特別座談会レビュー「へき地医療が抱える問題点と今後の取組み」

テクノロジーが変えていく「へき地医療」の未来

-オンライン診療の実現でへき地の課題を解決し、安心の医療を提供する-

■へき地の診療所が導入できる高機能で安価な電子カルテを

柳井市
健康福祉部 健康増進課
佐伯賢紀氏
園生
柳井市では山口大学の研究事業でクラウド型電子カルテを運用されていますが、評価はいかがですか。
佐伯
人口320人強の平郡島は、細長い地形から集落が東西に分かれており、東西間は自動車で25分ほどの距離があります。現在、東地区に医師が常駐していますが、西地区で急患が出て東地区に運ばれてきた場合等に、電子カルテの活用で患者さんの病状等を確認しながら診療が行えるようになってきています。また、2016年の大雨災害で、東西の地区を結ぶ唯一の道路が土砂崩れで寸断された際には、電子カルテが非常に役に立ったと聞いています。今後解決していきたい点としては、通信環境が良くない診療所もあるため、電子カルテデータの共有に時間がかかることですね。
園生
へき地の診療所全体にオンライン診療やクラウド型電子カルテを導入するにはどのような壁がありますか。
原田
まず「導入コスト」と「セキュリティ」です。へき地では患者数が少ないため、導入に対する費用対効果がネックになります。現状は、山口大学の研究事業として無料で運用できていますが、コマーシャルベースになった時にどうなるかが課題です。セキュリティに関しては、医療情報をクラウドで扱う条件を定めた国のガイドラインがあり、知識や経験が不足している中でどのレベルまで高める必要があるのか判断しにくい。そうした課題に加えて、法的に医療行為として可能なのか、診療報酬をどうすべきかといったオペレーション側の問題もあると思います。
園生
我々としては「導入コスト」、「セキュリティ」の問題を解決してオンライン診療のシステム側の体制を最初に整えつつ、「法的な問題」、「診療報酬」に関してはへき地医療での実際の状況に合わせて個別の対応方法を考えていくのが本筋になると思います。まずコストという面ではオンプレ型の電子カルテは数百万円するものも多く、非常に高価ですね。人口の少ない地域の診療所で電子カルテに追加投資をするのは難しい現実がある中で、無料でクラウド型電子カルテを提供するきりんカルテシステムの「カルテ ZERO」は画期的なサービスではないでしょうか。
きりんカルテシステム株式会社
代表取締役 山口太一氏
山口
弊社の「クラウド型電子カルテを無料で提供する」というビジネスモデルは「カルテや検査の情報を一つの診療所だけでなくて、紹介された先の病院等でも利用できないか」という問いがきっかけで、患者さんと診療所の先生方、両方に貢献できるようにという思いから生まれたものです。無料で使えるサービスであるからこそ、医療連携をするための仕組みを作りやすいという引き合いが多く、最近では地方の医師会や自治体と共に医療連携ネットワーク構築の取り組みを進めています。また、オンライン診療の実現という点でも、「カルテ ZERO」は、電子カルテ画面から遠隔地の診療所や患者様ご本人を呼び出し、患者さんの顔を見て声を聴きながら診療を行える、オンライン診療サービス連携機能があります。この機能も診療所側は無料で使えます。患者さん側は、普通の PC やスマートフォンがあれば大丈夫なので、へき地医療におけるオンライン診療実現の現実的なアプローチになるでしょう。
きりんカルテシステムのクラウド型電子カルテ「カルテ ZERO」には、オンライン診療の連携機能が実装された。

