成長企業に聞く経営戦略

10年で売上規模4倍以上の成長を実現
スノーピークの事業成功の秘密とは?

過去10年間で売上規模を4.3倍にしたスノーピーク。同社の成長のエンジンとなっているのは、顧客の声に積極的に耳を傾け、商品開発や販売ネットワークを構築するという「顧客エンゲージメント」を徹底的に重視した姿勢だ。2018年からの中期経営計画では「サービスのデジタル化」によって、その取り組みをさらに拡大しようとしている。ここでは、同社の過去の取り組みから現在、そして今後の計画までをひもといていくことで、事業の拡大に向けたヒントを探ってみたい。

決して順風満帆ではなかったスノーピークの歴史

 最近は多くの製品やサービスがコモディティ化するとともに、消費者がインターネットで情報を容易に入手できるようになった。消費者がブランドスイッチを行う頻度も高まっており、想定以上の顧客離れに悩んでいる経営者も増えている。このような状況下でビジネスを成長させるカギになるのが、より具体的かつ戦略的に顧客体験を高め、顧客との関係性を深めていくことだ。つまり「顧客エンゲージメント」をいかに強化していくかが、これからの企業の生き残りを左右する重要課題になっているのである。

 この課題を早い時期から認識し、現在までに約30万人に上る会員顧客を獲得、過去10年間で売上規模を4.3倍にしたのが、スノーピークである。同社はアウトドア用品を中心に、アパレル事業、自然を感じられる都市型ライフスタイルを提案するアーバンアウトドア事業、グランピング事業、地方創生事業、アウトドアオフィス事業、体験型アウトドア事業など、多岐にわたる事業を展開。商品は、高い品質への自信と、「長く愛用してほしい」という想いから、永久保証に。さらに、平均0.8日で修理を完了するアフターサービスという、ユニークな取り組みでも注目されている。また、国内のみならず海外でも積極的に事業を展開している。

株式会社スノーピーク 取締役 執行役員 経営企画管理本部長 リース 能亜
株式会社スノーピーク
取締役 執行役員
経営企画管理本部長
リース 能亜
 「現在はあらゆるものが便利になり、無限に増え続ける情報におぼれる中で、人間性が低下していく時代だといえます」と語るのは、同社のリース 能亜氏。だからこそもう一度、自然と人、そして人と人とをつなぐことで、人間性の回復を実現することが重要になるのだと指摘する。「これが当社の社会的使命であり、自然志向のライフスタイルを提案し、実現するリーディングカンパニーになることを目指しています。そして自らもユーザーであるという立場で考え、社員である私たち自身が、お互いに感動できるモノやサービスを提供すること。こうした意思が、当社のミッションステートメント『The Snow Peak Way』に記されています」。

 それでは、同社が顧客エンゲージメントに注力し、売上を増大させ続けることになった原点は、どこにあるのか。そのヒントは、決して順風満帆ではなかった同社の歴史にある。

 同社の歴史は1958年にまでさかのぼる。創業者の山井 幸雄氏が立ち上げた金物問屋がその発祥だ。同氏は谷川岳をこよなく愛した登山家でもあり、自分自身が満足できる登山用品の開発に着手。燕三条の職人技術による、クオリティの高い製品を生み出していく。そして1963年に自らが愛した谷川岳の白い頂を表した「スノーピーク」を商標登録、1976年には自社工場を建設している。

 1986年には現社長である山井 太氏が入社し、ビジネス領域を登山用品からキャンプ用品へと拡大。キャンプをアウトドアの新たなスタイルとしてとらえ直し、家族の絆を深めるための豊かな時間を過ごすキャンプを提唱、スノーピークをオートキャンピングブランドとしてリニューアルしていった。当時はバブル経済の最中ということもあり、同社は日本全国に広がったオートキャンプブームを牽引。1993年には売上高が25億円に達し、ピークを迎えることになる。しかし、そのブームが終焉するとともに同社の売上は減少。2000年にはピーク時の2/3の水準にまで落ち込んでしまうのである。

顧客との関係を積極的に強化、今後はサービスのデジタル化も推進

株式会社スノーピーク 取締役 執行役員 経営企画管理本部長 リース 能亜
 同社が顧客エンゲージメントを強く意識し始めるのは、このころだ。もちろん創業当初から「自らもユーザーの視点で自分が心から欲しいと思う商品を作る」という姿勢は一貫しているが、2000年前後から顧客と直接つながるための施策を展開していくようになった。

 「アウトドアブームにも乗って1990年代には、それまでにはなかった『雨風に強くデザイン性の高いテント』といった独自性の高い商品を開発することで、他社よりもはるかに高額な価格設定でも販売数を伸ばすことができました。その後、売上が低下する中、社内でも様々な試行錯誤を繰り返していったのですが、なかなか売上が回復しないという状況に直面しました。そこで直接お客様の声を聞こう、という取り組みへとつながっていったのです」(リース氏)

 その第1弾として1998年に始まったのが、顧客との関係構築・強化を目的としたキャンプイベント「Snow Peak Way」だ。ここではたき火を囲みながら、顧客から製品やサービスなどに対する率直な意見やクレームをもらった。そこで得られた顧客の声の中で多かったのが、「店頭での品そろえが不十分」「欲しいものが買えない」ということだったとリース氏。そこで同社は、販売ネットワークの再構築にも着手する。2003年には直営店モデル、2005年以降はインストアモデルを導入し、販売網の強化を推進してきた。キャンプイベントはその後も継続し、これらの声に対する対応状況も顧客に対してフィードバック。単に「モノを売る」だけではなく、キャンプという共通体験を通じて「コトを売る」という取り組みを進めている。さらに2011年にはブランドの可視化を目指して、店舗・工場・オフィスを一体化し、キャンプ場も併設した「Headquarters」をオープン。キャンプイベントの開催場所や頻度も増やしており、顧客の声を聞く姿勢をさらに強化している。現在、キャンプをはじめとするコミュニティイベントへの参加者は、年間1万5000人に上っている。

