EY新日本

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デジタル新時代の会計監査 AI導入でむしろ高まる会計士の役割

 デジタルテクノロジーの発達で、いくつもの職業が将来はなくなると予想されている。その中の一つに挙げられるのが会計士である。会計データの集計やリスクの発見は、機械任せで済ませられる時代が到来するとの見方だ。

 では、会計士を多く抱える大手監査法人の役目は終わってしまうのか。逆にAI以上に人の存在が重要になるとみているのが、EY新日本有限責任監査法人(EY新日本)の片倉正美常務理事だ。この7月1日に大手監査法人としては初の女性理事長に就任予定である。

 ここ数年デジタルへの業務移行を加速させているEY新日本。10年もしないうちに業務の半分はデジタル化すると説明する。その残り半分で会計士の知見や判断の重要性が増すと片倉氏はみている。新理事長として時代の変化にどう対応していくのかを語ってもらった。

 同じくEY新日本で、AIなどデジタル技術を監査業務に活用するための研究においてリーダーを務める市原直通パートナーに監査法人の将来の姿について話を聞いた。

労働集約型からの脱却 
新たなデータ分析に必要な「対話」

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――監査の計画から報告まで、すべてにデジタルを導入しようとしている意味は?

片倉 これまで監査の世界は労働集約型だったのです。デジタル化によって脱却するのが我々の目的です。キーになるのはデータです。データを血液にたとえると、監査のプロセスは血管のようなものです。体中に血管が張り巡らされていて、そこをスムーズに血液が通ることによって、体は機能していますよね。体の部位によって、血管の太さとか密集度は変わってくる。監査のプロセスにおいても、どこにITを集約して使わなければいけないのかを考えなくてはいけません。

市原 今後、監査をデータ中心に組み立てていこうと考えています。監査の流れにはいろいろなフェーズがありますが、例えばリスクを識別する際にデータが活用できます。これまでは、対象企業から得られる限られた情報をもとに業務の流れを理解し、監査人の経験や一定の仮説の下でリスクが高いであろう領域を特定し、「こういう資料ありませんか」と裏付け資料を依頼していました。デジタル化によりデータを中心にした監査では、まず全ての取引データや会社の内部プロセスに関するイベントログをもらい、網羅的に会社のフローを理解したり、不自然な取引を検知し、リスクを認識することができるようになります。現在、何千万という取引の中からランダムにサンプルを抽出しテストを行っていますが、よりリスクの高い取引に焦点を絞ることができるようになります。

――クライアント企業からすんなりとデータをもらえるものなのか

市原 データを監査法人に渡すとどういうメリットがあるかを伝える必要があると思います。「こういうデータがあれば、こういう分析ができますよ」と我々にとってのメリットだけではなく、クライアント企業にとっても、たとえば「いままで見えなかったリスクをあぶり出せる」などのメリットがあると理解してもらう必要があります。このために「wavespace™」というプレゼンテーションの場所を社内に作って、クライアントとの対話を進めています。

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片倉 これまでの監査で出していなかったデータを提供してもらうというのは、確かにハードルが高いですよね。ときには新たなシステム投資をしなければならないこともあって、実際にはなかなか難しいのですが、引き換えに得られるメリットを丁寧に説明して、双方がデジタル化を進めていくきっかけにしたいと考えています。

市原 たとえば、今月の売上げが10億円あったとしても、総勘定元帳でぽんと一つの仕訳で計上される場合もあれば、多数の仕訳が積み上がって10億円計上されている場合もあります。このとき補助元帳をみると細かい内訳や相手先、その債権の回収状況などが分かり、より詳細な分析ができるわけです。我々の利用するデータ分析ツールで読み込める形で、総勘定元帳だけでなく補助元帳のデータを提供してもらい多くの監査現場でデータ分析が広がるよう取り組んでいます。さらに、補助元帳に載る前の受注データや生産管理のデータ、さらには親会社だけでなく子会社の情報など多くのデータを入手できることで、実施できる分析の範囲と深度が広がります。

 データ分析を通じて、早目に異常点のアラートを出していくことで、クライアントに期末の決算でサプライズが発生するリスクも低くなると考えています。この早目の対応の積み重ねによって、投資家に早く確かな情報を届けられるようになれば、クライアントにとってのメリットも大きいと思います。

AIが定型業務を肩代わり
人に求められるのは本来の仕事

———デジタル化によるデータ中心の監査で会計士は必要なくなるのでは

片倉 確かにAIの導入で会計士の役割が終わると言われていますね。でも私は違うと思います。たとえばモノを売ったという事実に対して、売った先が本当に代金を回収できる相手なのか、引き渡した時点の状態は顧客との契約条件を満たしているのかなどによっても、売上を計上して良いか悪いかの判断が変わってくるのです。クライアントが置かれているバックグランドが異なったり、将来をどうみているかによっても会計処理は変わってきます。そのためAIだけで済ますわけにはいかず、会計士が関わらないと監査は完結しないものだと思っています。

 ほとんどの定型業務は機械に置き換わり、異常点を検出するというところもAIがやってくれるようになったとしましょう。それでも、出てきた異常点が本当に誤っているのかどうかの判断だとか、過去には想定していなかったことが起きたときに、いつどういう会計処理をすべきかといったことをクライアントと一緒に考えていくのが、会計士の仕事になります。つまり、デジタル化で会計士が必要なくなるのではなく、会計士本来のスキルを一番発揮できる環境が実現するということです。

データ・アナリティクスを利用したグループ監査の将来像

データ・アナリティクスを利用したグループ監査の将来像

 

――デジタル化はいまどの段階で、いつまでにどこまで置き換わるのか?

片倉 データによるグループ監査の将来像をまとめた図がありますので、こちらをご覧ください。現在のデジタル化率は10%。3年をめどに30%を目指していきたい考えです。その数年後には半分になると考えています。ここで注目したいのは、人の手による定型業務の割合が減っていくことです。

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———未来の会計士像は変わってくる?

片倉 当然違ってきます。求められる人材やスキルが変化しているのです。特にITの理解は必須ですね。データサイエンティストほどの知識はもちろんいらないのですが、AIを理解することは必要ですし、AIがアラートを発したとき、その意味するところを理解し、次のアクションを指示できるだけのITリテラシーが必要になってきます。

 EY新日本では、監査業務へのデジタル技術の応用の研究や開発をおこなっており、既にAIを監査に活用しています。また約5,500名の全メンバーに対するデジタル人材の育成にも取り組んでいます。次の表をご覧ください。

デジタル時代の人材育成

デジタル時代の人材育成

市原 デジタル関係に関する領域の教育プログラムがメーンです。それだけではなく、デザインシンキングや業種に関するトピックスといった、さまざまな領域で今後、会計士が知っておくといいと思われるものをそろえています。やる気がある人を対象に、オンラインで20時間~40時間で学習できるプログラムを多数用意し、その到達度によって、プラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズといった認定を与え、既に社内のモチベーションを高めていく取り組みをしています。

片倉 デジタル化を進めるからこそ、ますます人の役割が重要になってきます。ですから監査の品質を高めるためには、デジタル化に向けた投資だけではなく、教育投資も積極的に行っていきたいです。監査の未来は明るい。これからも監査を通じて資本市場に安心と信頼をお届けしていきます。

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