InterSystems in Healthcare Seminar 20116 医療連携最前線〜国内外の先進事例から学ぶ

 2016年6月16日に、東京コンファレンスセンター品川において、インターシステムズジャパン主催の「InterSystems in Healthcare Seminar 2016」が開催された。今年は、「医療連携最前線〜国内外の先進事例から学ぶ」をテーマに、4名が講演。
 地域包括ケアシステムの構築やITを活用した医療情報連携など、先進の医療連携に対する関心は非常に高く、たくさんの参加者が集まった。また、ホワイエでのソリューション展示デモコーナーでは、よりよい医療連携の実現に向けた意見交換が活発に展開された。

基調講演 地域医療情報ネットワークの最前線〜英米海外調査から

神戸国際大学 経済学部教授 大阪大学 名誉教授 経済学博士 辻 正次 様  最初に登壇したのは、神戸国際大学経済学部教授であり、大阪大学の名誉教授である辻 正次氏。長年、医療分野でのIT応用について研究を重ねてきた辻氏は、医療技術や運用がもたらす経済効果を追究してきた。その知見をもとに、日本の課題と今後の方向性を明らかにする基調講演を行った。

 まず、辻氏は日本の地域医療情報システムの歴史を振り返り、90年代中ごろからの兵庫県加古川市では約120の医療機関が参加した“カインドカード”による検診・投薬データの共有や、島根県出雲市の小中学校の健診データの共有・活用など、世界を見回しても、実は、日本の取り組みは歴史が古いことを紹介した。
 電子カルテ時代になり、別の医療施設の紹介患者の情報や、退院患者の情報を共有して、さらなる安全な医療が、地域医療情報システムによって実現していく。

 近年、地域医療連携システムの運用数は増えてはいるが、全国的に見るとまだまだだと、辻氏は指摘する。
 「地域医療連携システム導入は、医療資源不足と医療機関の機能分担に対する課題解決のためという声が多く挙がっていますが、残念ながら、期待のままで終わっているのが現状です。それは、巨額の資金投入が必要にもかかわらず、経営面でのメリットが感じられないなど、導入効果が目に見えにくいことが、導入が進まない大きな理由です」と説明する。

 このような日本の地域医療連携システムにおける課題の解決に向けて、辻氏は海外の取り組みとの比較を紹介した。

 米国・ニューヨーク州では最大の地域医療情報交換組織であるヘルシックス(Healthix)は、1,600万人の患者情報を集約し、約500の医療機関をつないでいる。ここの特徴は、「Population Risk Management」。1,600万人の患者情報をBig Dataとして分析しリスク管理を行う前向きな姿勢だ。特定の患者の、特定の疾病に罹患・悪化する確率を計算して、将来のリスクを予測して、リスクの高い患者から治療に取り掛かかっていることが紹介された。

 次に、英国の医療戦略を紹介した。国全体で、患者は医療機関や行政とオンラインによるコミュニケーションを図っており、自宅での自分の疾病・健康の自己管理や、ホームモニタリング(在宅健康支援システム)が推進されている。しかし、ロンドンは、他の市よりも、病院で亡くなる方が3倍もいる事実があった。
 そんな中で2012年5月に設立したCMC(coordinate my care)は、終末医療について患者の意志が尊重されるようなサービスを目指した。約3万人の患者が統合型システムに登録されており、多くは在宅での治療を望むことを表明している。この医療情報プラットフォームにInterSystems HealthShareが活用されている。
 辻氏は、「英国全体とCMCの『看取りの場所』を比較すると、病院が4分の1に減少し、自宅は2倍になり、当初の目的を達成しています」と説明した。

 それらを踏まえ、地域医療情報ネットワークの発展モデルを説明した。
 地域医療情報システムは、今後、Integrated Care Exchangeがテーマになり、セキュリティを確保した共通のデータベースに、あらゆる医療関係者がアクセスする仕組みになる。
 辻氏は、「このようなシステムをどう実現していくかがポイントです」と話を進め、大切なのは『規模の経済性を発揮すること』だと強調する。

 「日本では、自治体、医師会単位で出発しているので、規模の経済性が出せないことが最大の課題です。これでは情報共有だけになってしまい、価値が見出せなくなります」と説明した。

 「日本で構想されている、Big Data化した情報を2次利用するものは、製薬企業へ販売することでシステム開発費をまかなうというビジネスモデルであり、医療現場に反映していくものではありません。そのため、疾病の予防、重症化防止、治療の効率化といった前向きな治療に当てるという視点がないことが残念です」と語る。

