 実際、企業においては長時間労働の是正やテレワークの活用など多様で柔軟な働き方を実現する動きがみられます。日本経済新聞の調査では、多様で柔軟な働き方で社員の能力を高める企業が収益を上げているという調査結果が得られており、働きやすさは生産性向上につながるということがわかってきました。多様で柔軟な働き方を実現すれば女性やシニアも活用できるようになります。最近10年間で生産年齢人口は約800万人減少していますが、就業者数は100万人以上増えています。これは、女性とシニアの就業者数が増えているためです。2006年に、私は厚労省の高齢者雇用対策部長をしておりましたが、清家先生に研究会の座長をしていただき、その報告書に基づき高年齢者雇用安定法の改正を行い、65歳までの継続雇用制度の義務化を行いました。改正からの10年間で、就業率が男性は10ポイント、女性は12ポイント上昇しており、非常に重要な取り組みであったと思います。あれから10年経ち、本格的な人口減少社会を迎えて、これからは65歳から74歳までの前期高齢者は社会を支える側にまわる必要があります。現在は、65歳から69歳の男性の就業率は約52%で、女性は約30%です。これをどこまで上げられるかが今後の課題です。当センターで昨年から開始した「高年齢退職予定者キャリア人材バンク」でのマッチング事業で65歳を超えて働くことを支援していますが、最近はかなりの実績が出てきました。

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現在、国際労働機関(ILO)の「仕事の未来世界委員会」委員なども務める清家氏は、シニア層の就業率引き上げについて、「公務員から率先して65歳まで定年を引き上げ、65歳定年の普及を促すべき」と語る

清家氏 その点は大事ですね。高年齢者雇用安定法改正後に60歳代前半層の就業率ははっきりと高まりました。これには、驚いたと同時に素晴らしいと思いました。日本は、労使がいったんこうと決めたら守る国なのだと。労使の代表の合意で決まった改正法なので、実効性もあったわけです。今、65歳の平均余命は男性が約19年、女性が約24年です。80年を超える人生において、およそ人生の半分にあたる真ん中の約40年は社会を支え、最初の約20年と最後の約20年は社会に支えられるということになります。これは少しバランスを欠くと言わざるを得ないでしょう。幸い日本は欧州等に比べ、シニア層の働く意欲は高い。65歳まで定年を延ばし、それ以降も再就職や契約ベースでの仕事も含め多様な働き方を進めるべきでしょう。

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