「不動産業界はこの半世紀、他業種に比べて進化が少ない業界かもしれません」
そう語るのは東通グループ 共同代表 桜木氏だ。同グループは不動産の価値や役割を根本から見直し、既存の常識を塗り替えるような挑戦を続けている。自由な発想のもと、これまで不動産業界では“例外”とされてきた領域や大手が手を出しにくいニッチな市場に着目し、独自の戦略で新たなトレンドを生み出してきた。そこにあるのは「不動産をもっと自由に」という強い信念だ。
「例えば、家を借りるという身近な行為でさえ、実際には煩雑な手続きが多く時間もかかります。売買に関しても、『一生に一度の大きな買い物』という重圧がのしかかり、なかなか一歩を踏み出せない方も少なくありません。私たちは、こうした不自由さや“不動産とはこういうもの”という常識を見直し、もっと気軽に、もっと身近に不動産と向き合える世界をつくりたいと考えています。アイデアやテクノロジーの力で不動産にまつわる不自由さを取り除き、誰もが自由に暮らしをデザインできる社会を目指しています」
「東通グループの強みは、不動産大手や他社が注力しづらい領域に小回りを利かせて素早く挑戦できることです」という桜木氏。実際、同社は従来の枠組みにとらわれないユニークなプロジェクトを次々と手掛けている。
その代表例が、四谷坂町で展開する「オーダーメイド賃貸マンション」だ。通常、賃貸物件は間取りも内装もあらかじめ決められており、入居者は“与えられた空間”を受け入れるしかない。しかし同社はその常識に、住む人が本当に求めている空間を一緒につくることはできないかと発想を転換。現在は、入居希望者の要望を反映した内装や設備の仕様について進めていく方法を前向きに検討しており、より柔軟な住まいの在り方を模索している段階だ。まるで注文住宅のような自由度を賃貸という選択肢の中で実現することを目指している。このようなオーダーメイド賃貸は日本の賃貸住宅市場においてはまだ稀有な存在であり、従来の画一的な賃貸モデルとは一線を画す。「賃貸だから仕方がない」というあきらめを払拭し「賃貸でも自分らしい暮らしが叶う」ことを実証する意欲的な取り組みだ。

四谷坂町で展開するオーダーメイド賃貸マンション THE TOTSU YOTSUYA SAKAMACHI

THE TOTSU YOTSUYA SAKAMACHIで設置するマグネット付き壁で手軽に空間アレンジ

四谷坂町で展開するオーダーメイド賃貸マンション THE TOTSU YOTSUYA SAKAMACHI

THE TOTSU YOTSUYA SAKAMACHIで設置するマグネット付き壁で手軽に空間アレンジ
他にも、北品川で開発を進めているのは「大型犬と一緒に暮らせる賃貸マンション」だ。日本では、ペット可の物件であっても中型犬までに制限されるケースが多く、特に都心では賃貸住宅で大型犬と暮らすのが難しいのが実情だった。同社はこうしたニッチだが確かな需要に着目し、設計段階からペットとの快適な共生を前提にした物件づくりを進めている。

THE TOTSU KITA-SHINAGAWAで屋上ドッグランを設置
また、既存のオフィスビルを無人ホテルへと再生させた芝大門のプロジェクトも、同社ならではの柔軟な発想とスピード感を象徴する事例だ。築30年のオフィスビルの空きフロアを活用し、旅館業法のライセンスを取得しホテルにしたという。これは単なる空間の用途転換ではなく、「既存不動産の価値を再構築し、時代に即した形で生かし直す」という新たな資産活用の提案で、同社の戦略思想が反映されたものである。稼働率・収益ともに好調で、既存の想定収益を約30%も上回っているという。
「このようなホテル事業は、不動産大手や他社はなかなか手を出しにくい案件だと思います。我々のような小回りが利く企業だからこそ手掛けることができた。民泊施設と誤解されがちですが、しっかり旅館業の認可を受けています。我々の後に同じような取り組みを始めている会社もあるのですが、むしろ大歓迎です。我々がこうしたトレンドを作ることで、マーケット全体の意識を変革させたい。不自由を自由に変える先駆けになりたいです」

