2018年1月、すべてが変わった

2018年1月。大塚氏の姿はシリコンバレーにあった。

「ものづくりの考え方がガラリと変わりましたね。直感しましたよ。AIは、“インフラ”になるなって」

現地では、ディープラーニング向け半導体で世界随一と言われるNVIDIA、そして独SAPのシリコンバレー拠点などを、精力的に訪問していった。工場がAIで様変わりする未来をそこに見た。

帰国後しばらくして、大塚氏はイスラエルへ飛んだ。同国で先進的な技術を手がけるポリアキン・イノベーションの設立者、ラン・ポリアキン氏が代表を務めるSixAI社と一緒に合弁会社を作る交渉をまとめ、2019年4月にMusashi AIの設立を発表。大塚氏は自社工場の「2:6:2」を変革すると同時に、工場のAI化ソリューションを他社へ提供する戦略だ。

もっとも、こうした工場のDXを進めるうえで大きな課題もある。それぞれのデータが“孤立”していることだ。

武蔵精密工業が提供しているAI 外観検査装置

武蔵精密工業が提供している
AI 外観検査装置

「ドカ停は困るんです」

「ドカ停とチョコ停、って知ってます?」

大塚氏が記者に聞く。「チョコチョコ機械が止まるならまだしも、ドカーンとラインが止まるドカ停は、工場にとって最も避けたい事態なんです」

これまでは、総合的品質管理(TQM)において、予防保全という考え方でドカ停を回避してきた。工場内のデータが有機的につながればドカ停抑止につながる。そう大塚氏は考える。「個々の場所ではデータがあっても、全体がつながっておらず、データを生かしたものづくりになっていないのです」

どのラインで、どんな天候で、どういう材料を使ったら不良品が出たのか、といったデータが自動的に収集できるようになれば、逆に、そうした条件が重なった時は事前に手を打てる。それこそが、工場の競争優位につながるはずだ。こうした手法が完成に近づけば、「自動車に限らず、さまざまな大量生産モデルに応用できるはず」と大塚氏は見る。

武蔵精密工業の工場の様子

武蔵精密工業の工場の様子

「あの会社に入りたい」に向けて

採用にも良い影響が出ていると言う。大塚氏が言う。「ウチの本社がある豊橋は、トヨタさんのお膝元。かつては人材採用の競争力が弱かった。ところが、AIでDXを標榜しているうち、就職希望の優先順位が上がっていることを実感しますね」

激動の自動車業界。ものづくりという概念を根底から、そしてゼロから変えていくには、DXという選択肢以外を探すのは難しいのかもしれない。

武蔵精密工業株式会社
代表取締役社長・最高経営責任者

大塚 浩史氏

1993年7月武蔵精密工業入社。営業本部長などを経て、2006年5月同代表取締役社長に就任、現在に至る。

聞き手

インタビュアー
日経BP 総合研究所 主席研究員

杉山 俊幸

日経ビジネス副編集長、日経ビッグデータラボ所長、日経クロストレンド発行人を経て、2020年1月から現職。

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人員配置の「2:6:2」

日本ディープラーニング協会が
情報サイト「DL for DX (Deep Learning for Digital Transformation)」を公開

DL for DX

日本ディープラーニング協会はビジネスパーソンに向けて、ディープラーニングのビジネス活用をより理解してもらうために、「DL for DX」をテーマに情報発信を行う新サイトを公開した。コンテンツ第一弾はAI研究の第一人者である東京大学の松尾豊教授と、数々の企業でAIによるDX推進に取り組む野口竜司氏による対談。今後もディープラーニングを活用したDX推進事例のご紹介や、「データ×AI」のリテラシー習得に関するニュース、イベントのご紹介など、「ディープラーニングとは何か?」「ディープラーニングで何ができるのか?」を理解するための様々なコンテンツを発信していく。

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