インクジェットプリンターの経済性を検証 出力機器の見直しは、経営改善と業務効率化に繋がるか?

大学病院の臨床医が起業した医療機器開発のスタートアップである「株式会社リモハブ」。代表取締役CEOの谷口達典氏は、スタートアップ経営でコスト削減の重要性を強く意識したという。「質と生産性を落とさずコスト削減」するために着目したのが、プリンター運用におけるコスト削減であった。「出力機器の見直しは、経営改善と業務効率化に繋がるか?」と題した、国際モダンホスピタルショウ2018の出展者プレゼンテーションセミナーの講演内容をレポートする。
大阪大学医学部附属病院 循環器内科 医師 株式会社リモハブ 代表取締役 CEO 谷口 達典 氏
Remohab

 大阪大学医学部附属病院 循環器内科の医師でもある谷口達典氏がスタートアップ企業を起業するきっかけとなったのは、ジャパンバイオデザインプログラムに参画したことだった。

 2001年米国スタンフォード大学で始まったバイオデザインとは、デザイン思考をもとにした医療機器イノベーションを牽引する人材育成プログラムである。医療現場のニーズを出発点として問題の解決策を開発し、開発の初期段階から事業化の視点も検証しながらイノベーションを実現するアプローチを特徴としている。

 日本の医療機器市場は8,000億円の貿易赤字であり、ペースメーカーやステントなどのほとんどが海外製品だ。「日本の医療は世界トップレベル、モノづくりの技術力も世界トップレベルでありながら、国産の良い医療機器開発が実現できないのは、シーズベースの開発になり、真のニーズを見失ってしまうからだ」と谷口氏は語る。

 こうした日本の医療機器開発の状況を打開すべく、大阪大学、東京大学、東北大学の3大学とスタンフォード大学がプログラムディベロップメントパートナーシップを締結し、「課題解決型のイノベーション」プログラムとしてジャパン・バイオデザインを開始させた。2015年にスタートした同プログラムの第1期フェロー大阪大学チームに参加したのが谷口氏である。

医療機器開発スタートアップを起業

 ジャパン・バイオデザインプログラムで、循環器内科と心臓血管外科領域の現場ニーズを探る研修の中で谷口氏が着目したのは、心臓リハビリテーションに対するニーズであった。

 心疾患は日本国民の死亡原因の第2位であり、その中で最も多いのが心不全である。心不全患者は全国で120万人以上とされ、その多くが高齢者だ。「心不全の一番の問題は、最憎悪(再入院)率が高く、その度に心機能が低下し、死亡に至ること。再憎悪を防ぐ治療の1つに心臓リハビリがある」と谷口氏は説明する。

 心臓リハビリでは、通院して医療従事者の指導の下、30分以上の有酸素運動を週3回以上行うことが望ましいという。この運動療法とともに、患者教育、生活指導、カウンセリングなどの活動プログラムを実施して、患者が低下した体力を回復し、快適で質の良い生活を維持することを目指す取り組みがある。しかし「心臓リハビリの実施によって再入院率は39%に低下することが分かっている。ただし、外来心臓リハビリ参加率は、必要とされる患者の10%に満たない」という。

 その1割未満の参加に留まる理由について谷口氏は、「週3回の通院が患者や家族の負担になっている」からだと説明する。そのニーズ・課題を解決するために谷口氏は、医療機関と患者宅をクラウド(インターネット)でつなぎ、リアルタイムに遠隔で心臓リハビリを提供する「遠隔管理心臓リハリビリテーションシステム」を開発しようと考えた。そのために起業したスタートアップ企業が、株式会社リモハブ(Remohab)である。開発コンセプトは「在宅に心臓リハ室を—」だ。

 リモハブが研究開発を進める遠隔心臓リハビリシステムは、総務省の平成29年度情報通信技術の研究開発に関する公募「IoT/BD/AI情報通信プラットフォーム」社会実装推進事業に採択され、助成を受けた。また2018年7月、同社は大阪大学ベンチャーキャピタルとHack Venturesから総額6000万円の資金調達を受け、同システムの事業化を加速する。谷口氏は「医師は市中病院の臨床医か開業医、あるいは大学などで研究者となるが、これらに加えアントレプレナーとなる医師像をつくっていきたい」としている。

