道が人を鍛え、人がクルマを作る!「TOYOTA5大陸走破」プロジェクト

参加者はみんな、改めてクルマが好きになる

ジョナサン・ウェブ氏

 エンジニアリングのコンサルタント企業を経て、2015年にトヨタへ入社したジョナサン・ウェブ氏は、技術部門の代表として2017年ヨーロッパ大陸に参加。現地と本社事務局との窓口を務め、ルート設定などにも携わった。その過程ではトヨタの役員とも話す機会があったというが、感じたのはトヨタの本気だ。

「衝撃的だったのは、本気で変革を求める姿勢です。入社する前、トヨタは伝統もあるし保守的な企業だろうと思っていました。しかし、経営陣は、社員に対して本気で変わることを期待しているのが分かりました」

 ヨーロッパ大陸は他の大陸に比べて、厳しい道や環境は少ない。しかし、自動車発祥の地だけに、求められるクルマの性能の水準は高いという。

「参加者に求めたのは、ヨーロッパの環境でのドライブ特性やニーズを理解してもらうことです。現地スタッフも多く参加しているので、直接コミュニケーションが取れたのは、大きな収穫になったことでしょう」

「5大陸走破」は「人づくり」という大きな狙いがある。厳しい環境下や限られた時間の中で問題解決能力を向上させることは、社員の成長に直結する。しかし、それ以上に期待されているのは、社員のモチベーションの変革だ。関谷氏は「2014年から2017年へとプロジェクトが進むにつれ、より自主性が重視されるようになった」と感じている。そして、「それによって、メンバーも参加前後で大きく成長していると思います」と続けた。全プロジェクトに参加したからこそ、よく分かるという。「端的に言えば、みんな本当の意味でクルマを好きになってくれますよね。そして、どうすれば自分の立場で、“もっといいクルマづくり”に貢献できるのかを考えるようになる。会社にはさまざまな部署があります。クルマの製造に直接関わらない社員も多い。そんな中、この「5大陸走破」に参加した人は、自分がどんな会社に所属しているのかを再認識してくれるのです」

プロジェクトの本当の成果は20年後に表れるはず

 トヨタのスローガンでもある「もっといいクルマづくり」。豊田社長がこの想いに至った根底には、トヨタのマスターテストドライバーである故成瀬弘氏の「道がクルマをつくる」という言葉がある。「道がクルマをつくる」を言い換えれば、「道が人を鍛え、人がクルマをつくる」。「5大陸走破」の意義は、まさにこの言葉に集約されているのだ。関谷氏は「『5大陸走破』は、10年後、20年後のトヨタのための活動だと感じます。道に鍛えられた社員がどんな仕事をするのか。つくる人が変われば、クルマも変わる。10年、20年経過して、このプロジェクトの本当の意義が分かるのかもしれません」と語る。トヨタの目指す方向が、現場にしっかりと浸透していると感じた一言だった。

 自動車業界は大転換の時期にある。PHV(プラグインハイブリッド自動車)、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)など、次世代自動車の本命はまだ決まっていない。それどころか、自動運転技術によりさらに大きな変革が起こる可能性さえある。しかし、だからこそ、トヨタは人を鍛える。クルマの未来がどんな形になろうとも、それをつくるのは人なのだから。

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「TOYOTA5大陸走破」
プロジェクトを通した
GAZOO Racing Companyの
人づくりの狙い

世界一過酷なレースと言われるドイツの「ニュル24時間」。このレースへ挑戦する意義は、モータースポーツ活動を通じて「人とクルマを鍛えること」にあるが、「5大陸走破」への挑戦を通した、人づくり、クルマづくりの狙いとは。

創業当時からあった
モータースポーツ活動での人材育成

定方理氏

 トヨタの創業者である豊田喜一郎は「オートレースにおいて、その自動車の性能のありったけを発揮してみて、その優劣を争う所に改良進歩が行われ、(中略)日本の乗用車製造事業の発達に、必要欠くべからざるものである」といった言葉を残しています。モータースポーツ活動によって人やクルマを鍛える発想は、創業時からあったということです。その想いに立ち返り、現在、GAZOO Racing CompanyはWEC(FIA世界耐久選手権)やWRC(世界ラリー選手権)など、複数のレースに参戦しています。ここで得た知見やノウハウは、直接市販車の技術に活かされます。一方、「ニュル24時間」や「5大陸走破」は、人材育成を最大の目的に据えています。もちろん、ほかにもさまざまな人材育成プログラムが存在しますが、「ニュル24時間」や「5大陸走破」で得られるものは次元が異なる。現地現物の極限下で知恵を出し合い、想像した経験をもつ人材が育てば、必ずクルマづくりもよくなっていくはずです。

参加者は「もっといいクルマづくり」の伝道者

 正直な話をすると、技術部出身の私は、当初、「5大陸走破」の意義を正しく理解していませんでした。すでにトヨタは、市販車を開発する段階で世界中でテスト走行を繰り返し、あらゆる環境下で基準を満たしていたからです。しかし、「5大陸走破」は、「ニュル24時間」以上にクルマと密に接することになります。実際にその国の文化や風土に触れると、「故障せず走れるが気持ちよくない」など、現地を長期間走らなければ分からないことが見えてきました。「故障しないが気持ちよくない」では、お客様の愛車にはなり得ません。従来のテスト走行だけでは理解しがたい性能を現地現物で学ぶことが参加者の血肉となって、もっといいクルマづくりにつながるのです。

「ニュル24時間」の参加メンバーは限定されますが、「5大陸走破」は、オールトヨタのプロジェクト。社内のあらゆる部署の社員が参加するほか、さらには関連会社、ときには取引先からも参加があります。普段は直接クルマづくりに携わらない社員も、長時間に渡って走り、みんなとクルマについて語れる時間はとても貴重なはず。参加者の中には衝撃を受けて、マインドチェンジが起こったという声もよく聞きます。その気持ちを仕事に活かしながら、それぞれの部署で愛車につながる「もっといいクルマづくり」の伝道師になってもらっています。

 また、GAZOO Racing Companyはモータースポーツ活動を通してトヨタに刺激を与え続けたい。モータースポーツ活動で人を育て、そこで培った経験や技術でお客様に愛車と言っていただけるもっといいクルマをつくって利益も出し、モータースポーツ活動を継続させ、また人を育てる。こうしてトヨタ本体に刺激を与え続けることが我々の使命のひとつだと考えています。「5大陸走破」のゴールである2020年へ向けて、この姿勢と活動を継続していきたいですね。

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定方氏は「モータースポーツ活動を通して人を育て、いいクルマをつくることは、GAZOO Racing Companyだからできること。この活動を通してトヨタに刺激を与えていくのが我々の使命です」と語る。