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探る!腕時計の新潮流

腕時計が再び売れ始めている。中国市場の落ち込みやスマートウォッチの隆盛などもあり、国内のみならず世界的にも販売が低迷した2016年。しかし、2017年には上昇トレンドが復活。その勢いは取り戻されつつある。好調の理由は様々考えられるが、まずはなんと行っても商品の充実が挙げられるだろう。特に今年は、実用的なモデルの中に、ハイクオリティで適正価格の時計が多く見られるようになった。今こそ、一生付き合える時計を手に入れるチャンス。本特集では注目の最新モデルを一挙公開する。

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バーゼルは死んでしまうのか?

例年通り、魅力的な新作の数々が並んだS.I.H.H.とバーゼルワールド。
しかし、その会場の雰囲気は1年前とは少し違っていた。
ブランド数が増え勢いを感じさせたS.I.H.H.に対し、
バーゼルワールドは規模を縮小しやや盛り上がりに欠けた印象があった。
その理由はどこにあるのか。
今年の腕時計の傾向や注目の新作モデルなどとともに、人気時計ジャーナリストが分析。
そこから見えてきたものは―。

写真(会場)=宮本敏明 文=いなもあきこ

バーゼルは死んでしまうのか?

―― S.I.H.H.とバーゼルワールド。二つの世界的な時計の見本市を取材した時計ジャーナリストの広田雅将さんと篠田哲生さん、本時計特集を担当した安藤夏樹が、新作モデルの傾向、今年の時計業界の動向について語り合った。

安藤今年3月に開催されたバーゼルワールドには、始まる前からいろいろな意味で注目が集まりました。一昨年1500だった出展ブランド数が昨年1300になり、今年は700に激減。しかもエルメスがバーゼルから1月開催のS.I.H.H. に移り、1月末にはブライトリングがグローバル・ロードショーという形でバーゼルに先駆けて新作発表を行いました。ほかにもいくつかのブランドがバーゼルから、S.I.H.H.が開催されるジュネーブに移るという噂も飛び交い、「バーゼルが危機に瀕しているのでは」と関係者の間で騒然となりましたよね。
篠田ブランド数が減ったのは、数千万円から数億円かかるという、高額な出展料が主な理由だと言われています。
広田何とか出展者にお金をかけさせないように、運営側も方策をいろいろと考えているようです。バーゼルワールド終了後も1年間、会場の1階部分のブースは壊さず建てたままにすることで、負担を減らすとか。エルメスの時計部門責任者であるドゥ・セーヌ氏に聞いたら、バーゼルからS.I.H.H. に移ってコストが2/3に減ったと言っていました。確かに、マイアミとかドバイでも時計の見本市が成立していますしね。ただ、それでもバーゼルという名前の集客力を各ブランドも無視できないと思うんです。

安藤つまり、一部出ていったけれど、多くのブランドは残るだろう、と。
広田今年から出展をやめた大多数は小規模ブランドで、それには2017年1月1日に改正された「スイスネス法」の影響も大きいと思います。従来はムーブメントの50%がスイス製だったら文字盤に スイスメイドと書けたけれど、今はストラップを除く外装とムーブメントがそれぞれ60%以上スイス製であることが条件となった。でも、製造の60%をスイスで行うとなれば、人件費が高いからべらぼうにお金がかかるんですよ。
篠田バーゼルの高額な出展料なんて、払っていられないということですね。
広田ただ、実際に会場を訪れてみて、僕は予想していたほどガタガタではないなと思いました。現地で話を聞くと、LVMH グループ時計部門プレジデントのジャン- クロード・ビバー氏ほか何人かの経営者は、「来年以降もバーゼルに残る」と明言していましたし。結局、今年はバーゼルワールドが始まって以来初めて赤字に転落したようですから、楽観視はできないでしょうけれど、基本的には来年以降も今の形で続いていくと考えて問題ないと思います。
安藤時計業界自体も、右肩上がりだった好景気を経て、2015年を境に失速。16年は厳しい状況だったと言えますが、今の売れ行きはどうなんでしょう?
篠田スイス製時計の世界輸出額を見てみると、去年は前年比プラス2.7%。ようやく下げ止まりましたね。日本への輸出額はマイナス2.6%で、2年連続で落ちていましたが、今年に入って1月から3月までの3ヵ月間を見ると、前年同期比プラス11.1%に。全世界で見てもプラス10.1%ですから、軒並み上がっているということです。

安藤なるほど、世界的に時計業界の景気が上向いたと考えてよさそうですね。そんな中開催されたS.I.H.H. とバーゼルワールドでは、今年もいくつかのトレンドがありました。例えば「バンドを自分で変えられる」モデルが増えたのもその一つですよね。お2人は今年の時計業界のトピックスについて、何をお感じになりましたか?
広田僕が思ったのは、全体にお買い得な時計が揃ったということです。例えば、オメガの「シーマスター ダイバー 300 Mマスタークロノメーター」は文字盤にセラミックを使用して50万円台だし、ボーム&メルシエの「クリフトン ボーマティック」は1500ガウスの耐磁性能があって30万円台。30万円を切ったロンジンの「マスターコレクション」なんて、年次カレンダーまで付く価値からすれば、半値ぐらいかも。
篠田しかも、3日間以上動き続けるロングパワーリザーブと高い耐磁性という実用に欠かせない機能も、当たり前に搭載されるようになっています。
安藤そもそも時計って、ここ数年少し安くなっていますよね。でもそれらはすべて、シンプルな3針にするとか小さくするとか、価格切り下げの理由がわかりやすかった。ところが、今年のモデルは高機能なのに、安くなっているのがこれまでとの大きな違いです。
篠田リシュモン グループなんかがそうですけど、各ブランドが応用しながら共通で使える基礎的な「グループムーブメント」がようやく搭載可能になりました。その分、開発費が抑えられるようになったことも、価格低下の理由の一つかもしれません。
広田典型例が、ボーム&メルシエの「クリフトン ボーマティック」ですよね。おそらく今後、リシュモンはこのモデルに搭載された技術を、グループ内のムーブメントにどんどん使ってくると思います。ここ数年、文字盤の質が上がりカラーダイヤルも一般的になってきた。そういう意味では、使い勝手がよくて上質、なおかつ100万円以下で買えるモデルが続々出てきた今年は、いよいよ実用時計の買い時が到来したなと感じますね。

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