新たなマーケティングテクノロジーが続々と登場する中、マーケティングを成功させる“不変の本質”はどこにあるのか。P&Gで数々のヒット商品を生み出した伝説のマーケター・和田浩子氏と、企業のマーケティングリサーチを支援するモニタス代表取締役社長・林秀紀氏に、日経クロストレンドの発行人・杉本昭彦が聞く。
マーケティングに関してはテクノロジーやソリューションのアップデートに追われがちですが、自戒の念も込めて言えば、変化だけに目を奪われていてはマーケティングの本質を見失いかねないのではという危惧を抱いています。マーケターはデジタル化に代表される新たなトレンドをどう捉えるべきなのか。P&Gで数々の商品のマーケティングを手掛けてきたお立場から、和田さんの考えをお聞かせください。
マーケターの役割は、エンドユーザーの従来の行動パターンをどう変えるかにあります。消費者にいかに新しい自社製品やサービスを知ってもらい、理解してもらい、好意を持って顧客になってもらうか。時代が変わろうと、person to person(人対人)の取り組みであることに違いはありません。
無論、環境が変われば、概念も変わり、人間の考え方もビヘイビア(行動)も変わりますが、その変化のサイクル、輪廻のようなものは変わらない。
その観点から、P&Gはブランドマネジャーであるマーケターが1つのブランドの育成の責任を負う“ブランドマネジメント”の手法を確立したパイオニアですが、創業から180年を超えても、根幹にあるDNAは変わりません。それが消費者起点に考え、行動するということです。
能や歌舞伎の“型”のようなもので、人によって少しずつ芸風に違いがあっても、何より重要な消費者理解に時間を割き、ブランドを大きくしていくための戦略を作り、実行していくという原理原則は変わらない。不変の型を会得してこそ、「変えなければならない」ことも見えてくるものだと思います。
日本企業においても消費者理解の重要性が浸透しつつありますが、マーケティングというと、まだ組織の一部門という位置付けで、外部のリソースに依存しているケースも見られます。
もちろん、市場調査などのメソッドについてはリサーチ会社や広告代理店などの外部リソースを活用すれば、いくらでもデータは手に入ります。しかし、リサーチをする大前提として「何を知らないといけないのか」を知る必要がある。そうでなければ、上司に承認を得やすいリサーチをかけ、都合の良いデータだけを採用するような本末転倒の状況にも陥りかねません。時に、「お金をかけてリサーチしても役に立たない」といった否定的な声が聞かれるのは、その前提が崩れているのも要因の一つだと思います。