日経クロストレンド SPECIAL

コロナ禍で知った“便利さ”を、生活者は手放さないデジタル時代の生活者を惹きつける
Eコマース戦略の極意

コロナ禍が消費行動のデジタル化を一気に加速した。企業は、デジタルとリアルが融合した新しい顧客体験を実現しなければ、ニューノーマルのビジネスで生き残れない。電通アイソバーと合併した新生・電通デジタルは、企業のこの課題解決にどう取り組むのか。デジタルマーケティング、Eコマースを知り尽くした2人のキーマンが、市場の変化を捉え、企業が進むべき方向性を語る。(聞き手:杉本昭彦・日経クロストレンド発行人)

SPECIAL INTERVIEW
船井氏 三橋氏 杉本
CHAPTER01

高まった生活者の期待値は、
今後も下がることはない

コロナ禍で小売業界は大きな打撃を受けると同時に、Eコマース(EC)への移行が急速に進んだ印象があります。業界の中に身を置かれる立場で、どう感じていますか。

皆さんご存じの通り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大によってデジタルコマースが一気に加速しました。個人的な話で恐縮ですが、あまりテクノロジーに詳しくない私の妻は、今ではファストフードのモバイルオーダーをごく当たり前に使っており、店頭で並んで買うことは、もはや想像できないと言っております。また、小学校低学年の娘でさえ、Uberでオーダーした品物がどこまで来ているのかをスマートフォンで確認できることを知っています。デジタルが、コロナ禍以前は利用していなかった層にまで、広く浸透したということを強く感じています。

この変化を顧客体験価値の視点から見れば、便利が当たり前になり、企業やブランドに対する生活者の期待値が引き上げられたということになります。そして、この期待値は、今後COVID-19が終息に向かったとしても下がらないでしょう。生活者は、一度手にした便利さを手放さないからです。企業はオンライン、オフラインの垣根をなくし、融合したサービスを提供しなければ、生活者をつなぎ止めることが難しくなると思います。

船井 宏樹氏
株式会社電通デジタル
ビジネスディベロップメント部
エグゼクティブソリューションディレクター
船井 宏樹
HIROKI FUNAI
小売企業でマーケティング業務経験ののち、マーケティングツールベンダーに転身し、コンサルタントなどに従事。組織変革まで踏み込んだ顧客体験改善のコンサルティング実績多数。2019年7月より電通アイソバーのエグゼクティブソリューションディレクターに着任し、現在に至る。

いわば生活者は、「強制DX」の世界を体験しています。これまで使ってこなかったデジタル体験を、すべての世代の人が必要に迫られて使い始めています。店舗からデリバリーへの移行を例にすれば、これまでは店舗のデザインや居心地の体験価値を向上させてきた企業は、ECを含め、なるべく接触を減らす中で何ができるのか、戦略を見直す必要が出てきています。

そうした中、企業にはどんな対応が求められているのでしょうか。

EC自体も、進化が必要です。これまでは、e-リテイリング、つまりオンラインの自動販売機のように、販売と決済の機能だけを持っているものが主流でした。しかし今後は、それ以上の体験が必要になってくると思います。

その際、安直にツールに頼るのは危険です。私はしばしば、最新の海外製ツールを導入して、それをマーケティングに活用していく、という提案をクライアント様に求められるのですが、この状況下では、最初はツールの話をしないほうがいいと思っています。というのは、生活者の行動が多様化している時代においては、部分的/断片的にツールを導入することは、必ずしも全体最適に結びつかないからです。どの接客チャネルを使って、どのような人に対してどういうメッセージを出すのか、まずはマーケティングの根本に立ち戻って、実行に向けたプランを定義していく必要があると思っています。

ある老舗日本料理店の社長の方は「当社のサービスは時代に合わせて変化してきた。だからこそお客様に、“昔から変わらないね”と言ってもらえる」と話されています。それを聞いてはっとしました。顧客との関係性はこれまでも変わってきましたし、企業もそれに対応してきました。今はそれがデジタルによる変化だということなのです。自分たちのサービスの本質は変えずに、デジタル時代にどう合わせていくかが、問われているのだと思います。

三橋 良平氏
株式会社電通デジタル
コマース部門 部門長
三橋 良平
RYOHEI MITSUHASHI
2001年電通入社。草創期からデジタルマーケティングのプランニング・実施に携わり、08年から、Eコマースシステムの立ち上げをはじめ顧客体験づくり、OMO化支援といったコマース領域における計画から実施までを担当。現在は顧客企業のコマース支援を担う部門を統括する。
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