 その一方で、SNSなどのデジタルチャネルの活用も積極的だ。現在のSNSフォロワー数は42万人を超えており、2018年3月にリリースしたばかりのモバイルアプリもリリース後3週間で2万1000ダウンロードに達し順調に増加している。2018〜2020年の中期経営計画でも「サービスのデジタル化」を拡張方針の1つとして挙げており、2020年までにオフラインとオンラインの融合を果たすことで、顧客のさらなる利便性向上を図っていく計画だという。

 急速な事業規模の拡大の裏では、急速な人員増加・顧客管理システム整備が後手に回っていたため、属人的な顧客サポートとなっていたことが課題となっていた。そのため、販売スタッフの個人的な技量や経験に依存する部分が大きく、顧客対応にばらつきが生じていたのだと語る。この課題を解決し、さらなる成長を目指すには、既存のバリューチェーンのデジタル化はもちろん、新しいデジタル技術を活用した新たな仕組みが必要だと判断。顧客とのあらゆる接点で得られた情報を基に、ニーズやライフスタイルの深掘りを行い、一貫性のあるカスタマージャーニーを実現することを目指しているという。

全機能を一気通貫でそろえられる情報基盤の整備へ

 そのための基盤として同社が選択したのが、SAP S/4HANAだ。これはデータベース構造が極めてシンプルで、高速処理が行えるERP(基幹業務システム)。大企業はもちろんのこと、中堅・中小企業にとっても導入しやすく、顧客データの一元管理や共有、迅速な意思決定の実現が容易になっている。

 それ以外にも、戦略的な観点からの選択理由があるという。リース氏は次のように説明する。

 「SAPを採用した最大の理由は、データの収集から一元管理、その分析・活用までを一気通貫で行えること。ITアーキテクチャの観点では、各機能領域(マーケティング・物流・CRM)などのベストインクラスを選択し、接続させる方針を採用するケースが少なくありません。しかし、この手法としては、せっかく集めたデータの活用に手間がかかること、当社のような事業規模の段階では、投資負担が大きいことが挙げられ、切り替え前に、当社が運用していた以前のシステムも同様の状況だったため、データを活用するには人海戦術が欠かせませんでした」

 同社がSAPの採用を決定したのは2015年12月。2017年3月にはSAP S/4HANAと、データ分析を行うSAP Predictive Analyticsを組み合わせたシステムを完成させている。さらに2017年7月には、SAP S/4HANAと連携するオムニチャネルソリューションであるSAP Hybrisも本番稼働を開始。デジタル、リアルの両方の顧客接点から得られる情報を集約し、それに基づく需要予測や各種施策の立案・実施が行える環境を整備している。

 既にECサイトやメールマガジン、イベント会場で発生した情報は、すべてデータベースに集約。FacebookなどのSNSやモバイルアプリ、店舗からの情報収集も進める方針であり、最終的にはオンライン/オフラインの各顧客接点から情報を統合し、顧客エンゲージメントの強化、業務効率化や経営判断の迅速化に役立てていく計画だ。
株式会社スノーピーク 取締役 執行役員 経営企画管理本部長 リース 能亜

業務生産性が20〜30%向上、エンゲージメント強化にも大きな期待

 それではこのような環境の整備によって、具体的にどのような効果を得たのか。

 「ITシステムのベンダーを1社に集約したことで、IT管理コストが低減し、データの一貫性も実現できました」とリース氏。また、SAP S/4HANAならではのシンプルなデータベース構造は、長期的な拡張も容易にするはずだと指摘する。さらに、業務プロセスが上流から下流まで一気通貫で流れるようになったことで、業務現場の生産性も向上。「例えば配送センターでは商品出荷に必要な時間が10%削減され、販売スタッフの生産性も20〜30%向上しています。在庫の最適化も容易になっており、ベネフィットとしては、継続的に数字に表れてくるはずです」。

 情報が集まるスピードが向上し、その精度も高くなったことから、次にどのようなアクションを行うべきなのか、経営判断につながる議論も行いやすくなった。「特に、売れ筋商品の売上は日次で見えるため、販売ロスが発生しないよう必要に応じて物流を変更する、といった対応も即時行えるようになりました。特にアパレルのように、販売期間にシーズン性があるセグメントでは、スピード感は欠かせない要素であり、システムが一気通貫していることによるメリットを出せるのではないでしょうか」とリース氏は述べる。

 もちろん、顧客エンゲージメントの強化にも大きな期待が寄せられている。前述のように、現在の同社の事業は多岐にわたっている。エンゲージメントを強化することで、1人の顧客がこれら複数の事業セグメントを「泳いでいく」状況をつくり出すことが可能になり、顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益(LTV:Life Time Value)のさらなる向上につながると考えられているのだ。

 「例えば1つの流れとしては、キャンプを体験したお客様が当社のアパレル製品を購入し、グランピングも楽しむ、といったことが考えられます。また、そこから日常生活やオフィス環境に自然を取り入れようと考える人も出てくるでしょう。このように様々な人生のシーンで、より多くの人々を幸せにするビジネスを、世界レベルで展開したいと考えているのです」(リース氏)

 同社のこのような取り組みは、デジタル変革の典型的な事例だといえる。デジタル技術を積極的に活用しながら、顧客視点でのビジネス展開を推進しているからだ。デジタルを使った顧客エンゲージメントの強化は、次の時代の勝者になるために、企業規模や業種・業態を問わず、ますます重要な要素となっていくだろう。
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