インクジェットプリンター、大規模病院の医療現場での選択肢になり得るか

大学病院情報マネジメント部門連絡会議ランチョンセミナー

大学病院における医療情報に関わるさまざまな課題を研究討議することを目的として、毎年1回開催される「大学病院情報マネジメント部門連絡会議」。2018年度の同連絡会議は2019年1月30日~2月1日に、熊本市内のホテルで開催され、全国の大学病院および大学関連の医療機関の職員の多数が参加した。当日は多くのセミナーが開催され、本稿では「インクジェットで実現する、病院の経営改善と業務効率化」をレビューする。同セミナーでは、鹿児島大学病院 医療情報部 部長の宇都由美子氏が登壇。また併せて大阪大学医学部附属病院の実証実験についての結果が報告され、インクジェットプリンターが、医療現場のプリント出力に関わる課題解決と病院の経営改善に寄与する可能性を示した。

システムの円滑運用、「現場でできるようにすること」

宇都 由美子 氏 鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 准教授 鹿児島大学病院 医療情報部 部長(兼)特任副病院長

 大学病院など基幹病院では院外処方せんや予約票、同意書、説明書など患者に提供する数多くの文書が日々大量に印刷される。そのため印刷コストをはじめとするプリンターに関わるランニングコストの削減は大きな課題である。また、外来診療部門では1日1000人、2000人という外来患者に対して、いかに待たせず、効率的な診療業務を行えるか課題であり、その場で患者に渡す院外処方せんや次回予約票の印刷待ちは患者、医師方のストレスにもなる。

 こうした大学病院における医療現場の課題解決に向け、インクジェットプリンターを先駆的に導入・運用してきたのが、鹿児島大学病院である。同病院では、2012年の病院情報システムのレベルアップに機に、それまで運用してきたカラーレーザープリンターからカラーインクジェットプリンターに置き換えた。

 背景には、紙詰まりへの対応やトナー交換が発生するたびに医療情報部のスタッフが現場に出向き、メンテナンス作業を行う必要があったことだという。「システム管理担当は数名であるにもかかわらず、病院内にある2600台以上の医療情報機器を管理しなければならない」(宇都氏)とし、システム管理部門スタッフの業務負担軽減を指摘する。また、カラー印刷ニーズに対する機能として提供しているにもかかわらず、手狭なナースステーションにはA4印刷モデルしか導入できず、A3印刷が必要な病棟看護師には不満があった。

 そこでシステムレベルアップに際して、各社のインクジェットプリンターを一堂に集めた展示会を設け、実際に現場スタッフの投票によって採用を決定した。そこで採用されたのが、エプソンのA3ノビ対応カラーインクジェットプリンターだった。その後、2018年のシステムレベルアップでもカラーインクジェットプリンターを継続採用し、現在はエプソンのPX-S5080を57台運用している。

 導入のポイントは、(1)コンパクトながらA3カラー両面印刷が可能、(2)前面から用紙およびインク交換が可能なメンテナンス性、(3)大容量インクで交換の手間とコスト削減、(4)安価な本体価格、の4点だと述べる。「インク交換や用紙のセット方法などが簡単であるため、ほぼ現場スタッフでメンテナンスでき、現場スタッフとシステム担当双方の負担軽減につながった。特に大容量インクにより、インク交換頻度が少なくて済み、現場スタッフの手間が軽減した。一方、ファーストプリントが速いため、業務効率化にも寄与している」(宇都氏)と導入メリットを指摘した。

現場の業務効率と経営改善に寄与

 導入したインクジェットプリンターは、外来診療部門、ナースステーション、その他の各部門で使用されているが、特にナースステーションでは主にクリニカルパスの患者説明などにカラー印刷したものを提示している。A3カラー印刷モデルが利用できるようになり、クリニカルパスの細かな内容もカラーで大きく印刷できるようになった。また、薬剤部では薬剤情報提供書を印刷するため病院内で最も印刷量が多いが、大容量インクカートリッジの利用により、交換頻度を少なくでき、特別な機種を用意しなくても済んだという。

 インクを大容量化することでメンテナンス効率を上げることに加え、宇都氏は圧倒的なコスト削減が可能な点も強調した。「レーザープリンターに比べて定期交換部品が少なく、インクの大容量化、1枚当たりの印刷コスト低減などでトータルのランニングコストを削減できた」(宇都氏)とし、システム運用に関わるランニングコスト削減が病院経営にも寄与していることを強調した。

