特別座談会レビュー「へき地医療が抱える問題点と今後の取組み」

テクノロジーが変えていく「へき地医療」の未来

-オンライン診療の実現でへき地の課題を解決し、安心の医療を提供する-

若い世代(45歳未満)の医師が東京・大阪等の都市部に集中することにより、地方では医師の高齢化や人材不足が課題となっている。高齢化率が30%を超え、全国よりも約10年進んでいると言われる山口県では、へき地における高齢化と医師不足が深刻な社会問題となりつつある。こうした背景を踏まえ、去る2018年11月30日、山口県立総合医療センターにおいて、県内でへき地医療に取り組む医師、各自治体の担当者、ICTにより医療を支援する企業による特別座談会が開かれた。90分を超える議論の中で、三者それぞれの立場から、へき地医療が抱える問題点と解決の方向性について有益な意見が交わされた。

「へき地医療が抱える問題点と今後の取組み」座談会参加者

  • 山口県立総合医療センター
    へき地医療支援部/へき地医療支援センター 診療部長
    原田昌範氏
  • 山口県立総合医療センター
    へき地医療支援部/へき地医療支援センター 部長
    宮野馨氏
  • 岩国市 健康福祉部 地域医療課 地域医療班
    藤堂修氏
  • 光市 健康増進課
    林加代子氏
  • 柳井市 健康福祉部 健康増進課
    佐伯賢紀氏
  • きりんカルテシステム株式会社 代表取締役
    山口太一氏
  • 日本マイクロソフト株式会社
    医療・製薬営業統括本部 事業開発担当 担当部長
    清水教弘氏
ファシリテータ
TXP Medical株式会社 代表取締役社長(医師)・日立総合病院救急集中治療科
園生智弘氏

■県土の6割がへき地、「医師の確保」から「医療の確保」への転換を

山口県立総合医療センター
へき地医療支援部/へき地医療支援センター
診療部長 原田昌範氏
園生
まず、へき地医療の現状と課題について、原田さんからお聞かせください。
原田
山口県では県土の約6割が法律(過疎地域自立促進特別措置法、離島振興法、山村振興法)で指定された地域、いわゆる「へき地」に当たり、約20万人の方が暮らしています。21の有人離島を含む、へき地の医療機関において、常勤医師が病気や体力の限界等を理由に撤退するケースが増えており、非常勤体制になっているのが現状です。一方、都市部への医師の集中から45歳未満の若い医師が県内で減っていることに加え、過疎化が進む地域に定着しづらいため、常任医師の確保が課題となっています。そうした背景から、医師を配置することで守ってきたへき地医療を、医師の確保ではなく、医療を確保し面で守ることをスローガンとして、取り組みを進めています。
山口県立総合医療センター
へき地医療支援部/へき地医療支援センター
部長 宮野馨氏
園生
若い世代の医師が地域に定着しない問題は、日本のへき地全体が抱える課題かと思います。宮野さん、いかがですか。
宮野
実際にへき地の診療所で働いてきた経験から話しますと、経験年数が浅いうちに、相談できるベテランの医師がいない診療所に一人で赴任するのは不安があるでしょう。大きい病院であればチームで対応することが可能ですし、困ったことがあれば指導医に相談することができますので。若い医師がすべて責任を負って判断しなければならない状況は、やりがいがある一方、精神的な疲労につながります。
山口県においては県土の約6割がへき地となっており、充実したへき地医療の体制づくりが不可欠だ。

■「月に2日しか医師がいない」離島のへき地医療における深刻な現状

岩国市
健康福祉部 地域医療課
地域医療班 藤堂修氏
園生
ここで自治体の皆様に離島等のへき地における医療の実情をお聞きしたいのですが。
藤堂
岩国市の柱島には、へき地医療拠点病院に指定されている岩国医療センターの医師が診療に来ています。以前は週に1日のペースでしたが、医師不足の問題から現在は月に2日というのが現状です。柱島の近くに端島と黒島という離島もありまして、柱島診療所から黒島と端島に、月の第一診療日に黒島に、月の第二診療日に端島に出張診療を行っていますが、両島の住民の中には診療所まで行くことが難しい患者さんもおり、診療を逃すと薬の処方がしてもらえなくなる問題も出てきています。
光市 健康増進課
林加代子氏
光市の牛島の診療所においても、担当医師が不在となってから以前は週4回あった診療が週1回に減っている状況です。島で暮らす40名弱の市民に対する医療の確保という面では、新たな医師の誘致よりも、週1回の診療を存続させることが命題と感じています。実際に島民からは「何よりも医療の確保をしてほしい」といった声が多いのです。
園生
医師不足に対して、ICTを活用したオンライン診療は一つの解決策になると思いますが、いかがでしょうか。
藤堂
実際に島で暮らす市民や患者さんと話すと「先生と会話をしたい」「色々なことを聞きたい」という声は多いです。対面式の診療が必須なのか、PCやスマートフォンのモニター越しでも問題はないのかは、今後実証していく必要があると思います。
光市の離島には、光市立光総合病院から医師が来ていますが、患者さんのことを真剣に考えてくださる方ばかりですので、非常に良好な関係が築けています。オンライン診療を導入するにしても、事前に十分な説明を実施すればうまくいくのではと期待しています。
TXP Medical株式会社 代表取締役社長(医師)
日立総合病院救急集中治療科
園生智弘氏
園生
医師と患者さんの間に信頼がある地域では、オンライン診療の抵抗感はあまりないと感じます。実際、私が過去にポート株式会社にて手がけたオンライン診療の実証実験では、「先生の顔が見られないと不安」という意見は出ましたが、「テレビ電話だから不安」という意見は少数派で、むしろ「先生がいつものように話してくれるので安心」という意見が多かったのです。
原田
2015年から山口大学と共同で一部地域にクラウド型電子カルテを試験導入していますが、へき地医療に対して、オンライン診療とクラウド型電子カルテの組み合わせが有効だと考えています。例えば、へき地の診療所の若い医師が判断に迷う症例等も、クラウド型電子カルテで同じ症例を共有しながら遠隔カンファレンスをする仕組みを整えていくことで、医師不足から生まれる諸問題の解決につながるのではないでしょうか。
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