 重要なことは、ITを活用してどのように効率化を図るかを真剣に考える必要があると指摘し、「AIやBig Data、ICTロボットなどに代表される第3次IT革命は、医療分野が一番必要としています。しかし、日本では関心が薄いと危惧しています。高い技術力を持つ日本こそ、地域医療連携ネットワークに活かしていく視点が必要です」とまとめた。

講演1 豊前市における在宅歯科訪問調査の意義と展望

九州歯科大学・地域健康開発歯学分野 教授 安細 敏弘 様  豊前市は人口26,468人(平成28年5月現在)で、3世代世帯(うち、子どもを含む世代のみ)は約6.1%(全国平均:約5.4%)と高い割合を示している。市長は「生涯現役の社会づくり」を掲げ、その一環として、口腔ケアの視点から健康長寿なまちづくりにつなげる事業が実施された。

 「口腔ケアとは、歯のブラッシング指導だけではなく、機能的な回復リハビリテーションや舌の運動機能も含まれます。その結果、スムースな滑舌や摂食嚥下にもつながります」と、安細氏は説明する。

 安細氏のチームがこの事業の効果について調査を実施。在宅高齢者にフォーカスをあてた訪問調査が行われた。
 主に、「舌や口の機能とサルコペニアの関連」、「口腔内環境の改善による肺炎等の感染予防」、「QOLや社会生活への効果」の3つの視点で調査が行われた。

   本事業の活動の全体像は、次の通りだ。
 在宅高齢者のもとへ、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士など訪問し、検査やアドバイスを実施する。具体的な項目は、「口腔検査、舌圧検査、細菌検査、血液検査、体組成分析、食生活・栄養調査、口の体操」など、多岐にわたる。

 それらの結果データと、「住基ネット、国保マスタ/レセプト、後期マスタ/レセプト、特定健診結果、介護認定/給付データ」などのデータをシステムに取り込む。このデータ入力は、日立製作所と共同で開発したiPadシステムを採用。システム構築では、『InterSystems Caché』を用いたデータベースが利用されている。

 「対象の高齢者に対しては、結果報告を抽出しアドバイスをお渡しします。また、集まったデータを分析することで、新たな要因研究にもつながります。今後は、高齢者だけではなく、学校健診などのデータも含めることを視野に入れています」と、安細氏は語る。

 サルコペニアとは、筋肉量の低下により、筋肉機能(筋肉や身体能力)が低下する症状のこと。安細氏は、「口腔サルコペニアと全身のサルコペニアは関係しており、負のスパイラルにつながっていきます」と説明する。
 日本歯科医師会も「オーラル・フレイル」の啓発活動を行っており、「オーラル・フレイルとは、直訳すれば『歯・口の機能の虚弱』です。口の中の機能が低下すると、滑舌が変化、摂食・嚥下・咀嚼機能が低下し、食欲の低下やバランスの良い食事を摂ることができず、噛む力や舌の動き、食べる量が低下し、栄養の不足、代謝の低下、サルコペニアを引き起こす要因となり、ひいては要介護状態に陥ります」と、安細氏は解説した。

 今回の調査から見えてきた成果として、次の3つを挙げた。
 1つ目は、舌圧とSMI(骨格筋の指数)の間に正の相関がみられたり、ふくらはぎ周囲長が31cmより低い人ほど、舌圧が低いなど相関していること。
 2つ目は、「家族へのプラス効果」があること。この事業をきっかけに、家族ぐるみで継続してケアを行ったことによって、口腔周囲の筋力が改善したり、認知症の人に笑顔が戻るなどよい変化があった例を紹介した。
 3つ目は、「ライフコース疫学」だ。加齢や医学的・社会的要因等に伴いリスクは蓄積していくが、本事業でデータベースを構築することで、過去の情報と現在の情報を照らし合わせて分析することができる。

 安細氏は、「どのようなリスク要因を有する人がフレイルサイクルに突入しやすいのかを把握できます。それが判明できれば、どの時点で、どのような介入を行えば、予防につながるかの示唆が得られ、健康づくりの施策の一助になると期待できます」と、強調する。

 最後に、安細氏は、今回の豊前市の口腔ケア事業で得られた成果が、日本の健康長寿社会のモデルになっていくことを目指しているとまとめた。