鹿児島大学病院のインクジェットプリンター採用動機と利用メリット

大阪大学医学部附属病院での運用検証

 続いて、大阪大学医学部附属病院の循環器内科外来でインクジェットプリンターが現場のニーズに応えられるかの実証実験について、検証結果が発表された。

 同病院は、1869年に開設され、現在では病床数が1000を超える国内最大規模の国立大学病院。臓器移植法施行後、国内初の脳死心臓移植(1999年)、国内初の心肺同時移植(2009年)が行われた病院でもある。2015年には厚労省より国内の中核病院として「臨床研究中核病院」に認定されるなど、国内外をけん引している医療機関である。

 同病院での検証の狙いは、どの病院でも抱えるようなプリンターに関わる課題を、インクジェットプリンターでどこまで解決できるのか外来診察室で検証することである。ポイントは、(1)診察後に処方せんがなかなか出力されないといった、印刷待ちのストレス、(2)トナーの交換頻度に伴う消耗品交換の手間、(3)消耗品に関わるランニングコスト、についてである。検証は、2018年9月10日~10月12日の5週間にわたって循環器内科外来の1~3診室で実施し、循環器内科外来医師へのアンケート調査と、医療情報部による2つのシミュレーション結果で行われた。

95%の医師がファーストプリントの速さを実感

 アンケート結果は、インクジェットプリンターに対してポジティブな意見が多く、レーザープリンターと比較して、使い勝手が劣らないことが確認できた。発表された各アンケート結果を見てみよう。

 まず、印刷スピードについては、従来のレーザープリンターと比べてA4帳票の印刷は、「とても速く感じた」「速く感じた」という回答が95%に達し、ほとんどの医師が速さを実感した。また、インクジェットプリンターを使用したことで、全体の診療時間に及ぼす影響については、「とても短縮した(15分以上)」「短縮した(15分以内)」が73%を占め、4分の3の医師が診療時間の短縮を実感したという。印刷の動作音に関しては、「とても静か」(4%)、「静か」(27%)、「変化なし(意識なかった)」(64%)という結果で、「レーザープリンターと比べて動作音が大きいのではという先入観があったが、レーザーに劣るものでないという評価だった」とした。また、インクジェットプリンターが医療現場に適しているかという総括的なアンケートでは、「非常に適している」(14%)、「適している」(68%)という結果で、8割を超える医師が医療現場に適していると回答した。

 実際の各医師のコメントを紹介すると、「とても速くてストレスは圧倒的に少ない。インクジェットのイメージはかなり変わった」、「既設のレーザープリンターと並列で使用したから、速度を中心とした快適さがハッキリと分かった」、「できれば別の診察室にも置いて欲しいし、この部屋はそのまま(インクジェットプリンターに)切り替えてもらいたい」という好評価が多い。「壊れにくさとか、長期間使用した際にどうかなどの“耐久性”という点が気になる」という声もあったが、「多くはポジティブな意見が多かった」という。

 業務効率化と経営改善という視点では、消耗品の交換回数とコスト削減という点で評価を試みた。年間のトナー購入本数を交換回数として試算すると、A4モノクロプリンターの場合、レーザープリンターが年間552回であるのに対し、インクジェットプリンターのインクカートリッジ交換回数は同75回となり、年間で86%程度の交換作業削減ができると想定した。

6年間で4500万円を超えるコスト削減

 コストメリットについては医療情報部での試算が発表された。同病院には約700台のレーザープリンターが稼働中で、現在の年間消耗品金額はA3モノクロ、A4モノクロ、A4カラーを合わせ約1700万円(プリンタートナー実購入コストは定価の65%で購入と仮定して試算)。全プリンターをインクジェットプリンターに置き換えた場合、年間で約775万円となり、「システム更新期間の6年間では約4650万円のコスト削減が可能という試算結果だった」

 検証結果を受けて医療情報部では、アンケート結果については「レーザープリンターと比較して、使い勝手が劣らないことが確認できたことは大きな成果」とし、コスト削減効果については「レーザープリンターと比較して大きなコストメリットがある。限られた電子カルテ予算で機能拡張が求められる中、ランニングコストで削減できた分を電子カルテ開発予算に使うことができる」との見解を示したという。

 検証結果から、「限られた時間での患者対応が求められる外来診療では、プリンターの少しの印刷スピードの向上が、診療ストレスの改善などにつながるだろう。また、インクジェットプリンターの導入で、消耗品コストなどランニングコスト削減が期待できる」とし、インクジェットプリンターが医療現場での選択肢に十分なり得ることが示唆されたという内容で発表を終えた。

大阪大学医学部附属病院 循環器内科外来での検証結果
Confidenntial Ⓒ 2019大阪大学大学院医学系研究科 バイオデザイン学共同研究講座
ページTOPへ
掲載製品に関するお問い合わせは下記まで
エプソン販売 株式会社
〒160-8801 東京都新宿区新宿4-1-6 JR新宿ミライナタワー29F
ビジネス営業企画部(ヘルスケアM・G)
eSIPS@exc.ehb.epson.co.jp