スタートアップは適切なコスト削減が重要

 スタートアップ企業を起業して谷口氏が強く感じたのは、コスト意識の重要性だったという。「臨床医として勤務しているときは、コスト削減はまったく意識しなかった」という谷口氏。医療機器のスタートアップ企業は、研究開発から製品化し、「医薬品医療機器等法」(薬機法)の承認を得て市場投入するまで売上が立たない。

 一般的なスタートアップ企業の支出内訳は人件費が約40%を占め、次いで光熱費・通信機器費(20%)、事務所家賃(15%)、消耗品費(10%)、宣伝広告費(5%)と続く(表1)。「人件費や家賃、宣伝広告費などを削減すると、質や生産性が落ちてしまう。質と生産性を落とさずにコスト削減することが非常に重要になる」と谷口氏は強調する。そのコスト削減の1つとして谷口氏が着目したのが、プリンターに関わる備品・消耗品費であったという。

スタートアップ企業に求められる「事業の質を落とさないコスト削減」

 起業当初、使い慣れたレーザープリンターを導入しようと考えていた谷口氏だが、インクジェットプリンターという選択肢があることを知り、谷口氏と同じくジャパンバイオデザインプログラム1期生として参加していたエプソン販売株式会社ビジネス営業企画部(ヘルスケアM・G)の石原健也氏に相談をしたという。

 本セミナーに登壇した石原氏は、インクジェットプリンターのコスト優位性について次のように説明した。「ランニングコストは、レーザープリンターの約半分になる。エプソングループでも数年前に社内のプリンターを一斉にインクジェット方式に切り替えたところ、年間1億2000万円のコストを削減することが出来た。インクジェットプリンターの優位性は非常に大きい」。

 実際に、エプソンのインクジェットプリンターは医療施設への導入数が年々増加しているという。セミナーでは、大阪府の病院でインクジェットプリンター導入により、1台あたり10万円のコスト削減が実現できたことで、その後20台が追加導入された事例が紹介された。

 次に紹介されたのが、消耗品交換の頻度についてであるが、これについてはコスト以上のメリットがあると谷口氏は語る。前述した病院に導入されたプリンターは、75000枚が印刷可能な大容量インクを搭載しているため、年間の消耗品交換が40回から2回と大幅に減少した。こうしたメリットは、他の病院のみならず同氏が籍を置く大阪大学病院でも大きな価値に繋がるのではないかと考えるようになったと谷口氏は語る。

 そこで、あらためて大阪大学医学部附属病院の医療情報部担当者に対してプリンターに関するニーズを調査したところ、「印刷待ちがストレス」「トナー交換頻度が多い」「災害時における消費電力の抑制」といったことが明らかになったという。

 谷口氏は、レーザープリンターと比較したインクジェットプリンターの優位性が、リモハブとその他施設で証明されていることを受けて、こうした現場ニーズを中規模〜大規模病院でも満たすことができると期待する。今後「エプソン販売の協力を得ながら大阪大学医学部附属病院(循環器内科病棟)において検証作業を進めていく(表2)」と谷口氏は語る。そして、経営難の病院が増える日本の医療市場が抱える様々な課題に対して「インクジェットプリンターで様々な課題が解決できると思う」と期待を込めてセミナーは終了した。

 セミナー終了後、エプソン販売株式会社ビジネス営業企画部(業種マーケティング)課長の橋本大樹氏に、同社のヘルスケア市場における今後について話を伺った。

「おかげさまで、エプソンのインクジェットプリンタ―を導入していただいた病院様からはコストが下がった、業務の効率化につながったなどのお言葉を多数いただいております。病院様が抱える様々な課題と真摯に向き合い、今後もエプソンのインクジェットプリンターだからこそできる解決策をご提案していきたいと考えております。」と展望した。

 本セミナーを通して、プリンターの見直しが施設全体のコスト削減や業務効率化に繋がることを認識できた。谷口氏が取り組む大阪大学医学部附属病院(循環器内科病棟)の検証がどのような結果になるのか、今後も注目していきたい。

現場ニーズに対するインクジェットプリンターのベネフィットを大阪大学医学部附属病院(循環器内科病棟)で検証中
国際モダンホスピタルショウ2018にエプソンが出展 大阪大学医学部附属病院(循環器内科病棟)で実証実験中のビジネスインクジェットLモデルをはじめ、医療現場の課題に応える多彩な機器やソリューションを展示。多くの来場者を迎えた。
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