【日経デジタルヘルス Online Special】小児在宅医療連携事業の業務変革、組織変革を支援 MeLL+で目指す多職種協働の新たなかたち

手稲渓仁会病院小児科での人工呼吸器などの医療を必要とする重度障害児者に対する在宅訪問診療を経て、2013年に組織された医療法人 稲生会。訪問診療、訪問看護、居宅介護、短期入所のサービスを提供し、医療をはじめ、療育や教育、社会参加など、小児在宅患者の生活全般を支援している。専属の医師、看護師、セラピスト、保育士、介護福祉士といった多職種が協働しながら患者・家族を支えていく場の共有”を実現させるために導入されたのが、ワイズマンの医療・介護連携サービス「MeLL+」(メルタス)である。法人全スタッフの情報共有・コミュニケーションが強化され、“多職種協働の新たなかたち”がつくられつつある。

障害を抱える子どもの生活全般を支える

 2016年度の診療報酬改定で、小児在宅医療に積極的に取り組んでいる医療機関を評価する観点から、機能強化型の在宅療養支援診療所・病院の実績要件において、重症児に対する医学管理の実績が評価されるよう改められ、NICUに長期入院する乳幼児や医療介入度の高い小児の療育施設への転院や自宅への退院が推進されてきた。しかしながら、小児在宅医療に取り組む施設は現在でも地域によっては、ほとんど行われていないのが現状だという。

稲生会 理事長 生涯医療クリニックさっぽろ 理事長 土畠 智幸 氏
稲生会 理事長
生涯医療クリニックさっぽろ 院長
土畠 智幸 氏
 「手稲渓仁会病院の小児科医だった2006年に人工呼吸器などを必要とする子どもを中心に訪問診療を始めた頃は、10人以上の患者さんを抱えている施設は全国でも数カ所程度でした。近年、学会や研究会で重要性の認識が高まり取り組みが増えてきたとはいえ、まだまだ訪問診療に重点を置いた施設は十分ではありません」。稲生会理事長・生涯医療クリニックさっぽろ院長の土畠智幸氏は、小児在宅医療の現状をこう指摘する。

 2006年に手稲渓仁会病院小児NIV(非侵襲的換気療法)センターで訪問診療を始めた土畠氏が、小児に対する訪問看護、居宅介護事業を行っていたNPO法人レスパイトサービス「くまさんの手」と合流して2013年に組織したのが、医療法人 稲生会だ。
 在宅人工呼吸器の導入・訪問診療を行う「生涯医療クリニックさっぽろ」、訪問看護ステーション「くまさんの手」、居宅介護事業所「くまさんの手」、在宅医療を行っている障害児者の一時預かり所である短期入所事業所「どんぐりの森」で構成されている。

 「障害を持つ子どもが在宅で生活していくためには、訪問診療だけではなく、看護・介護やリハビリなどを通して、患者さんや家族の生活全般を支援する必要があります。そのためNPO法人だった『くまさんの手』と合併して総合的にケアサービスを提供しようと考えからです」(土畠氏)。

地域包括ケアの実現にコミットするワイズマン

 医療必要度の高い小児の在宅生活全般を支援していくためには、医師や看護師、理学・作業療法士、言語聴覚士、介護福祉士、保育士など様々な専門職によるチームケアが不可欠である。多職種による連携の必要性は高齢者在宅医療、地域包括ケアでもよく言われることだが、土畠氏は重要な点は多職種“連携”ではなく、多職種“協働”だと説く。

稲生会内にある医療型特定短期入所「どんぐりの森」では、重症心身障害児者を日中のみ一時的に預かる。
稲生会内にある医療型特定短期入所事業所「どんぐりの森」では、重症心身障害児者を日中のみ一時的に預かる。
 「日々、患者さん・ご家族と接していると役割分担を明確にできない事柄も多いし、各職種の役割に当てはまらない事象も出てきます。ある程度の役割は決めますが、同じチーム内で、その子どもに最もかかわっているスタッフや、対応しようとする事象の専門ではなくても最も関心を持っているスタッフが中心となってその子どもに対応することが適切なケアにつながります」(土畠氏)とし、「Knot Working」が重要だという。
 つまり、普段から場を共有する中で、必要なときに個々のスタッフが結び目(knot)を作りながら、連携ではなく協働するチーム体制が有効なのだと説明する。

 こうした訪問診療、多職種協働を支援し、バーチャルな場の共有をつくり上げるうえで求められたのが、ワイズマンの電子カルテシステム「電子カルテシステムER」と医療・介護連携サービス「MeLL+」だった。