■法令に準拠したクラウドサービスが医療のプラットフォームに

園生
きりんカルテシステムは、日本マイクロソフトのクラウドサービス「 Microsoft Azure 」を採用していますが、医療情報を扱うセキュリティという面では、ガイドラインに準拠したシステムである保証責任を個々の自治体や医療機関が負うのはハードルが高いと感じます。この点について、クラウドサービスを提供する立場として、日本マイクロソフトの清水さんにお聞きしたいのですが。
日本マイクロソフト株式会社
医療・製薬営業統括本部 事業開発担当
担当部長 清水教弘氏
清水
かつての3省4ガイドラインが、現在3省3ガイドラインになり、2019年には3省2ガイドラインとなるように、ガイドラインは日々変わっていくものです。例えば、現状のガイドラインではクラウド上の患者情報を消す場合、サーバー含めた端末から単純に消すだけでは不十分です。弊社のクラウドは情報を記録しているサーバーを物理的に壊してデータ消去を行う等、一事業者が取り組むには費用対効果として成り立たない面も多々あります。クラウドのプラットフォームを提供する企業としてそうした課題をフォローし、皆様に安心してご利用いただける環境を整備していくことが我々のミッションです。また、弊社のクラウドサービスでは、明確に情報の所有者はお客様であり、弊社への個人情報の第三者提供には当たらない旨、明確に定めており、弊社がデータを閲覧、活用することはありません。マイクロソフトのクラウドサービス「 Microsoft Azure 」は、常に最新のガイドラインに準拠したセキュリティを担保していますので、クラウド型電子カルテなどの医療情報を扱うシステムも問題なく構築していただけます。
園生
災害対策という面でも、電子カルテ等の重要なデータは診療所の PC に置いておくよりも、クラウド上に保管してどこからでもアクセスできる状況にしておくべきだと思います。データ保全という観点からも、堅牢なデータセンターを完備しているクラウドサービスを選ぶことは必須条件と言えそうです。予算が限られる状況だと、へき地医療での ICT 活用は不可能だと諦めてきた自治体が全国には多数あるのではないでしょうか。今後も引き続き、山口県におけるオンライン診療とクラウド型電子カルテの環境を整えていけるよう、原田さんに主導してもらいながら、日本マイクロソフトさん、きりんカルテシステムさんと共に新しいモデルを示していきたいと思います。
原田
へき地の診療所と中核病院がセキュアなクラウド環境でつながり、電子カルテで症例情報の共有やオンライン診療をよりスムーズに行えるようにすることで、誰もが安心できる医療体制を整えていくことが当面の目標ですね。
藤堂
現在は研究事業で電子カルテを無料で使えている診療所もありますが、今後は有償になる可能性もあると聞いています。本日の座談会で、セキュリティの面で安心できる Azure を使っていて、保守費用が掛からないきりんカルテシステムさんのクラウド型電子カルテなら、インターネット回線使用料と初期の機器費用だけで利用可能だと知ることができたのは大変参考になりました。
山口
カルテメーカーとしては、まだ紙のカルテが多数を占める地域医療において、まずは電子カルテを使える環境を整えていくことに貢献していきたいです。診療の形を変えていくためにも、例えば、紙のカルテに書いたものがそのままデジタル化できるようなツールを取り入れることで、電子カルテ導入のハードルをさらに下げていくことにチャンレンジしていきます。
へき地医療においては、電子カルテやクラウドなどのテクノロジーの積極活用が必要と話す原田氏。

■医療情報のクラウド化と AI が変えていく「へき地医療」の未来

園生
今後、テクノロジーの活用で新しいサービスモデルが生まれる可能性についてお聞きしたいのですが。
清水
どれだけ医療がデジタル化されても、対面診療でなければできないことがあると考えています。人と人のコミュニケーションが欠かせない診療や、救急を要する医療に関しては対面で行う必要がある一方、例えば AI を活用した一次スクリーニング等のシーンでは我々がご支援できる世界があると思っています。画像解析のような AI が得意とする分野では、人の目よりも誤認率が低いというデータもあります。「一次スクリーニングは AI で行い、医師が患者さんの診療に向ける時間を増やしていきたい」という相談を医療機関からいただくことも最近は多いですね。
宮野
一次スクリーニングに関しては、「誰かがやってくれたら助かる」という声は臓器別専門医の先生方からよく耳にします。ビッグデータや AI を活用して、スクリーニング作業を簡略化して医師はそのチェックのみで良いという部分が増えれば非常に効率的だと思います。へき地医療という観点では、例えば地域ごとの患者さんの主訴をデータベース化することで、それぞれどのような疾患が推測されるかということに活用できれば、若い医師の診療支援につながるでしょう。
原田
へき地では、対応すべき疾患群は幅広いが、似通った傾向を示すことを実感しています。ひとつのへき地診療所だけでは絶対数は少ないですが、ネットワークを組み、医療データを経年で集積すれば、へき地医療の質を高めていけると思います。田舎でも見覚えのあるコンビニエンスストアがあると安心するのは、その地域のニーズと大量のデータから必要と分析された品物が提供されていることが予測できるからだと思います。同様にへき地ごとの医療ニーズを把握しながら、誰もが医療データベースに基づいた診療が受けられるようになれば、患者さんが安心できる「面の医療」の実現につながっていくと思います。
園生
テクノロジーの効果的な活用も含め、へき地医療の課題は医療機関だけで解決できるものではなく、産官学連携で進めていくべきと考えます。無料で利用できる「カルテ ZERO」なども鍵となる要素の一つでしょう。また、そうしたソリューションのクラウド・プラットフォームとしての Azure の安全性や、AI によって地域の医療データを「面」で捉えて分析していく試みにも期待をしています。本日は、へき地医療の現状と課題解決の方向性、そこでのテクノロジーの貢献について、貴重なご意見をいただけました。ありがとうございました。
座談会では、それぞれの立場から建設的な意見が述べられ、今後のへき地医療のあるべき姿についての具体的な方向性が示された。
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● 関連リンク

山口県立総合医療センター へき地医療支援部(へき地医療支援センター)
https://www.ymghp.jp/診療科案内/診療関係部門/へき地医療支援部(へき地医療支援センター)/特色/
きりんカルテシステムの「カルテ ZERO」
https://xirapha.jp/
きりんカルテシステム 山口太一氏インタビュー「完全無料の電子カルテで日本の医療を変えていく」
https://special.nikkeibp.co.jp/atcl/NBO/17/ms1115/
TXP Medical 株式会社
https://txpmedical.jp/
マイクロソフトにおける医療機関向けの取り組みはこちら
https://www.microsoft.com/ja-jp/business/publicsector/solution/search.aspx?pgt=medical