築30年のオフィスビルを無人ホテルへと再生させたTRUST VALUE 芝大門

THE TOTSU KITA-SHINAGAWAで屋上ドッグランを設置

築30年のオフィスビルを無人ホテルへと再生させたTRUST VALUE 芝大門
その他、東通グループでは独自性の高いプロジェクトやブランド展開を数々行っている。隈研吾氏やケン・コーポレーションとコラボレーションする「TOTSU PREMIUM シリーズ」では、都心のハイグレード層に向けた新たな住まいの選択肢を提案。白金台では150~300㎡の高級賃貸マンションを展開する予定だ。「このマーケットは小さいため、広い面積ゆえの空室リスクを懸念される方もいらっしゃいます。でも綿密に分析してみると、このセグメントは供給が少なかっただけで需要は非常に高いことがわかりました。リスクはありますが、そのリスクをいかに戦略的にカバーするかが私たちの腕の見せどころです」
今後はシリーズ展開を本格化し、都心の高需要・低供給エリアにおける新たな選択肢を提供していく計画だ。
2025年4月には、アセットマネジメント会社「東通アセットマネジメント株式会社」を設立。共同出資するアジリティー・アセット・アドバイザーズは、日本を含むアジア太平洋地域における豊富な実績を持つ資産運用の専門家集団だ。東通グループの海外投資家との強固なネットワークに対し、アジリティー・アセット・アドバイザーズの豊富な運用経験をかけ合わせることで、日本の国内不動産市場に新たな潮流を生み出そうとしている。合弁で誕生した東通アセットマネジメントは、不動産アセットマネジメント事業、不動産ファンドの運用に関する投資顧問業務、ファンドマネジメント業務、不動産仲介事業を展開。今後は宅地建物取引業免許の取得後、総合不動産投資顧問業、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業の登録を申請し、約2年後の投資運用業免許取得を目指すという。将来的には海外の投資家資金の受け入れやグローバルな資産運用の展開も視野に入れ、東通グループの事業領域をさらに拡大していく。

東通グループはアジアのみならず世界の投資家とつながるグローバルな運用会社を目指し、高度な不動産金融商品を市場に投入する方針だ。今後の展望としては、業界大手が気づいていない、参入できない隙間のマーケットを掘り起こし、開拓することで業界の活性化を進めるという。いずれは大手や中堅他社に対抗して都市再開発の一環に携わっていくことも視野に入れている。
「我々は投資ファンドではありません。総合不動産会社として、長期的に価値を提供していきたい」と桜木氏は力を込める。同社は、2030年までに運用資産3000億円規模へと拡大することを中期目標に掲げている。今後は不動産小口化商品を展開し、個人投資家を含む幅広い層へのアプローチを強化。さらに、複数プロジェクトを定期的に開発・供給する体制を構築することで、マーケットへの継続的な価値提供を図っていく構えだ。それを支えるのが、「プロップテック(PropTech:不動産×テクノロジー)」を活用したサービス設計と、ライフスタイル・投資スタイルの多様化に応える柔軟な戦略だ。例えば、災害時にドローンが物資を届ける未来や、空を飛ぶ物流が日常化する時代を見据え、建築設計の段階から着陸スペースや無人受け取りシステムの整備を構想。すでに都心で展開する無人ホテルではIoTを活用し、チェックインから清掃まで非対面で完結する仕組みを実現している。これらは単なる効率化にとどまらず、運営の柔軟性と利用者の自由度を高める新たな不動産価値の創出に直結する。
「不動産をもっと自由に」という新たな発想を展開する東通グループの挑戦。その先には、日本を代表する総合不動産会社として、都市再開発の主軸を担う未来像が広がっている。