 生涯医療クリニックさっぽろを開設時に、まず最初に導入を進めた電子カルテシステムに求められたのは、訪問診療先で患者情報を参照し、カルテ記載ができること。さらに、訪問看護、居宅介護、短期入所を含めた4つの事業を一体的にサービス提供するうえで、多職種協働を実現するための医療・介護連携ツールであることだった。「場を共有する点で、ICTツールは同じメーカー製品で統一した方が有効」だと考え、検討を重ねた結果、導入したのがワイズマンのソリューションだった。採用の大きな動機を土畠氏は、次のように話す。

 「ワイズマンは、2025年に向けた地域包括ケアシステムの実現に、明確にフォーカスしていることが伝わってきました。地域の様々な職種、事業者が提供している多様なケアにコミットして事業を行っている会社だと感じたことが、採用した大きな理由でした」。

 2013年11月のオープンに合わせて、電子カルテシステムERと診療・介護記録を共有できる医療・介護連携機能「MC net」がまず稼働し、多職種間のコミュニケーションを支援・強化するため2016年4月に新たにMeLL+が導入された。

タイムリーかつ容易に患者状況にアクセス

 MeLL+の特徴は、患者・利用者の基本情報やカルテ・ケア記録の共有に加え、メッセージ機能や掲示板・回覧板機能、会議室機能など、多職種間のコミュニケーションを支援する機能が充実していることだ。さらにクラウド環境で利用できるメリットがある。
 「毎朝、カンファレンスを開き、法人全体でミーティングを行うのが日課ですが、コミュニケーションをもっととりやすい環境が必要ではないかという意見があり、スマートフォンの利用で時間や場所に左右されることなく情報共有や意見交換ができるMeLL+に移行しました」(土畠氏)。

 訪問診療の際には、土畠氏ら医師は基本的にノートPCを携行し、電子カルテシステムERにWAN経由でアクセスしてカルテ参照・記載を行う。「以前の環境では、ちょっとした情報共有でもノートPCを立ち上げ、モバイルデータを使いVPN接続で電子カルテシステムER、MC netにアクセスする必要がありました。他スタッフとの共有情報を参照したり、伝達事項を入力したりする時などは、スマートフォンによるMeLL+利用で、非常に容易になりました」(土畠氏)という。

生涯医療クリニックさっぽろ 看護師 富樫 裕子 氏
生涯医療クリニックさっぽろ
看護師 富樫 裕子 氏
 訪問診療に同行するクリニックの看護師も同様に、手軽にカルテ情報にアクセスできるようになったメリットを挙げる。生涯医療クリニックさっぽろは担当医制を執っていないため、医師に同行するスタッフは訪問診療の都度、前回診療時の情報を事前に把握しておきたいというニーズがあった。「移動中であったり、急な往診依頼が入ったときなど、スマートフォンを使ってMeLL+でカルテ情報を容易に参照できるようになり、前回診療時の患者さんの状況をしっかり事前に把握して、スムーズな診察が行えるようになったメリットは大きいと感じています」(生涯医療クリニックさっぽろ看護師 富樫裕子氏)と説明する。

 また、頻回に患者宅を訪問する同一法人の訪問看護ステーションの看護師との情報共有も重要だ。しかし従来は電話で確認するか稲生会事務所内で直接情報収集するしか手立てはなかった。「MeLL+では情報がタイムリーに上がってくるので、私たちクリニックの看護師や医師も必要なときに参照できる環境になりました。特に診療中に訪問看護ステーションの看護師から電話で連絡事項があっても対応できないケースもありましたが、掲示板に情報がアップロードされていれば、空いた時間に見られる利点があります」(富樫氏)という。

職種を越えて相互に情報交換できる環境を実現

 一方、訪問看護ステーションの看護師は、訪問時のケア状況をMeLL+にアップするとともに、医師やクリニックの看護師に判断を仰いだり、患者の状態について相談したりといったことにMeLL+を日常的に活用している。

訪問看護ステーションくまさんの手 事業所管理者 松木 由理 氏
訪問看護ステーションくまさんの手
事業所管理者 松木 由理 氏
訪問看護ステーションくまさんの手 事業所管理者 松木 由理 氏
MeLL+のコメント機能。写真を添付することで、患者や利用者の状態や様子についてわかりやすく伝達できる。(画面はサンプルです)
 「訪問した際、患者さんに変化が認められ先生の判断を仰ぎたいときなど、掲示板を使っています。特に、皮膚の状態などで状況報告や指示がほしいとき、あるいは他の訪問看護師に変化を伝えるために、スマートフォンのカメラを利用して画像を添付しています。コメントでは表現しにくい状況も簡単、明確に伝達できる利点があります」(訪問看護ステーション くまさんの手 事業管理者の松木由理氏)とMeLL+の掲示板活用のメリットを説明する。

