住宅、物流、ホテルが堅調
インフレへの耐性は未知数
ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員
佐久間 誠 氏
「コロナ禍がもたらした最大の変化は、働き方です」と、ニッセイ基礎研究所の佐久間誠氏は言う。
ニッセイ基礎研究所
金融研究部 主任研究員
佐久間 誠 氏
コロナ禍から脱却し始めた2023年の国内不動産市場を俯瞰(ふかん)した。コロナ禍においても底堅く推移した「住宅」と「物流」の不動産需要は好調を続けている。インバウンドが復活し、「ホテル」も上がってきた。しかし、「商業」と「オフィス」の回復はやや遅れている。
コロナ禍以前は1.5%程度だった東京都心5区のオフィス空室率は、21年10月に6.5%まで上昇した。しかし、昨年から再び下がり始めている。「オフィスの調整局面は、いったん終了したと見ています」と評価した。
不動産市場に影響を与える懸念が、もう1つある。日本銀行によるマイナス金利の解除だ。
「前例のない大規模金融緩和からの脱却が、不動産市場にどう影響するかは未知数です」と述べた。
金利の上昇を嫌気し、J-REIT(不動産投資信託)の価格が下がり始めている。しかし、その影響はまだ現物不動産には表れていない。市場の不透明感が高まる中、「不動産市場は大きな構造変化を迎える可能性がある」と見る。
今後は物価、賃金、金利のすべてが上がっていく。不動産市場がどこまでインフレへの耐性を備えているかは不明だ。
「条件が多様化し、同じ首都圏でも地域によって動きが全く異なります。マクロな情報だけでなく、地域ごとのより詳細なデータに基づく分析と意思決定の重要性が増しています」と語った。
不動産業界のDXが本格化
大きな競争力につなげる
野村不動産ソリューションズ株式会社
常務執行役員
林 陽平 氏
野村不動産ソリューションズの林陽平氏も、市場は回復基調にあると見る。
野村不動産ソリューションズ株式会社
常務執行役員
林 陽平 氏
2024年1~3月の商業用不動産投資額は昨年同期比で7%増えた。物流需要では大型取引が増え、昨年同期比113%増の1兆4390億円。J-REITの取引が増えたオフィス投資額は、同15%増の7420億円。住宅だけはポートフォリオ取引が減り、31%減の1310億円にとどまった。
同社は、2015年から不動産仲介業におけるDXを加速している。組織横断のDX検討プロジェクト「デジタル戦略デザインラボ活動」がそれだ。
2024年は7つの重点テーマを設定。テーマごとに外部パートナーとの共創を進めている。
その1つが「企業データを活用した顧客分析」だ。「リスト作成」と「営業業務効率化」の2つの方向で進める。
リスト作成では、上場企業を中心に中期経営計画や有価証券報告書など、財務に関する膨大なデータを収集・分析し、「不動産を売却する可能性の高い企業」をリストアップしている。同時に、数年以内に不動産を売却した企業の財務諸表を分析し、共通する特徴を見いだしている。
例えば、総資産回転率を分析すると、不動産を売却した企業だけに見られる共通の傾向が現れる。「人の勘に頼る従来のやり方では、絶対に作れない企業リストが得られます。提案してみると確かに反応があり、効果を実感しています」(林氏)。
仲介事業のDXを推進
データ基盤で営業を強化
「デジタル戦略デザインラボ」では重点テーマごとに外部パートナーとの共創を進めてきた。このDXのパートナーの一つが、RESTAR(東京都港区)だ。不動産情報・地図情報を統合し、CRMとのデータ連携も可能なプラットフォーム「REMETIS」を提供している。
「当社が持つ情報とREMETISの不動産・地図情報を組み合わせることで、デジタルが苦手な営業担当者でも容易に使える基盤の構築を目指しています」(林氏)。
自社が持つ物件・投資家情報を外部データと掛け合わせ、地図情報と重ねる。不動産の購入ニーズと売却物件情報を一元管理し、より迅速かつ詳細なマッチングが可能になる
いま最も効果を上げているのは、不動産・地図情報と顧客情報の結合だ。
過去の売買履歴や預かり物件などの独自情報と、J-REIT/賃料/未公開取引/上場企業による不動産取引を含むREMETISの詳細なデータを掛け合わせ、地図情報に重ね合わせる。不動産の売り手と買い手を俯瞰し、より詳細かつ迅速なマッチングが可能になる。
「人の勘に頼っていた業務をデジタルで変革すれば、検索性の向上や営業の効率化、紹介漏れの防止など、大きな効果が得られます」(林氏)。
不動産業界のDXが本格的に動き出した。いち早く着手した企業は、すでに大きな競争力を手にし始めている。