日経クロストレンドSpecial

生活者の「不満」を「価値」に変換した商品開発ストーリー 膨大な不満を独自の文章解析AIで可視化生活者のインサイトをあぶり出す

生活者の「不満」からマーケティング課題を明確化

杉本 実際に「不満買取センター」のデータを活用して、新商品を開発されたそうですね。

髙地 「ブレンディ®」の新タイプのスティックコーヒーとして開発した「ブレンディ® ロースターズ&」です。一般にスティックコーヒーは、クリーミングパウダーや砂糖が1本に詰まっていて、ちょっと甘いイメージがありますが、Insight Techさんから提供された不満データを見ると、「よりコーヒーの風味が楽しめ、本格的な味わいのスティックコーヒーがあってもいいんじゃないか」という意見が多かったのです。そこで、「甘さなし、ミルク少なめ」で、コーヒー本来の味が楽しめる商品として開発しました。

AGF Blendy ROASTERS& 4種

杉本 Insight Techは、味の素AGFにどのような分析データを提供されたのですか。

渋瀬 スティックコーヒーに関する800件近い不満の内容を「甘さ」「味わい」などスティックコーヒーの商品価値を構成する要素に分類しました。これにより、テキスト情報である不満の内容を定量的に把握することが可能となります。

 時系列で見た不満の変化や継続購入への影響度などから課題の優先度を判別した結果、「甘さ」「味わい」などが重要な課題であることが明らかになりました。

髙地 今まで何となく感じていたマーケティングの課題が数字として浮き彫りとなり、甘さをなくしたスティックコーヒーを開発しようということになりました。当社はスティック市場の約6割を押さえるリーディングカンパニーですが、新商品を積極的に提案すれば、まだまだ伸ばしていける市場だと思っています。

 本格的な味が楽しめる「ブレンディ® ロースターズ&」は、家庭だけでなく、オフィス向けにも訴求できるのではないかと考え、コロンビアやモカなどいくつかの味をアソートした商品をオンライン販売する取り組みも始めました。

多様な「不満」ビッグデータの中から有益な声を探索する

旨み泡立つ抹茶一服 2種

杉本 《「ブレンディ®」 抹茶一服》というスティックタイプの抹茶飲料も、Insight Techの不満データを基に開発されたそうですね。

髙地 2020年2月末に発売されたばかりの商品です。今まで抹茶ラテや抹茶オレといった甘いフレーバーのスティック飲料はありましたが、茶せんで立てたような、甘みのない本格的な抹茶にスティックで挑戦できないかということで開発しました。

渋瀬 このプロジェクトではお菓子やスイーツなどさまざまな「抹茶」に関する約5万件の不満を対象に、当社が保有する文章解析AI「アイタス」を用いて不満の内容を可視化するところからスタートしました。

 その結果から注目すべき具体的で有益な声をピックアップし、500件に絞り込みました。

 そして、この500件の不満データをリサーチャーが読み込み、商品開発に際して有益と考えられる背景情報やニーズなどをまとめ、具体的な商品アイデアを提案しました。

甘いお菓子と抹茶は混ぜないで!

不満買取センターに投稿された「抹茶」に対する不満の一例。投稿テキストからオケージョンや不満内容などを抽出したのち、抹茶への潜在的なニーズをまとめ、企業へ提案している

杉本 文章解析AIと人のハイブリッドで生活者の不満を理解してサービスを提供されているんですね。

渋瀬 「不満買取センター」はオールジャンルでさまざまな不満を収集しているので、多様な「抹茶」に関する不満が無数に存在していました。

 従来であれば人の目による絞り込みが必要でしたが、文章解析AIを用いることで効率的に有益な声を見つけ出すことができます。そこからリサーチャーによる解釈を加えることで、スピーディーに価値あるレポーティングを実現することができました。

髙地 まとめていただいたレポートの中に、和菓子を楽しむときに煎茶だともの足りない。かといって甘い抹茶ラテや抹茶オレだと台無しになってしまうという意見が多く含まれていたことが、《「ブレンディ®」 抹茶一服》を開発するヒントになりました。

杉本 一方で、Insight Techも「不満ランドスケープ」という新しいサービスを開始されたと聞いています。

不満ランドスケープのイメージ

不満ランドスケープのイメージ
個々の不満データは膨大なテキスト情報なので、全体像を把握することが難しい。そこでテキストに含まれるキーワードごとに辞書を整理し、俯瞰しやすくする仕組みを作り上げた

渋瀬 この《「ブレンディ®」 抹茶一服》のレポーティングをした経験・知見に基づいて生み出された新サービスです。

 サービスコンセプトは1500万件という膨大な生活者の不満(フマン)を俯瞰(フカン)することです。

 具体的には、マーケティング4Pや生活行動、利用シーンなどに関するさまざまな辞書情報を構築するとともに、不満投稿時の入力情報として時間帯などをアドオンすることで、生活者の不満をさまざまな軸でスピーディーに分析・理解することができるようになるサービスです。

 この「不満ランドスケープ」の多様な属性軸を用いることで、定量的に生活者の不満を可視化することが可能となり、不満の背景にあるインサイトを探索することや、時系列でモニタリングすることが容易となりました。

 直近では、新型コロナウイルスによる生活者の行動変化が指摘されております。そういったテーマへの活用を期待する声もいただいております。

杉本 新たなデータが次々と生まれる昨今、データを組み合わせ、分析してマーケティングを高度化する取り組みを、日経クロストレンドは「マーケティングDX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼び、注目しています。貴重な不満データを活用した商品開発もその1つとして、ますます広がりそうです。