 こうした情報は、訪問看護師と医師やクリニックの看護師だけでなく、理学療法士や作業療法士、介護福祉士などとも共有しており、多職種協働の成果につながっているという。

居宅介護事業所くまさんの手 介護福祉士 太田 苑美 氏
居宅介護事業所くまさんの手
介護福祉士 太田 苑美 氏
 その介護福祉士も療法士や看護師からアドバイスをほしいとき、あるいは他の介護職員との情報共有においてMeLL+の掲示板機能は非常に役立つと話す。以前は、居宅介護事業所の職員は、事務所で各職種に会えたときに聞くしかなかったという。「例えば、患者さんの排せつが上手くいかなかったとき、その旨を掲示板にアップしておくと、看護師やセラピストからレスポンスがあり、次回の訪問介護でアドバイスに従って対処できたといったケースがありました」(居宅介護事業所 くまさんの手 介護福祉士 太田苑美氏)。

生涯医療クリニックさっぽろ 事務リーダー 川波 恵子 氏
生涯医療クリニックさっぽろ
事務リーダー 川波 恵子 氏
 多職種チームによる在宅ケアは、患者に関わる情報をメンバーが相互に共有するだけでなく、円滑な訪問活動をサポートするための事務スタッフによる情報収集・伝達も重要な業務だ。その1つに訪問スケジュール計画・管理がある。稲生会では、事務スタッフが月間スケジュールをExcelで作成・管理し、毎朝のミーティング後に1日のスケジュールを全職員にメール添付で配信してきた。
 「MeLL+導入前は、患者さんやご家族に他の予定が入ったことが、当初計画した予約日に反映されないこともありました。そうしたとき、一旦クリニックに持ち帰ってExcelのスケジュール表で確認をとって、患者さん家族と連絡を取り合う必要がありました。導入後は、朝の時点でスケジュールをMeLL+で共有しているので、予定変更調整を持ち帰ったりすることなく、その場で電話確認もできるなど効率的に予定確定ができるようになりました」(生涯医療クリニックさっぽろ事務リーダー 川波恵子氏)と説明する。

多職種協働の今までにない形を創出

毎朝の全スタッフそろってのカンファレンスでは、前日日中のカルテ掲示板と前日夜間に記載されたMeLL+の情報を大画面ディスプレイで供覧しながら確認し合う。
毎朝の全スタッフそろってのカンファレンスでは、前日日中のカルテ掲示板と前日夜間に記載されたMeLL+の情報を大画面ディスプレイで供覧しながら確認し合う。
 MeLL+を活用した多職種連携におけるコミュニケーションは、その多くがメッセージ機能や掲示板・回覧板機能により様々なメリットが生み出されるが、稲生会では各スタッフによる会議室機能の活用が予想以上の成果を得ているという。例えば、法人内には研修部、地域部、支援部、行事部、広報部などがあり、全スタッフが職種にかかわらず、いずれかの委員会に所属し、活動している。これらの各委員会がそれぞれMeLL+で会議室を立ち上げている。

生涯医療クリニックさっぽろ 事務長 高波 千代子 氏
生涯医療クリニックさっぽろ
事務長 高波 千代子 氏
 稲生会事務長の高波千代子氏は、こうした会議室における活動は、当初想像していたMeLL+の活用法以上に、それぞれスタッフ自らが考え出して利用しているとし、「様々な活動を通じて患者さん家族全体を支えていくような姿勢が全職員に浸透しつつあります。より良い地域社会をつくっていくという理念を実現しようという素養が生まれつつあると感じています」と話す。委員会の活動が活発化してきたことを要因に会議が増えてきた時期でもあったが、MeLL+の運用でスタッフが実際に集合する会議の時間短縮につながり、活動促進につながっている。

 稲生会が実践していこうという“多職種協働”の形態としての「Knot Working」。それによってもたらされる業務変革、組織変革として「サーバント・リーダーシップ」がある。「職制や職種の専門性にかかわらず、その都度一人ひとりが業務の中心的存在を担い、すべての職員がリーダーシップを発揮できる逆ピラミッド型の組織を目指してきました。MeLL+による“バーチャルな場の共有”は、患者さんを中心としたケアにおける情報共有、活動を支えるコミュニケーション活性化など、多職種協働が今までにない形で進展し、組織変革にも一役買っていると感じています」(土畠氏)と、MeLL+運用の成果を強調する。

病院概要

医療法人 稲生会
生涯医療クリニックさっぽろ
■医療法人 稲生会
所在地
札幌市手稲区前田1条12丁目357番地22
事業概要
生涯医療クリニックさっぽろ(在宅療養支援診療所・無床)、訪問看護ステーション くまさんの手(訪問看護)、居宅介護事業所 くまさんの手(居宅介護、移動支援)、医療型短期入所事業所 どんぐりの森(日中のみ短期入所)

■お問い合わせ■

株式会社ワイズマン

〒020-0045
岩手県盛岡市盛岡駅西通2丁目11番1号

TEL:019-604-0750
FAX:019-604-0770
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