経営者のためのテクノロジー講座「HRテクノロジー」編 ~AI時代に経営者が考えるべき真の人財活用とは~

深刻な人手不足や働き方改革が、多くの企業の喫緊の経営課題として浮かび上がっている。人事にまつわるこれらの課題を解決する手段のひとつとして、現在大きく注目されているのが、人事とITを融合するHR(Human Resources)テクノロジーである。日経ビジネスオンラインでは、2018年5月31日、HRテクノロジーをテーマに「経営者のためのテクノロジー講座」を開催。HRテクノロジーの概要や技術動向、実践例、具体的なソリューションなどが紹介された。

基調講演

HRテクノロジーにより進化する経営

慶應義塾大学大学院経営管理研究科
特任教授
岩本 隆

経済産業省が提唱する第四次産業革命は、単純作業はAIやロボットに代替させ、人はテクノロジーを活用して、より付加価値の高い業務を行っていくことを目指している。実際、FinTechを始め、あらゆる領域で新しいテクノロジーを活用する「xTech」が提唱されており、HRテクノロジーもそのひとつである。

人事業務テクノロジーを活用するHRテクノロジービジネスは、米国で1980年代から始まった。HRテクノロジーと言われ始めたのは2000年頃で、日本では2015年ごろからだ。その後、急激に市場が立ち上がり、「現在はかなり過熱気味です」と慶應義塾大学 特任教授 岩本隆氏は語る。

HRテクノロジー活用のポイントとして岩本氏があげるのは、映像やセンサーデータまで、多様化するデータをどのように定義し整備すべきか、急激に進化するAIをはじめとする分析手法のなかで何をどう活用すべきか、何を目的にどのようにアウトプットすべきかの3つ。そして、それぞれのレイヤーで、次々に新しいテクノロジーが開発されている。

このように、HR分野でデジタル化によるデータ活用が欠かせなくなっているが、日本企業ではそこに人財が投入されていないことが問題と岩本氏は言う。「テクノロジーに強く、社内に多くのデータサイエンティストを抱える企業は少なくないが、そういう人財はほとんど間接部門には来ません。本人も間接部門に来たがらないという問題もあります」と指摘する。

岩本氏は、HRテクノロジーを「タレント」、「組織マネジメント」、「企業文化」の3つに分類。タレントは、個々のタレント(人財)のマネジメントで、組織マネジメントはいかにチーム力を向上し、パフォーマンスをあげていくか。企業文化は、エンゲージメントの向上を目指す。エンゲージメントが高いほど、業績が良く中長期的に成長するという研究結果もある。

エンゲージメントを高めるには、企業は従業員が生き生きと働ける環境整備にコミットし、従業員は企業の業績に貢献することにコミットするという相互関係になければならないが、多くの日本企業はそうなっていないと岩本氏は語る。「エンゲージメントは婚約の意味でも使われ、男女の関係に極めて近い。一方、日本の企業と従業員の関係は、対等な男女というより親子関係に近い。グローバルな競争環境で、親子関係のマネジメントを続けていては、厳しいのではないか」(岩本氏)。

エンゲージメントの研究も増えており、アンケートを取って改善に取り組む企業も多い。しかし、人手で集計すると時間がかかり、当初の熱意がしぼんでしまう。「テクノロジーを活用し、すぐに集計してアクションにつなげればホットの状態で取り組め、より高い効果が期待できます」と岩本氏は語る。

特別講演

第四次産業革命のグローバル展開と
最近のIT施策について

経済産業省
経済産業政策局総務課 第四次産業革命政策室 室長
佐々木 啓介

AI、IoT、ビッグデータの活用による破壊的イノベーションが世界規模で加速するなか、ガバナンスギャップがキーワードになっている。ガバナンスギャップには、現実の急激な変化に制度政策が追いついていけないという問題と、国際的に見たときに、ある国では合法だが他の国では違法というグローバルギャップの2つがあり、これらをグローバルに解消することが、大きな課題になっている。

そのような状況のなか、ダボス会議を開催する世界経済フォーラム(WEF)が、2017年3月、サンフランシスコに第四次産業革命(4IR)センターを設立。さらにその姉妹機関として、2018年7月2日には一般社団法人世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターを立ち上げることが決定した。日本センターでは、大きく3つの目標がある。1つ目は、世界の最新情報の収集・分析・発信。2つ目は、日本発の最新の情報の世界への発信。3つ目は、ルールメーキング。「経済産業省が一番やりたいのはこの3つめの課題です。受け身ではなく、日本が積極的に主導していきたい」(佐々木氏)。

経済産業省は、業種を超えた連携により新しい産業を興す目的で「コネクテッドインダストリーズ」という取り組みを進めている。いろいろな分科会で取り組みを進めているが、日本センターは世界とつながるゲートウェイの役割を果たしていく。これらの取り組みを通じて、テクノロジーを活用した超スマート社会により社会的な課題解決を目指すSociety5.0、すなわちSDGsの推進を目指す。

最後に佐々木氏は、昨年秋に米国で開催されたHR Techカンファレンスを報告。たとえば、採用ではより公平な採点を行うことが期待できるとして、AI面接官が事前審査したり、SNSの履歴を収集・分析し採否の参考にする。人財育成面では、できる社員と普通の社員の行動をAIで分析。違いを見つけてそのスキルを横展開し、全体の底上げを行うといったサービスもある。幹部人財の任用も一から考えるのではなく、AIの提案を基に考える時代になっている。「世界はホワイトカラーの生産性向上を目指し、HRテクノロジーが急激に進展していることを痛感しました。人事戦略は経営戦略そのもの、すなわち企業経営のOSでしょう。そのOSがグローバルになっていないと世界で戦うのは難しい。我々自身も生産性向上に努め、ガバナンスギャップの解消を実現していきたい」(佐々木氏)。

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